上 下
15 / 32
Chapter1:名探偵と美少女と召使い

一つ目

しおりを挟む
 

「オレが気付いたこと…それは探偵も言ってる通り、二つあります」

「早速、お聞かせ願おうか」


…くそ、余裕ぶってるのも今のうちだからな。
絶対に化けの皮を剥がしてやる。


「一つは、もちろん真凛亜ちゃんの母親のことです。改めて、ハッキリと聞かせてもらいます。探偵は真凛亜ちゃんのお母さんの居場所を知っていますね?」

「・・・そうだね、YESとでも言っておこうか」

「ッ!…あっさりと認めるんですか」

「おや、意外かい?」

「……ええまぁ。てっきり、はぐらかされると思ってたんで」

「まぁそうしても良かったんだが…どうやらキミは確信を持って言っているようだったからね。私は無駄なことはしない主義なんだ」

「無駄なことだって…?」


オレは探偵を睨みつける。
…いちいち癪に触る言い方ばかりしやがって。


「おっと失言だったかな。それで?キミはいつ、そのことに気付いたんだい?」

「・・・それは、真凛亜ちゃんのおかげですよ」

「!真凛亜ちゃん?何でここであの子の名前が?」

「偶然、会ったんです。あなたと交番で別れた時に」

「ああ…キミがわけもなく走り去った後に、そんなことがねぇ…」

「で、でもそのわけもなく走り去ったおかげで、オレは真凛亜ちゃんに会えたんです!あれはけして、無駄なことではありませんでした!」

「あはは、無駄なことって言われたこと気にしてるの?」

「・・・ッ」


…これ、完全にバカにされてるよな…っ
それこそ気にしたら駄目なんだろうけど…やっぱり腹が立つ。


「…でも、変な話だよね。たしか真理亜ちゃんはお家に帰ったはずなんだけど」

「それはオレも驚きましたよ。まさか闇雲に走って行った場所が真凛亜ちゃんのお家の近所だったなんて、思いもしてなかったんで」

「え、キミ真凛亜ちゃんのお家に行ったのかい?」

「あ、いや…それはその…行ったというか、迷い込んだというか…っ」

「…ん?迷い込んだ…?」

「そ、それについてはノーコメントでお願いします!!」


実は迷子になってましたなんて、いくらなんでも言えるわけがない。


「まぁいいけど。それで、キミは真凛亜ちゃんと会ってどうしたの?」

「どうって…別に普通に話をしただけですよ。真凛亜ちゃんが言ってました。母親の話もそうですが…父親についても、ちゃんと教えてくれましたよ」

「!・・・なるほど。そういうことか。」


探偵の表情が変わる。
…どうやら少しは本気でオレの話を聞く気になったようだ。


「……何か言いたそうですね」

「私のことはいいんだ。それより、聞かせてくれないかな。キミが聞いた父親の話を」

「真凛亜ちゃんの父親は…もう一年くらいは外に出ていません。いわゆる、引きこもりです。それも並大抵なものではなく、人と話すことすらままならない重度なものです。…つまり、真凛亜ちゃんのご家族は母親は疾走中な上に、父親は引きこもりという…明らかにあり得ない状態にあります。だけど、真凛亜ちゃんは言ってましたよね?警察にはパパが捜索願いを出しているのに何の音沙汰もないって。」

「・・・」

「だからオレは思ったんです。そんな人がどうやって捜索願いなんて出したのかなって」

「……なかなかいい着眼点だとは思うけど、別にそれはそこまで難しいことではないんじゃないかな。今の時代、連絡の方法なんていくらでもあるんだよ?」

「あくまで可能性の話ですよ。それに、オレは別にこれだけの理由で確信を得たわけじゃありませんよ」

「じゃあ、どういった理由なのかな」

「…交番、ですよ。」

「!交番…?」

「最初は単にやる気がないのかなって、くらいにしか思っていませんでした。まぁだからこそオレは…その、あなたに対して馬鹿みたいに声を荒らげたりしたわけなんですが…っ」

