19 / 27
第5話「魔法の継承」
5-3: 「修行の先にある使命」
しおりを挟む
ミラは二人に向き直り、それぞれの課題を説明し始めた。
「ルーン、あなたは午前中、書斎で魔法理論の再学習をしてもらうわ。午後からはここで、体内で属性の違う魔力を混ぜ合わせる練習よ」
ルーンは真剣な眼差しで頷いた。
「リバンス、あなたは午前中、物質の構造理解を高めるため、様々な参考文書を読んでもらうわ。午後からは、岩などをコピーしてペーストし、それを維持した状態で私の出す魔導ゴーレムとの戦闘訓練。そして、同時に複数ペーストする限界拡大のため、まずは小石など小さなものから6回以上の連続ペーストを目標に訓練するわ」
リバンスは少し戸惑いながらも、「はい、頑張ります」と答えた。
「では、午前の部を始めましょう」
ミラの合図で、二人はそれぞれの場所へと向かった。
ルーンは書斎に入ると、懐かしさを感じながら、幼い頃に学んだ魔法理論を紐解いていく。一方リバンスは、初めて目にする専門的な文献に四苦八苦しながらも、少しずつ理解を深めていった。
昼食を挟み、午後の実践訓練が始まった。
庭に出たルーンの前に、ミラが小さな水盤を置いた。
「さあ、ここに火と水の魔力を同時に注いでみて。目標は、水の性質を持った炎、つまり液体のように流れる炎を作ることよ」
ルーンは深呼吸をし、両手を水盤に向けた。すると、水面からかすかな湯気が立ち始める。しかし、すぐに魔力のバランスが崩れ、水が沸騰してしまった。
「まだまだね。でも、いい兆候よ。水が沸騰する前の一瞬、炎が水面に広がっていたわ。その状態を維持できるようになれば成功よ」ミラは優しく微笑んだ。
一方、リバンスは庭の別の場所で、小石を使った複写再現の練習をしていた。
「6回連続でペーストすることを目指しなさい。これまでの5回を超えることが今日の目標よ」ミラの声が飛ぶ。
リバンスは額に汗を滲ませながら、何度も挑戦を繰り返す。5回目までは何とかいけるが、6回目で集中力が途切れてしまう。
「根気強く続けることよ。5回を安定して出せるようになったのは大きな進歩だわ」ミラの言葉に、リバンスは頷いた。
夕方になり、二人とも疲労困憊の様子だった。しかし、その表情には達成感も見え隠れしている。
「今日はよく頑張りました」ミラは二人を労った。「でも、これからがもっと大変よ」
その言葉に、リバンスとルーンは思わず顔を見合わせた。
◇◇◇◇◇
日々の修行が続く中、リバンスはミラの人柄を理解していった。修行中は厳しい要求を突きつけてくるが、それ以外の時は優しく、そして知的な女性だった。時折、すべてを見透かされているような感覚に陥ることもある。
ある日の修行中、ミラがリバンスに助言をした。
「あなたの複写再現はとても面白い能力だけれど、使い方が狭すぎるわね。魔法や物ばかりコピーしていては戦いの幅が限られるわ」
リバンスは首を傾げた。
「例えば、物質の『性質』をコピーすれば、液体の性質をペーストしたファイアボールが打てるかもしれない。暗い場所という『環境』をコピーすれば、狭い範囲なら急に暗転させることもできるんじゃないかしら」
その言葉に、リバンスは目を見開いた。自分の能力の可能性に、改めて期待感が高まる。
修行の合間に、二人は村の様子を見て回った。人々がとても穏やかに自給自足で過ごしている姿に、心地よさを感じる。小さな畑で野菜を育てる老人、魔法で水を汲む子供たち、空中に浮かぶ本を読みながら歩く若者など、魔法が日常に溶け込んだ光景が広がっていた。
「ここって、本当に平和な村だね」リバンスは感慨深げに呟いた。
ルーンは微笑んで答えた。「ええ、ミラが作り上げた理想の村よ。魔法を自然に使いこなしながら、穏やかに暮らしているわ」
村の中心にある大きな泉の前で、ミラが村人たちと談笑している姿が目に入った。村人たちの表情は明るく、ミラを慕う様子が伝わってくる。
「ミラさん、本当に村人たちから信頼されているんだね」リバンスが感心したように言うと、ルーンは懐かしそうに目を細めた。
「ミラはね、昔から人々を大切にする人だったの。王国にいた頃も、魔法使いとしての力だけでなく、その優しさで多くの人に慕われていたわ」
