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狼男と人魚と吸血鬼 編
7 正式にエサになる【1】
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水の冷たさが体力を奪っていく。
「みんながごはんに困ってる中で、きっとキミは神様がくれたご褒美だね。ありがとう、ありがとう!」
やけに濃厚なキスをされるので口を引き結んでいたら、首を絞められた。
彼の手を掻きむしるが大した抵抗にもならない。
俺が顔色を赤くしたり青くしたりしている最中、ロコは饒舌だった。
とにかく腹が減っていたということだけは伝わってくる。
首の骨が軋んで気絶しそうになるたび、絞める力を緩められてしまう。窒息の苦しみに耐えかね、酸素を求めて口を開く。
すると、すかさずロコの長い舌が滑り込んできた。
「もごぉおっ!?」
ぼこっと喉のあたりが膨らむのを感じた。口内よりも奥、喉の管の内側をべろべろ舐められているのがわかる。
気持ち悪い。胃カメラ最強バージョンの苦しみ。人魚の食事の作法って最悪。
おえ゛っ。
「~~~~~っ!?」
生臭い汁のようなものが流れ込んで来て、反射的に嚥下してしまった。
液体が駆け抜けた食道や胃が熱い。もしかして、消化液みたいなものを流し込まれてる? 胃液にも耐える臓器がじわじわと溶かされるなんて、想像するだけでゾッとする。
何が恐ろしいかって、その汁を飲んだそばから苦痛以外の感覚が生まれたことだ。
(く、くるしいのに……気持ち良い……!?)
「おごっ、ぉッ……! お゛……!」
ただの消化液じゃない? 麻酔? それにしたって、これは。
どんどん身体の奥に入ってくる舌先が、胃の壁をどつき回している。
こいつ、俺の中で内臓ミックスジュースでも作るつもりか?
暴れようとすると、喉にまた同じものを流し込まれた。
消化液か麻酔液か、なんにせよ餌の抵抗心を弱めるためなのだろう。効果はてきめんで、身体の力は入らないし、胃腸より先に脳みそが溶けていくみたいに気持ちがふわふわしていく。
痛いし怖いのに、気持ちよくて安心してしまう。このままだと死ぬのに。
むせると口から血の泡が出てきた。
体内をざらざらした舌でやすりがけされているんだから、こうもなるか。
「おいしいねえ! うれしいねえ! バウったらもったいないなぁ、こんなにいいもの食べないなんて! きゃはっ、ははははっ」
これってあれかな。輪廻転生、弱肉強食。彼が言うように、俺は神様を通じて送り込まれた彼らの餌なのかも知れない。そのほうが、森で目を覚ましてからの異常な状況に納得できてしまう。
ともすればこれは正しい流れで、こんなにも感謝されながら食われて死ぬのなら今生の大団円なのかも。
「すごい、すごい。もったいなくて一気に食べれないよ。ああでも、早くお腹いっぱいになりたいなぁ……!」
うーん、こんなに泣いて喜んでくれている。嬉しいな。
……とはならない。
「じ、死にたくな゛っ……うぐぅっ……!」
――覚えのある鞭の音がした。
俺もロコもハッと驚いて陸地のほうを見る。
あきれ顔のジェードと、息を切らしたバウの姿があった。
「ジェー……ド……?」
……バウは逃げたんじゃなくて、彼を呼んできてくれたのか。
「ロコ、それは私の管理下にすると言っただろう」
「シャアアアッ! ダメ! もうボクの! ボクのごはんだよ! あげないから!」
昨日、彼に対してあんなにも怯えていたロコがエラを震わせて怒っている。ひどく興奮状態なのがわかる。
けれど。
「誰にものを言っている?」
「ギ……!」
彼らのヒエラルキーは確固たるもののようで、一睨みでロコは肩を丸めて小さくなった。
うつむいたまま恨めしそうに唸っている。
「それをこちらに渡せ」
「ヴヴ──~~ッ……!!」
ジェードが差し伸べた手に対して威嚇を続けるも、根負けするのは時間の問題だった。
俺はだいぶ前からぐったりと動けなくなっていて、意識も朦朧としている。
濡れた身体が風で冷え、寒いと感じてようやく水から引きあげられていると気付いた。
いつの間にか、ロコの腕の中ではなくジェードの腕の中にいる。
「ジェードぉ……ひもじいよ。最近は街から来る人もみんな、痩せてておいしくないんだ……」
食事をしそこねた人魚がしくしくと泣いている。それはとても切実な嘆きに聞こえて、なんだかこっちまで悲しくなってしまう。ごはんになってやれなくてごめん。
「バウ、あとは任せる」
「ああ」
濡れた前髪から滴る水を拭われた。ジェードの指先が暖かく感じる。
「街へ送っても良いが……、屋敷に帰っても構わないな?」