「……それも、真凛亜ちゃんから聞いたんだね」

「!…はい。真凛亜ちゃんは明らかに保護されるべき対象です。だけど、現状されてないってことは、もちろんそれなりの理由があるということになる。…だから、オレは思い切って聞いてみたんです。お父さんのお仕事のこととか、ご飯のこととか…どうしているのかって」

「…それで?真凛亜ちゃんは何て?」

「お仕事については分かりませんでした。…けど、ご飯については教えてくれたんです。ご近所の人が持ってきてくれるって、それもただのご近所の人ではなくーー交番のお兄さんが持って来てくれるんだそうですよ。…それでオレは思ったんです。これは、探偵…貴方の仕業なんじゃないかってね」

「・・・ふふ、子供がゆえに…素直すぎるってのもなかなか罪なものだね」

「で、実際のところどうなんですか。」

「…ご名答。もちろんそれは私の仕業…と言えるね。でも、それがどうして母親のことと繋がるんだい?」

「ここから先はあくまで推測です。この時点で、少なからず貴方は警察と何かしらの繋がりがあることは明確です。だけどあなたは…真凛亜ちゃんの現状を知っているのにもかかわらず真凛亜ちゃんを保護しようとはしなかったッ!オレはここに大きな疑問を感じたんです。貴方は警察を動かせる立場でありながら、保護しなかった理由…それは一つしかありません。」

「・・・・・」

「…貴方は真凛亜ちゃんの母親について、都合の悪い何かに気付いてしまったんですよね」

「・・・・・・」

「ああ、もちろんこれは警察にとって都合が悪いのではなく、探偵…あなたにとって都合が悪かった。違いますか?」

「・・・・・・・」



探偵は何も答えようとはしなかった。
顔を伏せ、表情すらも見せようとはしない。

そして探偵は顔を伏せたまま、ゆっくりとした口調で次のことを言った。



「・・・・・召使いくん。」

「な、なんですか…?」

「……今度は二つ目の気付いたことについても、キミの見解を聞こうか」

「は?何でこのタイミングで…」

「……いいから、キミの思ったままのことを…言ってくれればいいよ」

「・・・分かりました」


まだ探偵の答えを聞けてないのが気掛かりだけど、オレにとっては好都合だった。

なんたって、オレが一番許せない理由は…この二つ目にこそ、あるのだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スマホ岡っ引き -江戸の難事件帖-

naomikoryo
ミステリー
現代の警察官・佐久間悠介が交通事故の衝撃で目を覚ますと、そこは江戸時代。 混乱する中、手には現代のスマートフォンが握られていた。 しかし、時代錯誤も構わず役立つこのスマホには、奇妙な法則があった。 スマホの充電は使うたびに少しずつ減っていく。 だが、事件を解決するたびに「ミッション、クリア」の文字が表示され、充電が回復するのだ。 充電が切れれば、スマホはただの“板切れ”になる。 悠介は、この謎の仕様とともに、江戸の町で次々と巻き起こる事件に挑むことになる。 盗難、騒動、陰謀。 江戸時代の知恵や人情と、未来の技術を融合させた悠介の捜査は、町人たちの信頼を得ていく。しかし、スマホの充電回復という仕組みの裏には、彼が江戸に転生した「本当の理由」が隠されていた…。 人情溢れる江戸の町で、現代の知識と謎のスマホが織りなす異色の時代劇ミステリー。 事件を解決するたびに深まる江戸の絆と、解けていくスマホの秘密――。 「充電ゼロ」が迫る中、悠介の運命はいかに? 新感覚エンターテインメント、ここに開幕!

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

無限の迷路

葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一人分のエンドロール

三嶋トウカ
ミステリー
 ある日俺【野元最乃-のもともの】は、一人の女性が事故死する場面に出くわした。 その女性の名前は【元伊織-はじめいおり-】といい、俺の職場のすぐ近くのカフェで働いている。 人生で一度あるかないか、そんな稀有な状況。 ――だと思っていたのに。  俺はこの後、何度も何度も彼女の死を見届けることになってしまった。 「どうやったら、この状況から逃げ出せるのだろう?」  俺は彼女を死から救うために『その一日が終わるまでに必ず死んでしまう彼女』を調べることにした。  彼女のために。  ひいては、俺のためにも。

処理中です...