リバンスはミラの姿を見つめながら、彼女の持つ知識と力、そして人々への愛情が、この平和な村を作り上げたのだと実感した。ミラが村人たちから厚い信頼を得ていることも、肌で感じ取れた。
ある日の夕食時、ルーンが切り出した。
「ミラ、ドミナージュについて何か情報はない?」
ミラは一瞬考え込むような素振りを見せた後、答えた。
「彼らは私の持つ知識を狙って、時々この村に来ようとするわ。でも、写し鏡の洞窟と私で追い返している。最近はあまり来なくなったけれど」
リバンスは思わず口を挟んだ。「そもそも、彼らの目的って何なんですか?」
「世界の支配よ」ルーンが静かに答えた。
「そんな大きな目的を掲げるくらいだから、相当大きな組織なんじゃ...」
リバンスの言葉を遮るように、ミラが口を開いた。
「組織が今どれだけの規模を持っているのか分からないけれど、当時王国を襲ったときは10人しかいなかったわ」
「10人!?」リバンスは驚きのあまり、声が裏返った。
「そう、たった10人で王国を滅ぼしたの」ミラの言葉に、重みがあった。
ルーンは無言で悔しそうな表情を浮かべている。
「でも...」リバンスは戸惑いながらも尋ねた。「世界の支配を、どうやって企んでいるんですか」
ミラは真剣な眼差しでリバンスを見つめた。
「ルーンの中に眠るロストテクノロジーによる武力的支配でしょうね」
その言葉に、部屋の空気が一瞬凍りついたかのようだった。
「ルーンの中にあるロストテクノロジーの情報を取り出す方法は分かっていないけれど、ドミナージュがもしその方法を知ってしまったら...この世界は終わりよ」
ミラの言葉に、リバンスとルーンは息を呑んだ。
「だから二人には自分たちの身を守るためにも強くなってもらわなきゃいけないわ」
リバンスは隣に座るルーンを見た。たまたま飛空艇で居合わせた少女が、こんなにも大きなものを背負っているとは。その重圧に圧倒されながらも、リバンスは決意を新たにした。
(この少女のために、そして病に伏す妹のために、俺は強くならなきゃいけない)
リバンスの瞳に、強い決意の光が宿った。
「ルーン、あなたは午前中、書斎で魔法理論の再学習をしてもらうわ。午後からはここで、体内で属性の違う魔力を混ぜ合わせる練習よ」
ルーンは真剣な眼差しで頷いた。
「リバンス、あなたは午前中、物質の構造理解を高めるため、様々な参考文書を読んでもらうわ。午後からは、岩などをコピーしてペーストし、それを維持した状態で私の出す魔導ゴーレムとの戦闘訓練。そして、同時に複数ペーストする限界拡大のため、まずは小石など小さなものから6回以上の連続ペーストを目標に訓練するわ」
リバンスは少し戸惑いながらも、「はい、頑張ります」と答えた。
「では、午前の部を始めましょう」
ミラの合図で、二人はそれぞれの場所へと向かった。
ルーンは書斎に入ると、懐かしさを感じながら、幼い頃に学んだ魔法理論を紐解いていく。一方リバンスは、初めて目にする専門的な文献に四苦八苦しながらも、少しずつ理解を深めていった。
昼食を挟み、午後の実践訓練が始まった。
庭に出たルーンの前に、ミラが小さな水盤を置いた。
「さあ、ここに火と水の魔力を同時に注いでみて。目標は、水の性質を持った炎、つまり液体のように流れる炎を作ることよ」
ルーンは深呼吸をし、両手を水盤に向けた。すると、水面からかすかな湯気が立ち始める。しかし、すぐに魔力のバランスが崩れ、水が沸騰してしまった。
「まだまだね。でも、いい兆候よ。水が沸騰する前の一瞬、炎が水面に広がっていたわ。その状態を維持できるようになれば成功よ」ミラは優しく微笑んだ。
一方、リバンスは庭の別の場所で、小石を使った複写再現の練習をしていた。
「6回連続でペーストすることを目指しなさい。これまでの5回を超えることが今日の目標よ」ミラの声が飛ぶ。
リバンスは額に汗を滲ませながら、何度も挑戦を繰り返す。5回目までは何とかいけるが、6回目で集中力が途切れてしまう。
「根気強く続けることよ。5回を安定して出せるようになったのは大きな進歩だわ」ミラの言葉に、リバンスは頷いた。
夕方になり、二人とも疲労困憊の様子だった。しかし、その表情には達成感も見え隠れしている。
「今日はよく頑張りました」ミラは二人を労った。「でも、これからがもっと大変よ」
