【完結】Switchなんて聞いてない──氷のエリート様が年下の溺愛Domに溶かされるまで──

牛丸 ちよ

文字の大きさ
9 / 55
Subとしての生活

9 Attract【3】 *R18

しおりを挟む
 Attractとは《魅力せよ》というCommandだ。
 歌唱など「得意なことを披露しろ」の意で使われることもあるが、もっぱら性的な意味で用いられる。

 俺は自分の腰ベルトを外し、スラックスの前を開けた。
 下着を押しのけて性器が頭を持ち上げる。
 いくらか躊躇はしたが、状況は行為を許可している。

(こんなの、映画よりずっと……変態じゃないか……)

「《僕の言葉に応えようとしてくれてますね》」

 冷静になってしまいそうなところを甘い声でかき乱される。
 頬を撫でられるとつい頭を彼の手のほうへ傾けて欲しがってしまう。

(Subなんて嫌いだ)

 緩く脚を開き、誘惑に負けてそれを握った。
 思い通りにならない自分自身に腹を立てながら手を動かす。

「ふ、ぅぅ……っ、ぁ、ぁっ……」

 扱くほど快感の輪郭がはっきりしていく。
 興奮を示すように先走りがあふれ、手の内側がいやらしく湿っていった。

 これで満足かと見やれば、小さく息を呑む姿が見える。
 まばたきも忘れていそうな男の表情に少しだけ胸がすく。

「はっ、ぁ、……っ」

 こんな行為を人に見せたことなどないし、見せるつもりもなかった。
 Commandがあるからとはいえ、自分が実行するなんていまもまだ信じられない。見られて興奮していることも。

 杜上の目は俺のことしか見えていない。俺の一挙一動がいまの彼のすべてだ。
 見つめられるだけで肯定Rewardを得ているようなものだった。

 こうやって自身を慰めるのはいつぶりだろう。
 精神力も体力も仕事に注ぎ込み、他にわりふる余力など残さなかった。
 家は仮眠所扱いだし、自分に性欲があることを長らく忘れていた。
 だからだろうか。前のときも、今回も、刺激が強すぎる。

「とがみっ……もう……っ」

「イきそうですか?」

 こくりと頷いて見せた。

「《Look僕を見て》」

 高揚した状態でCommandを受けると、考えるよりも先に従ってしまう。
 すかさず褒められればこんなに嬉しいことはない。

「《良い子ですね》。大慈さん、《とても綺麗ですよ》」

「……っ、……ふぅっ、ぅっ……、あぁ……っ」

 本能に従う陶酔が瞳に溶けて頬を伝う。
 彼の瞳を覗き込んだまま夢中で扱いた。

 もうイってしまう。その前に命じて欲しいのに、言ってくれない。
 俺の物欲しそうな顔に気付いているだろうに。

「はぁ、ぁ……っ、とが、っぁ、~~~んぅぅっ……!」

 熟しきった恍惚が弾け、手の中に精液が散る。
 射精許可Cumもないままイってしまったのがもったいなく思えて、どことなく消化不良な余韻に浸かった。

 その間も目を逸らさない。逸らせない。
 同じように真っ直ぐ俺を見る杜上のギラついた瞳から、Lookの命令がまだ生きているとわかるから。

「大慈さん」

「と、がみ……」

 汗ばんだ頬を撫でる彼の手が移動し、片耳を覆うように当てられた。
 手のひらから杜上の早い鼓動が聞こえてくる。
 どくん、どくん。伝わってくる熱い血潮の音がRewardフィードバックに思える。
 彼もそのつもりで俺に聞かせているのだろう。
 物足りなかった心に充足感が満ちていく。

「とても良くできていましたよ」

 そう言って離れようとする杜上の腕を、とっさにつかんだ。

「……おまえのそれはどうするんだ」

 俺の視線が彼の股間に向いていることに気付いたようで、さっと背中を向けられた。

「僕はそのうち落ち着くので──」

 そっけない返事だった。心なしか動揺しているように見える。

「──今日はここまでです。お手洗いは出て左にありますから、寄ってからロビーへどうぞ」

 矢継ぎ早にそう言われてティッシュ箱を差し出されれば、俺から言えることは特にない。

「……わかった」

 汗ばんだ身体にワイシャツが張り付き、スーツの内側が蒸れて落ち着かない。
 杜上も妙に無口だし、ティッシュで手を拭く数秒が気まずかった。
 Playの後ってこんな空気になるものなのか?

「なぁ、杜上。おまえはどんな患者にもこういうことをするのか?」

 ふとした疑問を口にすると、杜上はこちらを振り向いた。

「僕は──」

 彼が何かを言おうとしたとき、デスクの内線電話が鳴った。
 通話は一分もなかった。

「……はい、わかりました」

 受話器を置いた杜上は申し訳なさそうにこちらを見る。

「すみません、行かないと」

 どうやらロビーで患者が暴れており、受付からのSOSがあったらしい。
 俺は頷いて先に部屋を出ると、手洗いに向かった。


   ■


「はぁ……」

 トイレの洗面台の前で溜め息を吐く。
 蛇口のハンドルをひねれば、静かな空間に水の音が響いた。

 煩悩ごと手を洗いながらひとりごちる。

「なんにもわからん……」

 杜上が時折見せるあの目はなんなんだ。
 本当に業務としてDomの役割を果たしている目なのか?

 ……いや、変に勘繰るだけSubとして初心うぶなのかもしれない。

 あいつが俺を特別扱いする理由なんてないし、Careありきの精神科医っていうのはこいうものなのだろう。
 彼の言う通り、恥じらったりなんだり余計なことを考えるだけ無駄なのかも。
 歯医者の定期健診くらいに思えばいい。


 本当に?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

処理中です...