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パラノーマル・アクティビティ方式

5:どうにかなるんじゃね?知らんけど

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「で?」
 お店からの帰り道、時計は深夜2時の丑三つ時を指している。
 さすがに歓楽街とはいえ、ボチボチお店を閉めて家路に着く人も見掛けるような、そんな折にルキアモードから龍太郎モードへ移行した連れが唐突に話しかけてきた。

「でって何が?」
「あのUSBを返すにしてもの話、アンタのファンなんでしょ?AgerのRIKUTO。ガッカリさせるんじゃない?」
 何も映ってなかったけども?気のせいじゃね?なんて言ったら、なんてまだ見ぬ私のファンを心配する龍太郎はやっぱり優しい。
 でも私のマネは死ぬほど似てないって言ったら拳骨食らった。やっぱ優しくない。

「イテテ、頭蓋骨ヒビ入ったぁ……あ~、多分大丈夫だよ。少なくともRIKUTOはガッカリしないと思う」
「そう?てかアタシの拳骨にそこまで威力は無いわよ。手加減したし」
「アレで!?てかさ今日店に呼ぶほどの奴が憑いてたんでしょ?どんな奴だった?」
 少々強引だなとは思ったけど、まあ幽霊は気になる。だから仕方ない!

「ん~?『アタシ、アンタを愛してる。ずっとずっと愛してる。死んでも愛してる。他の女がいようが構わない。だってアンタは必ずアタシのところに戻ってくるでしょ?だからアタシはずっとずっと待っててあげる。だってアタシ程アンタを愛せる女は他にいないでしょ?』って感じでずぅっとアンタに話しかけてたわよ。相手が聞いてても聞いてなくてもどうでもいいって感じのタイプだったわね」

 龍太郎が見た幽霊ちゃんはどうやらとんでもないタイプだったらしい。
「そう言うのをめんどくさい自己中ヤンデレ、もしくはめんどくさい自己中メンヘラか、人生経験浅すぎる勘違いバカって言うんだろうねぇ。道理で気分悪かった訳だ」
「アンタの場合、霊障?じゃなくて徹夜による寝不足でしょうが、どう考えたって」

「でもああいうのって誰でもなりそうじゃない?人が死ぬ気で恋したとか、バカみたいに全て捨てても良いやって感じで愛しちゃったとか」
「そう言うのは死ぬ気の恋じゃなくて、周りが見えてないって言うべきなんじゃない?どっちにしろ相手の事をここまで愛せるアテクシに酔ってるんだと思うよ」
 それが本当の愛、運命だって信じてるからね。破滅しかないってのに。
 そう言った私の顔をチラっと見てすぐに龍太郎は顔を逸らした。

 私達にはあまりにも心当たりがあり過ぎたからなのかも知れないけど、その心当たりを探ろうとはしない。
 詮索しない方がお互いの為だと私達は痛いほどわかってるから。

 次の日、私は前日と同じように昼前に起きて、龍太郎にドヤされながら支度して、とある場所に向かった。
「なんで晴れてんだよ……クソあぢぃ……」
「晴れてるのに文句言う人初めてですよ」
「はいはい、日傘差しなさい。少しはマシになるわよ。シミ対策も兼ねてるし差しときなさい」
「手に荷物あんまり持ちたくないんだけど……」
「それでもキッチリ差してんのは誰よ」

「用意いいんですね」
「この子雨の時もこんな感じで文句言うから、慣れよ、慣れ」
「両手はなるだけ空けときたいんだよ……」
「何に備えてんですか……」
「聞いてもムダよ。どうせバカみたいなことしか言わないんだから」

 サラッと袴田さんと龍太郎がタッグを組んでるけども、気にせず人生で2番目に嫌いな日傘を差しながら歩いてると、目的地に辿り着いた。

「着いたよ、袴田さん。ここが本日の目的地。画像解析専門業者"フォルセティ"です!」
「おお、会社名のフォルセティって?」

「北欧神話における司法の神、アース神族の1人でバルドルって神とナンナの間に産まれた神。正義、平和、真実を司る神の名前だから、マイナーな神様だけどネットの海を漂う無数の嘘もフォルセティの力を借りて真実を見抜こうってことでつけたんだって」
 ここの会社の社長さんが北欧神話を大学で研究してたらしくてと私が言うと袴田さんは納得したように頷いた。

「アタシの店の常連がここの職員でね、この子に届いた映像やら、写真やらを解析してもらってるのよ。本物だったらこの子が小説にして、偽物だったら捨てるって感じでね」

 袴田さんは"いつも完璧な原稿の謎が解けた気がします"と言い、建物をキョロキョロと興味深そうに見渡していた。
 私や龍太郎は、ちょこちょこ来てるから慣れたけど、袴田さんは2ヶ月ぐらい前に担当になったからまだ連れてきていなかったなと思い出し、好きにさせた。

「茅ヶ崎すわぁーん!こんちゃー!」
「うるさいわよ、勇魚」
「いさちゃん!ルキアママ!どうしたの?久しぶりじゃん!」
「動画解析お願いしにきたー」
「なるほどね。いいよ、他でもない、いさちゃんとママのお願いだからね☆ところでそちらさんは?」
「私の新しい担当さんの袴田さん。ちなみに既婚」
「そこはどうでもいいでしょ。初めまして白鳥出版編集の袴田百代です」

「こちらこそ初めまして、フォルセティ画像動画解析課ディープフェイク解析係の茅ヶ崎です」
「ディープフェイク解析係?」
「新しく導入された係でね、技術が進化するにつれて巧妙なディープフェイクが横行してきたことを危惧した社長がね」

「ディープフェイクって何ですか?」
「一見本物のように思える何重にも丁寧に編集された動画や画像のことです。技術は日々進化してますからそう言う簡単にバレないフェイク動画や画像が簡単に編集できる日も近いかもしれないので」

 袴田さんと茅ヶ崎さんの名刺交換が終わった後、ようやく本題のUSBを渡した。
「動画データは4時間、編集されたと思しき部分が30分から1時間半辺りまで。他が……多分本物?」
「なるほどねぇ、今回は編集された部分の元動画発掘する感じ?」
「それと、後半2時間の解析もお願いできる?」
「誰だと思ってんの?茅ヶ崎さんだぞ?」
 茅ヶ崎氏は斉藤さんだぞ、的にジャケットを広げて見せたけども……

「古いわね」
「古いね」
「基本1日中引きこもってんのは、いさちゃんも同じでしょうが!」
 龍太郎と私の一斉攻撃にあえなく撃沈するのであった……

「とりあえず、3日もあれば解析は終わるから。終わったら連絡する」
「直接店に来てもいいのよ?」
「仕事が立て込んでて多分もうしばらく行けそうにないかな」
「ディープフェイク動画そんなに増えてるの?」
「あぁ、それが原因で自殺したり、炎上して逮捕されたり……悪いやつが多くなる一方だよ」

 そう言えば何年か前にそんなドラマが深夜帯に放送されてたような、と遠い記憶と成り果てたいつぞやのドラマを思い出そうとしている間に話がまとまった様で帰ろうと声をかけられ、研究所を後にした。
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