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死にたがりオーディション
全貌
しおりを挟むー動揺。
今のオレにはその言葉がぴったりと当てはまった。
「…え、な…なに、…言っ…て、…?」
思わず声が震える。
「…だから、もういないんだよ?」
「え…いやいや…嘘、でしょ?ああ…オレが両親に言うなんていったから…怒って…。冗談で、…い、言ったんだよね…?」
「?冗談なんかじゃないよ。だって、資料請求したんだから。」
「??え、ご…ごめん…ますます意味が良く分からな…」
何でここで資料請求の話?
だめだ、話の流れが全く分からない…。
「…ああ、そっか。兎馬くんにはまだニページ目を見てなかったね…」
終夜くんは思い出したかのように、手元にある資料をめくって二ページ目をオレに見せて来た。
「ほら、ここ」
「…?」
終夜くんは二ページのある部分を指差した。
…そこには、赤文字でこう書かれていた。
【資料請求後】
「?」
頭に浮かんだのは、案の定それだった。
…そして、そのまま目線を下にずらしていくと…。
【資料請求後】
この度は、死にたがりオーディションの資料請求のお申し込み、まことにありがとうございます。
つきましては、後ほどご両親のご請求に参りますので今しばらくお待ちください。
「何、これ…」
「ほら、ここに書いてあるでしょ?」
「か、書いてあるって言ったって…普通、両親を請求なんて…」
「…信じてくれないの?」
「そ、そういう事じゃなくて!いきなりこんなこと聞かされてすぐに信じろって言われても…」
「あ…そっか。兎馬くんは僕のお父さんのお母さんの死体を見たわけじゃないもんね…じゃあ、ちょっと待ってて」
「…?」
終夜くんはそういうと、近くにあった鞄からスマホを取り出した。
「はい、これ」
「?」
そして、差し出されたスマホを見ると、そこには想像を絶するものが写っていた。
「ーーー!!!?」
…それは、一枚の写真。
メールで送られてきた来たのか、アドレスと一緒に一枚の写真が添付されていた。
その、写真には二つの…首。
男女の、生首が写っていた。
「うっ…!!」
…こ、これってもしかして…
「ま…まさかとは思うけど…ここに…写ってるのって、終夜くんのお父さんとお母さん…?」
「うん、そうだよ!請求に来た証として、メールで送ってくれたんだ。多分これって領収書みたいなものなんじゃないかな?両親を受け取ったことを証明…みたいな」
「…っ…」
淡々の話す終夜くんをよそに、オレは黙ることしか出来なかった。
「…これで、信じてくれた?」
もはやオレにとっては信じるなんて、そんな次元の話じゃなかった。
信じたくない。こんなこと信じたくなかったよ…ッ
ただ資料請求しただけで、こんなことになるものなの…?
「……こんなの…もし間違って資料請求しちゃったりしたらどうなるって言うのさ……」
独り言を言うかのように、そう小さく呟いた。
「あ、大丈夫だよ!そこはちゃんと電話で出来る様になってるから!ほら、塾だって前もって電話で聞いたりしたでしょ?」
だけどそれも、今の終夜くんにとってはなんてことないんだね。
平然と答えちゃうんだ。
「そう、だね…っ…はは…」
さっきから気になってたけど、なんで何かに例えようとする度に塾のことを前もって例に出すんだろう…?
きっと、頭の悪いオレのためにあえて分かりやすく伝えようとしてくれてるんだろうけど…今までの話を聞いて塾なんかの軽い話に例えていいものじゃないよ…。
…どうしよう。
いや、本当にこれからどうしたら良いんだろう。
ひとまずここまでの経緯を警察に話す…?
ーいや、それは駄目だ…。
そんなこと話したら終夜くんが警察に連れて行かれちゃうかもしれない…。
…それだけは絶対に嫌だ。
大好きな終夜くんを、親友を裏切るなんてこと…オレには出来ない。
「…っ」
だったら、オレが…なんとかするしかないよ、ね…。
「…もしかして、心配してくれてるの?」
「そりゃあそうだよ!親友なんだし、心配…くらいするよ…」
「そっかぁ…ほんと兎馬くんは、いっつも僕のことを心配してくれるよね…」
「そんなの、当たり前だよ…」
「…でも、でもね。両親は僕のことなんて一切、心配してくれなかったんだよ…」
心配してくれなかった…?