そうたずねられ、俺は小さく頷く。
この大陸に人間がいないと知った以上、どこに行っても同じだ。
「みんながごはんに困ってる中で、きっとキミは神様がくれたご褒美だね。ありがとう、ありがとう!」
やけに濃厚なキスをされるので口を引き結んでいたら、首を絞められた。
彼の手を掻きむしるが大した抵抗にもならない。
俺が顔色を赤くしたり青くしたりしている最中、ロコは饒舌だった。
とにかく腹が減っていたということだけは伝わってくる。
首の骨が軋んで気絶しそうになるたび、絞める力を緩められてしまう。窒息の苦しみに耐えかね、酸素を求めて口を開く。
すると、すかさずロコの長い舌が滑り込んできた。
「もごぉおっ!?」
ぼこっと喉のあたりが膨らむのを感じた。口内よりも奥、喉の管の内側をべろべろ舐められているのがわかる。
気持ち悪い。胃カメラ最強バージョンの苦しみ。人魚の食事の作法って最悪。
おえ゛っ。
「~~~~~っ!?」
生臭い汁のようなものが流れ込んで来て、反射的に嚥下してしまった。
液体が駆け抜けた食道や胃が熱い。もしかして、消化液みたいなものを流し込まれてる? 胃液にも耐える臓器がじわじわと溶かされるなんて、想像するだけでゾッとする。
何が恐ろしいかって、その汁を飲んだそばから苦痛以外の感覚が生まれたことだ。
(く、くるしいのに……気持ち良い……!?)
「おごっ、ぉッ……! お゛……!」
ただの消化液じゃない? 麻酔? それにしたって、これは。
どんどん身体の奥に入ってくる舌先が、胃の壁をどつき回している。
こいつ、俺の中で内臓ミックスジュースでも作るつもりか?
暴れようとすると、喉にまた同じものを流し込まれた。
消化液か麻酔液か、なんにせよ餌の抵抗心を弱めるためなのだろう。効果はてきめんで、身体の力は入らないし、胃腸より先に脳みそが溶けていくみたいに気持ちがふわふわしていく。
痛いし怖いのに、気持ちよくて安心してしまう。このままだと死ぬのに。
むせると口から血の泡が出てきた。
体内をざらざらした舌でやすりがけされているんだから、こうもなるか。
「おいしいねえ! うれしいねえ! バウったらもったいないなぁ、こんなにいいもの食べないなんて! きゃはっ、ははははっ」
これってあれかな。輪廻転生、弱肉強食。彼が言うように、俺は神様を通じて送り込まれた彼らの餌なのかも知れない。そのほうが、森で目を覚ましてからの異常な状況に納得できてしまう。
ともすればこれは正しい流れで、こんなにも感謝されながら食われて死ぬのなら今生の大団円なのかも。
「すごい、すごい。もったいなくて一気に食べれないよ。ああでも、早くお腹いっぱいになりたいなぁ……!」
うーん、こんなに泣いて喜んでくれている。嬉しいな。
……とはならない。
「じ、死にたくな゛っ……うぐぅっ……!」
――覚えのある鞭の音がした。
俺もロコもハッと驚いて陸地のほうを見る。
あきれ顔のジェードと、息を切らしたバウの姿があった。
「ジェー……ド……?」
……バウは逃げたんじゃなくて、彼を呼んできてくれたのか。
「ロコ、それは私の管理下にすると言っただろう」
「シャアアアッ! ダメ! もうボクの! ボクのごはんだよ! あげないから!」
昨日、彼に対してあんなにも怯えていたロコがエラを震わせて怒っている。ひどく興奮状態なのがわかる。
けれど。
「誰にものを言っている?」
「ギ……!」
彼らのヒエラルキーは確固たるもののようで、一睨みでロコは肩を丸めて小さくなった。
うつむいたまま恨めしそうに唸っている。
「それをこちらに渡せ」
「ヴヴ──~~ッ……!!」
ジェードが差し伸べた手に対して威嚇を続けるも、根負けするのは時間の問題だった。
俺はだいぶ前からぐったりと動けなくなっていて、意識も朦朧としている。
濡れた身体が風で冷え、寒いと感じてようやく水から引きあげられていると気付いた。
いつの間にか、ロコの腕の中ではなくジェードの腕の中にいる。
「ジェードぉ……ひもじいよ。最近は街から来る人もみんな、痩せてておいしくないんだ……」
食事をしそこねた人魚がしくしくと泣いている。それはとても切実な嘆きに聞こえて、なんだかこっちまで悲しくなってしまう。ごはんになってやれなくてごめん。
「バウ、あとは任せる」
「ああ」
濡れた前髪から滴る水を拭われた。ジェードの指先が暖かく感じる。
「街へ送っても良いが……、屋敷に帰っても構わないな?」
そうたずねられ、俺は小さく頷く。
この大陸に人間がいないと知った以上、どこに行っても同じだ。
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