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第5話「魔法の継承」

5-3: 「修行の先にある使命」

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 ミラは二人に向き直り、それぞれの課題を説明し始めた。

「ルーン、あなたは午前中、書斎で魔法理論の再学習をしてもらうわ。午後からはここで、体内で属性の違う魔力を混ぜ合わせる練習よ」

 ルーンは真剣な眼差しで頷いた。

「リバンス、あなたは午前中、物質の構造理解を高めるため、様々な参考文書を読んでもらうわ。午後からは、岩などをコピーしてペーストし、それを維持した状態で私の出す魔導ゴーレムとの戦闘訓練。そして、同時に複数ペーストする限界拡大のため、まずは小石など小さなものから6回以上の連続ペーストを目標に訓練するわ」

 リバンスは少し戸惑いながらも、「はい、頑張ります」と答えた。

「では、午前の部を始めましょう」

 ミラの合図で、二人はそれぞれの場所へと向かった。

 ルーンは書斎に入ると、懐かしさを感じながら、幼い頃に学んだ魔法理論を紐解いていく。一方リバンスは、初めて目にする専門的な文献に四苦八苦しながらも、少しずつ理解を深めていった。

 昼食を挟み、午後の実践訓練が始まった。

 庭に出たルーンの前に、ミラが小さな水盤を置いた。

「さあ、ここに火と水の魔力を同時に注いでみて。目標は、水の性質を持った炎、つまり液体のように流れる炎を作ることよ」

 ルーンは深呼吸をし、両手を水盤に向けた。すると、水面からかすかな湯気が立ち始める。しかし、すぐに魔力のバランスが崩れ、水が沸騰してしまった。

「まだまだね。でも、いい兆候よ。水が沸騰する前の一瞬、炎が水面に広がっていたわ。その状態を維持できるようになれば成功よ」ミラは優しく微笑んだ。

 一方、リバンスは庭の別の場所で、小石を使った複写再現の練習をしていた。

「6回連続でペーストすることを目指しなさい。これまでの5回を超えることが今日の目標よ」ミラの声が飛ぶ。

 リバンスは額に汗を滲ませながら、何度も挑戦を繰り返す。5回目までは何とかいけるが、6回目で集中力が途切れてしまう。

「根気強く続けることよ。5回を安定して出せるようになったのは大きな進歩だわ」ミラの言葉に、リバンスは頷いた。

 夕方になり、二人とも疲労困憊の様子だった。しかし、その表情には達成感も見え隠れしている。

「今日はよく頑張りました」ミラは二人を労った。「でも、これからがもっと大変よ」

 その言葉に、リバンスとルーンは思わず顔を見合わせた。

 ◇◇◇◇◇

 日々の修行が続く中、リバンスはミラの人柄を理解していった。修行中は厳しい要求を突きつけてくるが、それ以外の時は優しく、そして知的な女性だった。時折、すべてを見透かされているような感覚に陥ることもある。

 ある日の修行中、ミラがリバンスに助言をした。

「あなたの複写再現はとても面白い能力だけれど、使い方が狭すぎるわね。魔法や物ばかりコピーしていては戦いの幅が限られるわ」

 リバンスは首を傾げた。

「例えば、物質の『性質』をコピーすれば、液体の性質をペーストしたファイアボールが打てるかもしれない。暗い場所という『環境』をコピーすれば、狭い範囲なら急に暗転させることもできるんじゃないかしら」

 その言葉に、リバンスは目を見開いた。自分の能力の可能性に、改めて期待感が高まる。

 修行の合間に、二人は村の様子を見て回った。人々がとても穏やかに自給自足で過ごしている姿に、心地よさを感じる。小さな畑で野菜を育てる老人、魔法で水を汲む子供たち、空中に浮かぶ本を読みながら歩く若者など、魔法が日常に溶け込んだ光景が広がっていた。

「ここって、本当に平和な村だね」リバンスは感慨深げに呟いた。

 ルーンは微笑んで答えた。「ええ、ミラが作り上げた理想の村よ。魔法を自然に使いこなしながら、穏やかに暮らしているわ」

 村の中心にある大きな泉の前で、ミラが村人たちと談笑している姿が目に入った。村人たちの表情は明るく、ミラを慕う様子が伝わってくる。

「ミラさん、本当に村人たちから信頼されているんだね」リバンスが感心したように言うと、ルーンは懐かしそうに目を細めた。

「ミラはね、昔から人々を大切にする人だったの。王国にいた頃も、魔法使いとしての力だけでなく、その優しさで多くの人に慕われていたわ」

 リバンスはミラの姿を見つめながら、彼女の持つ知識と力、そして人々への愛情が、この平和な村を作り上げたのだと実感した。ミラが村人たちから厚い信頼を得ていることも、肌で感じ取れた。

 ある日の夕食時、ルーンが切り出した。

「ミラ、ドミナージュについて何か情報はない?」

 ミラは一瞬考え込むような素振りを見せた後、答えた。

「彼らは私の持つ知識を狙って、時々この村に来ようとするわ。でも、写し鏡の洞窟と私で追い返している。最近はあまり来なくなったけれど」

 リバンスは思わず口を挟んだ。「そもそも、彼らの目的って何なんですか?」

「世界の支配よ」ルーンが静かに答えた。

「そんな大きな目的を掲げるくらいだから、相当大きな組織なんじゃ...」

 リバンスの言葉を遮るように、ミラが口を開いた。

「組織が今どれだけの規模を持っているのか分からないけれど、当時王国を襲ったときは10人しかいなかったわ」

「10人!?」リバンスは驚きのあまり、声が裏返った。

「そう、たった10人で王国を滅ぼしたの」ミラの言葉に、重みがあった。

 ルーンは無言で悔しそうな表情を浮かべている。

「でも...」リバンスは戸惑いながらも尋ねた。「世界の支配を、どうやって企んでいるんですか」
 ミラは真剣な眼差しでリバンスを見つめた。

「ルーンの中に眠るロストテクノロジーによる武力的支配でしょうね」

 その言葉に、部屋の空気が一瞬凍りついたかのようだった。

「ルーンの中にあるロストテクノロジーの情報を取り出す方法は分かっていないけれど、ドミナージュがもしその方法を知ってしまったら...この世界は終わりよ」

 ミラの言葉に、リバンスとルーンは息を呑んだ。

「だから二人には自分たちの身を守るためにも強くなってもらわなきゃいけないわ」

 リバンスは隣に座るルーンを見た。たまたま飛空艇で居合わせた少女が、こんなにも大きなものを背負っているとは。その重圧に圧倒されながらも、リバンスは決意を新たにした。

(この少女のために、そして病に伏す妹のために、俺は強くならなきゃいけない)

 リバンスの瞳に、強い決意の光が宿った。
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