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第1章 伝説の幕開け

レイファ・シック・ウォートン、その3

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 辺りはもう暗くなってきていた。彼は万が一にも私とはぐれないよう手を繋ごうと提案してきた。
 おそらく、彼は私のことを心配してくれているのだろう。その気持ちが私は嬉しくて仕方がない。

 私たちは、他愛もない話をしながら日が暮れる前に少しでも下山しておこうとしていた。
 
 彼の名はアイク・フォン・ドラグレンというらしい。
 彼に相応しく、強くて響きの良い名前だ。

 嫌っていると誤解されるのも嫌なので私は勇気を振り絞って努めて明るく話すようにした。

 色々と考えながら話をしていると、私のお腹から空腹を知らせる音が鳴ってしまった。
 腹の虫が鳴いたのだ。

 女の子というものは、お腹が鳴ってるのを他の人に聞かれたくないのだ。
  ましてや、好きになったひとの前だなんて……私は恥ずかしくて死にそうだった。

 彼は私が必死に誤魔化そうとしているのに面白がって

「今のはさすがに無理があるだろ。近くの川で魚を取って焼いて食べよう。」
と言ってきた。
私は恥ずかしさのあまり怒って、その場を走り出してしまった。
 しかし、空腹の身ではあまり動けない。
数分走ったところでバテて止まってしまった。
 
 彼はすぐに追いついてきて困ったような顔をしながらも、あまり攻めることをしなかった。

 そして、一緒に手を繋いで歩こうと提案してきたのだ。

 絶対にはぐれないため、だそうだ。

 彼はふと周りの様子をキョロキョロと散策しはじめた。

 辺りは走っている間に空は真っ暗になってしまった。彼の表情から察するに、どうやら遭難したらしい……
 彼は私を脅かさないために、遭難していることをふせているが、一目瞭然いちもくりょうぜんだった。

 サバイバル生活をする上でまず大切なのは拠点と食料の確保だ。
 彼は一瞬のうちにたきぎに火をつけ灯を作り出しました。
 その後、食糧となる魚を探すため手を繋ぎながら川を探しにいくのです。 

 5分ほど経ったところで、川が見つかった。これで水源確保だ!
 そう思った矢先、草をかきわける音が聞こえてきた。

 野獣の群れだ。しかも今までよりも立派な野獣が多く、数も多くなっている。

 それに加え今は夜だ。それは野獣に圧倒的有利な時間帯だ。
 彼も危険を察知して逃げることに決めたらしい。

「眼をつむれ!」
彼がそう言った途端まぶた越しでもわかるほどのまばゆいヒカリが放たれた。

 目眩めくらましの魔法である。

 私が眼を開けた頃には野獣の方位を抜け出しており、頭が1つ切り落とされていました。

 彼は素早く追ってくる野獣共の攻撃を必死に避けながらささやかな反撃をしています。
 私は彼の荷物になっているだけ……とても悔しかったです。

 考え事をしていたせいか、私は少し飛び出た石につまずいてしまいました。

 転倒……この隙を見逃すほど野獣は優しくありませんでした。
 襲い掛かってきた野獣の牙から私を救うため、彼はその身を盾にしてかばってくれました。

 彼はなんとか野獣の牙を抜きますが、なかなかに深い傷を負ってしまいました。

 彼はその負傷した腕で私をお姫様抱っこしました。手を繋ぎながら一緒に走るより速く走れるから、だそうです。

 様々な傷を負いながらもようやく薪のある拠点に戻ってきました。
 いよいよここから彼の猛反撃が始まるのです。




 
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