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日曜夕方6時、君の死に様
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『続いてのニュースです、今日未明○○ホテルで歌手で女優の宮田有咲さんが倒れているのが発見されました。近くの病院に搬送されましたが、宮田さんの死亡が確認されました』
「え……アリィが……?」
思わず声に出してしまっていた。
キッチンで料理の準備をしていた母が私の声に反応して聞いた"そうだよ、知らなかったの?"という声も遠くに聞こえる気がした。
アルバイトを終えたばかりの蕩けた脳みそに嫌でも流れ込んでくるキャスターの淡々とした声に、心臓をヤスリがけされているようだ。
気分が悪い。
見知らぬ人の死をここまで淡々と話されるといっそ清々しささえ覚えるぐらいだ。
宮田有咲
彼女は空っぽで平凡な私が非凡を気取りたいがために好きでもあり、同時に嫌いだった人たちのうちの1人だった。
たまたまいいな思った曲を彼女がカバーしていて、それを聞いて彼女の声が好きだと平凡な思考回路がそう叩き出した。
歌えば知らない人たちからの賞賛と嫌悪を一身に受けるその才能と、年齢よりも幼く思えてどんな服装でも似合ってしまうであろうその容姿が好きでもあり、嫌いでもあった。
でも、もういないのか。
どこを探しても、彼女はもうどこにもいないのか。
かすかな寂しさと同時に私の頭の中でとある考えが風船が弾けるみたいに突発的に私の思考を支配した。彼女の死は自分の欲求を満たすためのきっかけになるんじゃないかと。
途端に吐き気がした。
私は今何を思った?!人の死を自分の自己満足のために利用する?
自分で自分が理解できない。
いやむしろ理解した途端に、私は自分の存在を消してしまいたくなると思う。
だから考え事を無理やり頭から追い出すために、無意味な動画で頭をいっぱいにすることに集中した。
頭から考え事は追い出せたけど、どんな動画を観ても何一つ楽しいと思えないのは、アリィの死が思った以上に私にとって大きな傷だったんだろう。
{セディ:アル、大丈夫?}
何をもたらすとも限らない恐ろしく無意味な動画達で頭を満たしていると、家族の中ではおそらく私しかやっていないSNSからチャット通知が飛んできた。
相手はそのSNSで知り合ったセディ。
多分、生物学的には男性。
SNSのアイコンが男の子だから、多分男性。
{アルゴンキン:"大丈夫"って元は大男のことを指す言葉なんだけどな}
{セディ:マジで?!って、それこの間も言ってたじゃん( ̄▽ ̄;)}
{アルゴンキン:セディが覚えてないのかもしれないと思ってね(´・∀・`)}
{セディ:( •́ω•̀ )なめてんのか?覚えとるに決まっとるじゃろ( ^ω^)}
最高にかわいくない返事だけどセディは気にする素振りひとつ見せない。
本当のところ気にしているのかも知れないけど、お互い画面の向こう側の人間。気にするだけ無駄な気がするのはきっと私だけ。
{セディ:めっちゃ脱線したけど、本当に大丈夫なんか?好きだったっしょ?ミヤタアリサ}
タイプしようとして、躊躇った。
文字にした途端に、何かを自分の世界からdeleteして新しく組み上げてしまう気がした。
そんな私のセンチメンタルを他でもない私がかき消していく。
{アルゴンキン:どちらかと言えば好印象だった、が正解。ファンと呼ばれるのも烏滸がましいような推し方だったけどね}
{アルゴンキン:それに、彼女もそんな奴をファンとは呼ばないでしょ……何してたかほぼ知らないし}
言い訳がましい連投をしてしまったと、後悔してももう遅い。
零点何秒かでセディはチャットに既読をつけてしまう。
{セディ:アルが好きになった人たちって、そんなに心狭い人たちなの?}
{セディ:ファンだからってなんでも知らなきゃいけないなんてルールなくない?}
画面にセディの返信が表示された途端、私の頭は怒りと恥で真っ赤になって真っ白になって何も考えられなくなった。
私が好きになった人たちの心のキャパシティ?知るか、会ったこともない、一方的に好きになって勝手に興味無くして、勝手にまた好きになってを繰り返すような最低な私が彼らの心のキャパシティなんぞ分かるわけが無い。
ましてや、セディにだって分かるわけが無いだろうに、あたかも代弁者のように振舞われると恥ずかしさと怒りで何も言えなくなってしまう。
セディの言葉は正しいんだろう、多分。
正しい気がするから、傷つけられた気がする。
{アルゴンキン:何がわかるの?}
自分でもびっくりするぐらい冷たい文面。
これ以上打ったらダメだと私は解るのに私はそれを良しとしない。
{アルゴンキン:私の事、チャットとたまの投稿内容しか知らないセディに、何がわかるっていうの?}
{アルゴンキン:私の声も、顔も、本名も知らないくせにわかったようなこと言わないでよ}
突き放してしまった。
必要な友達を、自分の身勝手な羞恥心と怒りで突き放してしまった。
私に本当に必要な人だったのに。
セディの返信を待たずにアプリを終了させ、また動画の海に潜り込んだ。
今は何も考えたくない。
"アルゴンキンから私に戻りたかった。
アルゴンキンは私が宇宙を漂うために用意した名前だ。
だから、私であって私じゃない。
日本という小さい島国の一部で、若さを浪費して生きる真藤理子であって私じゃない。
「え……アリィが……?」
思わず声に出してしまっていた。
キッチンで料理の準備をしていた母が私の声に反応して聞いた"そうだよ、知らなかったの?"という声も遠くに聞こえる気がした。
アルバイトを終えたばかりの蕩けた脳みそに嫌でも流れ込んでくるキャスターの淡々とした声に、心臓をヤスリがけされているようだ。
気分が悪い。
見知らぬ人の死をここまで淡々と話されるといっそ清々しささえ覚えるぐらいだ。
宮田有咲
彼女は空っぽで平凡な私が非凡を気取りたいがために好きでもあり、同時に嫌いだった人たちのうちの1人だった。
たまたまいいな思った曲を彼女がカバーしていて、それを聞いて彼女の声が好きだと平凡な思考回路がそう叩き出した。
歌えば知らない人たちからの賞賛と嫌悪を一身に受けるその才能と、年齢よりも幼く思えてどんな服装でも似合ってしまうであろうその容姿が好きでもあり、嫌いでもあった。
でも、もういないのか。
どこを探しても、彼女はもうどこにもいないのか。
かすかな寂しさと同時に私の頭の中でとある考えが風船が弾けるみたいに突発的に私の思考を支配した。彼女の死は自分の欲求を満たすためのきっかけになるんじゃないかと。
途端に吐き気がした。
私は今何を思った?!人の死を自分の自己満足のために利用する?
自分で自分が理解できない。
いやむしろ理解した途端に、私は自分の存在を消してしまいたくなると思う。
だから考え事を無理やり頭から追い出すために、無意味な動画で頭をいっぱいにすることに集中した。
頭から考え事は追い出せたけど、どんな動画を観ても何一つ楽しいと思えないのは、アリィの死が思った以上に私にとって大きな傷だったんだろう。
{セディ:アル、大丈夫?}
何をもたらすとも限らない恐ろしく無意味な動画達で頭を満たしていると、家族の中ではおそらく私しかやっていないSNSからチャット通知が飛んできた。
相手はそのSNSで知り合ったセディ。
多分、生物学的には男性。
SNSのアイコンが男の子だから、多分男性。
{アルゴンキン:"大丈夫"って元は大男のことを指す言葉なんだけどな}
{セディ:マジで?!って、それこの間も言ってたじゃん( ̄▽ ̄;)}
{アルゴンキン:セディが覚えてないのかもしれないと思ってね(´・∀・`)}
{セディ:( •́ω•̀ )なめてんのか?覚えとるに決まっとるじゃろ( ^ω^)}
最高にかわいくない返事だけどセディは気にする素振りひとつ見せない。
本当のところ気にしているのかも知れないけど、お互い画面の向こう側の人間。気にするだけ無駄な気がするのはきっと私だけ。
{セディ:めっちゃ脱線したけど、本当に大丈夫なんか?好きだったっしょ?ミヤタアリサ}
タイプしようとして、躊躇った。
文字にした途端に、何かを自分の世界からdeleteして新しく組み上げてしまう気がした。
そんな私のセンチメンタルを他でもない私がかき消していく。
{アルゴンキン:どちらかと言えば好印象だった、が正解。ファンと呼ばれるのも烏滸がましいような推し方だったけどね}
{アルゴンキン:それに、彼女もそんな奴をファンとは呼ばないでしょ……何してたかほぼ知らないし}
言い訳がましい連投をしてしまったと、後悔してももう遅い。
零点何秒かでセディはチャットに既読をつけてしまう。
{セディ:アルが好きになった人たちって、そんなに心狭い人たちなの?}
{セディ:ファンだからってなんでも知らなきゃいけないなんてルールなくない?}
画面にセディの返信が表示された途端、私の頭は怒りと恥で真っ赤になって真っ白になって何も考えられなくなった。
私が好きになった人たちの心のキャパシティ?知るか、会ったこともない、一方的に好きになって勝手に興味無くして、勝手にまた好きになってを繰り返すような最低な私が彼らの心のキャパシティなんぞ分かるわけが無い。
ましてや、セディにだって分かるわけが無いだろうに、あたかも代弁者のように振舞われると恥ずかしさと怒りで何も言えなくなってしまう。
セディの言葉は正しいんだろう、多分。
正しい気がするから、傷つけられた気がする。
{アルゴンキン:何がわかるの?}
自分でもびっくりするぐらい冷たい文面。
これ以上打ったらダメだと私は解るのに私はそれを良しとしない。
{アルゴンキン:私の事、チャットとたまの投稿内容しか知らないセディに、何がわかるっていうの?}
{アルゴンキン:私の声も、顔も、本名も知らないくせにわかったようなこと言わないでよ}
突き放してしまった。
必要な友達を、自分の身勝手な羞恥心と怒りで突き放してしまった。
私に本当に必要な人だったのに。
セディの返信を待たずにアプリを終了させ、また動画の海に潜り込んだ。
今は何も考えたくない。
"アルゴンキンから私に戻りたかった。
アルゴンキンは私が宇宙を漂うために用意した名前だ。
だから、私であって私じゃない。
日本という小さい島国の一部で、若さを浪費して生きる真藤理子であって私じゃない。
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