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死にたがりオーディション
日常
しおりを挟む教室に着くと、空気が変わるのが分かった。
「…ッ」
嫌だなぁとは思いつつも入らないわけには行かない。
今日は何をされるんだろうと、オレはしぶしぶ自分の指定の席に座った。
…すると、オレが座るのを待ち構えていたのだろうか。
後ろから何かが飛んできて、オレの後頭部に直撃した。
「…いたっ…」
痛みはなかった。
けど思わず口に出していた。
飛んできたものーーそれは、床に転がる丸まったプリントを見れば一目瞭然だった。
ああ、そうか。今日はこれか。
…大丈夫、こんなのはいつものことじゃないか。
オレは自分にそう言い聞かせた。
いやそう言い聞かせるしか自分を納得させる手段がなかったんだ。
これがオレの日常、変わらない日常。
「…」
そして、オレはそのまま無言で今日の授業の準備をし始める。
学校や塾でのいじめなんて、大したことはない。
だってオレには終夜くんがいるのだから。
この塾も終夜くんと一緒だからオレも通うことが出来る。
それだけでオレはこんなにも救われた気持ちになれる。
終夜くんがいなければ、今のオレはいない。
それくらいオレにとって終夜くんは絶対的存在なんだ。
だから、だからこそオレは…終夜くんが何にも言ってくれないことが、何よりも辛い。
いじめ自体は日常だと思うことは出来ても…終夜くんのことは、こんなのが日常だなんて思いたくないよ。
オーディションのこと…やっぱり教えてくれないのかな。
「…はあ」
そうやって頭を抱えていると、またもや頭に何かが当たった気がした。
「…?」
今度はいたっなんて言葉は出なかった。
…?なんだろう。何か当たった気はしたんだけど、それらしきものは床に転がってはいない。
不審に思い辺りを見渡す。
「!あれ…」
教卓の下に、紙飛行機が不自然に落ちていた。
…まさか、わざわざ作ってオレめがけて飛ばしたとか?
「…!」
背後からのクスクス声。
どうやら当たりらしい。
…ほんと、何が面白いんだか。
いちいち気にしてても仕方ない。
そろそろ授業も始まるし、課題の準備でもしよう。
終夜くんのことは気になるけど、こんなんじゃ調べる余裕すらない。
やっぱり、直接本人に聞かなきゃ。
「…よし」
そう意気込んだ途端、勢いよく教室の扉が開かれた。
ざわつきもクスクスと笑う声も一瞬にして無くなる。
今日の講師の人が来たからだ
…教室に足を踏み入れた矢先、その講師はあるものに向かって歩き出した。
「(あ…っ)」
オレは心の中でハッと気づく。
そして、目的の場所に着くとそこからある物を拾い上げた。
…紙飛行機だ。
講師は言った。
この紙飛行機は誰のだと。
けど皆が皆、答える人はいなかった。
そこまで痺れを切らしたのか、講師は紙飛行機をおもむろに分解し始めた。
おそらくはその紙飛行機が単なるプリントから作ったものだと分かったため、中を見て名前がないか確認をしようとしてのことだと思う。
けど、そこには名前などはなくーーとある文章が黒の文字で記載されていた。
【死にたがりオーディション、参加者、募集中】
それはまさにオレにとっても、タイムリーな出来事だった。
けどそれはあくまでオレにとっては、の話だった。
オレ以外、そうクラスメイトは何も知らないといった様子だった。
それはもちろん講師もそうであり、単なるイタズラであろうと判断した。
そして講師はそのまま元紙飛行機だったプリントを丸めてそのままゴミ箱に捨てると案の定、何事もなかったかのようにそのまま授業を開始した。
「……」
そう誰も気に留めていなかった。
おそらく、あの紙飛行機を作ったであろうクラスメイトの誰かも気に留めてなどいないんだ。
…本当にイタズラにしては、度が過ぎてるよ。
気になることがまた増えたけど、今はとにかく授業に集中しなくちゃ。
「…がんばらなきゃ」
オレはそう小さく呟いた。
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