それは、終夜くんが今まで受けて来たイジメのことを言ってるのだろうか。
…オレは知っている。
だって、オレ達はそれがきっかけで仲良くなったんだから。
イジメがきっかけで仲良く…なんて、皮肉な話だけど。
「…だから、資料請求したの?」
「えっ?」
「だって、そうでしょ?このオーディションの資料請求にはこういう意味があるって知っちゃったから…終夜くんは利用しようと思ったんでしょ?」
「?違うよ?僕はただオーディションのことを詳しく知りたかったから、普通に資料請求しただけだよ。」
「へ…?じゃあ何で急に両親の話なんかーー」
「それは…兎馬くんに納得してもらうため…かな」
「…?どういう意味?」
「…あのね、元々僕は終夜くんにはオーディションのこと話すつもりはなかったんだよ。…キミを巻き込みたくたかったから」
「それ…前も言ってたよね?」
「うん…。でも、もしかしたらって気持ちもあったんだ。兎馬くんも僕とおんなじ気持ちかもしれないって…同じように死にたいって思ってるんじゃないかって…」
「じゃああの時言ってた思い込んでたっていうのも…」
「あはは…実はそうなんだよね。僕と同じなら…オーディションのこと知ってるかなって思ったから…」
「そう…だったんだ。」
ああそうか、ようやく全ての合点がいった。
時折見せる遠くを見る虚ろな目も、意味深な台詞も、全てはここに繋がっていたんだ。
「…ッ」
本当にオレは馬鹿だ。
一番大事なことに気付いてあげれなかった。
終夜くんが、死にたいって思ってるってことは、
それほどまでに追い込まれていたってことじゃないか。
…こんな怪しいオーディションに資料請求してしまうくらいに。
「…ごめんね…」
「え…!?何で兎馬くんが謝るの!?」
それは、思わず出た言葉だった。
気付いてあげれなかった。後悔の言葉。
親友のSOSにもっと早く気付いてあげれば…こんなことにはならなかったのかも知れないのに。
「やめてよ…僕は別に兎馬くんに謝ってもらいたくて、こんなこと話したわけじゃないのに…」
「じゃあ何で今になって話してくれたの?わざわざ家に呼んでまで…」
「ん?だって親友がここまで心配してくれてるのに、それを無下に出来るほど僕は薄情じゃないよ。だって、本当に嬉しかったから…兎馬くんを信じてみようって思ったんだ。」
「…終夜くん…っ」
…正直、終夜くんの好意は純粋に嬉しかった。
いくらあんな写真を見たところで、オレの中にある終夜くんの想いは変わらない。
それが分かっただけでも良かった。
親友だからこそ、これからも親友でい続けるためにもーー
…こんなこと、止めさせなきゃ。
「…ッ…終夜くんの気持ちはわかった。納得もした。…だけど、やっぱりこういうのは良くないよ」
「え…な、何で?」
「何でって…人が死んでるんだよ?こんな、生首の写真なんて送ってきてさ!!こんなの、許されていいはずがないよ!!」
「…だから何?警察にでも言うつもりなの?」
「け、警察には言わない…。親友を警察に突き出すなんて…オレにはできないから…っ」
「ふふっ本当に心配性だね、兎馬くんは…」
「…っ」
また、笑ってる…。
どうして?
いくら資料請求のことがあったとはいえ、実際こんなことが起こったら普通少しくらいは戸惑うものなんじゃないの…?
そういえば…オーディションの話をし始めて時から、良く笑っていたような気がする。
…別に笑うような場面でもないのに、なんてことないみたいな顔して笑うなんて…。
「…さっきから変なタイミングで良く笑うよね」
「え?そう…かな?」
「そうだよ!こっちは真面目に話してるんだから…ちゃんと聞いて欲しいのに。」
「ご、ごめん。だって、終夜くん。さっきから挙動不審なんだもん。僕のこと心配している割には慌てたり、驚いたり、戸惑ったりして…。そんな心配することなんか何もないのに」
「な、何もない?」
「うん、さっきからこれはオーディションだって説明してるのに、写真にばかり気を取られてるから…。資料にだって、そう書いてあるよ?」
「ま、まさかそんなことーー」
言われて、すぐさま資料に目をやった。
今まで見たページは、
一ページ、二ページ、…そして、最後の五ページ。
とはいっても、最後のページは見開きになっていたので実質四ページ目はないものとなる。
…ということは、残るラストのページはーー
「…三ページ目を開いてみて」
終夜くんに言われずとも、開くべきページはわかっていた。
すかさずオレは三ページ目を開く。
【ご両親請求後】
このオーディションは国家公認のオーディションのため法は一切関与しないものとする。
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