その言葉に、リバンスとルーンは思わず顔を見合わせた。
◇◇◇◇◇
日々の修行が続く中、リバンスはミラの人柄を理解していった。修行中は厳しい要求を突きつけてくるが、それ以外の時は優しく、そして知的な女性だった。時折、すべてを見透かされているような感覚に陥ることもある。
ある日の修行中、ミラがリバンスに助言をした。
「あなたの複写再現はとても面白い能力だけれど、使い方が狭すぎるわね。魔法や物ばかりコピーしていては戦いの幅が限られるわ」
リバンスは首を傾げた。
「例えば、物質の『性質』をコピーすれば、液体の性質をペーストしたファイアボールが打てるかもしれない。暗い場所という『環境』をコピーすれば、狭い範囲なら急に暗転させることもできるんじゃないかしら」
その言葉に、リバンスは目を見開いた。自分の能力の可能性に、改めて期待感が高まる。
修行の合間に、二人は村の様子を見て回った。人々がとても穏やかに自給自足で過ごしている姿に、心地よさを感じる。小さな畑で野菜を育てる老人、魔法で水を汲む子供たち、空中に浮かぶ本を読みながら歩く若者など、魔法が日常に溶け込んだ光景が広がっていた。
「ここって、本当に平和な村だね」リバンスは感慨深げに呟いた。
ルーンは微笑んで答えた。「ええ、ミラが作り上げた理想の村よ。魔法を自然に使いこなしながら、穏やかに暮らしているわ」
村の中心にある大きな泉の前で、ミラが村人たちと談笑している姿が目に入った。村人たちの表情は明るく、ミラを慕う様子が伝わってくる。
「ミラさん、本当に村人たちから信頼されているんだね」リバンスが感心したように言うと、ルーンは懐かしそうに目を細めた。
「ミラはね、昔から人々を大切にする人だったの。王国にいた頃も、魔法使いとしての力だけでなく、その優しさで多くの人に慕われていたわ」
リバンスはミラの姿を見つめながら、彼女の持つ知識と力、そして人々への愛情が、この平和な村を作り上げたのだと実感した。ミラが村人たちから厚い信頼を得ていることも、肌で感じ取れた。
ある日の夕食時、ルーンが切り出した。
「ミラ、ドミナージュについて何か情報はない?」
ミラは一瞬考え込むような素振りを見せた後、答えた。
「彼らは私の持つ知識を狙って、時々この村に来ようとするわ。でも、写し鏡の洞窟と私で追い返している。最近はあまり来なくなったけれど」
リバンスは思わず口を挟んだ。「そもそも、彼らの目的って何なんですか?」
「世界の支配よ」ルーンが静かに答えた。
「そんな大きな目的を掲げるくらいだから、相当大きな組織なんじゃ...」
リバンスの言葉を遮るように、ミラが口を開いた。
「組織が今どれだけの規模を持っているのか分からないけれど、当時王国を襲ったときは10人しかいなかったわ」
「10人!?」リバンスは驚きのあまり、声が裏返った。
「そう、たった10人で王国を滅ぼしたの」ミラの言葉に、重みがあった。
ルーンは無言で悔しそうな表情を浮かべている。
「でも...」リバンスは戸惑いながらも尋ねた。「世界の支配を、どうやって企んでいるんですか」
ミラは真剣な眼差しでリバンスを見つめた。
「ルーンの中に眠るロストテクノロジーによる武力的支配でしょうね」
その言葉に、部屋の空気が一瞬凍りついたかのようだった。
「ルーンの中にあるロストテクノロジーの情報を取り出す方法は分かっていないけれど、ドミナージュがもしその方法を知ってしまったら...この世界は終わりよ」
ミラの言葉に、リバンスとルーンは息を呑んだ。
「だから二人には自分たちの身を守るためにも強くなってもらわなきゃいけないわ」
リバンスは隣に座るルーンを見た。たまたま飛空艇で居合わせた少女が、こんなにも大きなものを背負っているとは。その重圧に圧倒されながらも、リバンスは決意を新たにした。
(この少女のために、そして病に伏す妹のために、俺は強くならなきゃいけない)
リバンスの瞳に、強い決意の光が宿った。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【短編】追放した仲間が行方不明!?
mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる