遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第2章

大迷宮!! ~二代目天空神~ 下

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****
神聖カルットハサーズ王都、城内

 「国王様、勇者一行が城を出て早一ヶ月になりますが未だに戻ってきたという情報がございません! もしやあのクロスがこちらの動きを知って―――」
 「案ずるな大臣よ、例えあやつが知っていようとも問題はない。既に用意は整えておる。もし、勇者共があれは責任は自然とあやつに課せられよう。これは環境がものを言わせんからな。
 そしてこちらには人質が二人、監視者を何人も置いて見晴らせている。
 それでも逃げようものなら我が国の優秀な魔導士、騎士、冒険者が総出で行方を追うよう手配済みだ。既に海路、空路も制限を設けておる。ここまであればクロスとてどうもできまい」


 勇者一行が無事生還したという通達が無い大臣は焦りを感じていた。
 もしこのままことが悪いように働けばここ数年の苦労は水の泡となる。それだけはなんとしても避けたい。
 国王が策を講じているとはいえ相手は素性も考えも分からない大男だ。以前城中に伝わった噂では巨大な猛禽類の魔獣をも飼いならし、異界からの厄災と伝説上だったインフェルノを内部から解体したなど物騒なできごとを簡単に解決している異国人、策などあって無いようなものだ。

 「しかし! ……あの大迷宮にはヴェレンボーンとの道が繋がっているという噂があります。もしそこを見つけることができたら……!」

 そうあの些細な噂、敵国と通ずる道。それすらも大臣は危惧していた。
 それ以外にも勇者に関しても思うところは多い。城を出立するまでの少し、ほんの少しの期間だが勇者らの内数名の発言に不信感を感じた。
 まるでこの世界に来た当時のように見えることがあったから。

 それでは、元の関係がどうだろうと民衆が喜ぶのはの不幸を織り交ぜて出来た大団円。あれでは面白くないので関心が集まらない。それをこの国王もとっくに分かっているだろうに案ずるなと言えるのだろうか!!

 「ふ、危惧しているのは勇者のことだろう? それも問題はない」
 「何故そう言えるのです……」

 なぜこの老人はここまでのんびりと考えることが出来るのか、大臣は苛立ちを募らせた。

 「あやつらが変化を見せた時のクロスの動きはしっかりと確認させていたが特に問題はみられなかった。故に問題は勇者共の心境の問題だろう。魔獣の凶暴化を食い止めること以外何も伝えられていなかったのう……」
 「まあ、それも一理ありますが……」
 「何せ初めて使用した呪法だからのうぅ……、少しの不具合で済むのであれば安いものよ」

 不具合……確かに規模の大きいものは多少のミスも出てくるものだ。その可能性もある。本当にそれまでなら良いのだが……

 「いずれにせよことが進めばクロスとてどうにもできん。民衆の心を操るのは簡単だが力だけはだれにも止められん。
 噂に少しでも真実があればそれは誠となる。例えば勇者共の中で一人でもいなくなればどうなるか……ふふふ、民衆は勇者が魔獣を鎮圧してくれると考えているから相当な反感を買うことになる。恐ろしいな」

 老齢の体を玉座に預けた国王はその後を思い描くように目を閉じた。
 大臣はその恐ろしいという言葉に国王を見る。真に恐ろしいのはこの老いた王だ。
 元はヴェレンボーンの魔導士が来る予定だったため勇者の中から脱落者が出た場合その者に罪を被せ遣わせたヴェレンボーンの女帝の評判を落とし支持が薄まったところにつけ込む予定だった。だがその機会は前代未聞のギルドカードをもった冒険者に打って変られた。
 それだけならまだいい、だがおまけと言わんばかりにとんでもない情報が入った。なんと水面下にはあるが魔界を統治する王、通称『魔王』が動いているといったものだった。
 しかも表向きは経済政策と打っており目ざとく見なければうらでは情報の画策をしていると気が付かない質の悪いもので同時に経済的にも軍事的にも我が国が徐々に疲弊していくよう計画されている。
 裏でも腕の立つ冒険者を城に招き入れているといった情報が追い打ちをかけるように入ってきたときには頭を抱えたくなったのも無理はない。考えられる言葉は一つだけ、


 『戦争』だ。

 このまま進めばどう見ても経済的に勝っている魔界の方が勝つ、この国の環境と魔族と人の差を考えれば火を見るよりも明らかだった。
 なんせ我が国では未だに別種族を奴隷にしている。元々奴隷自体は他の国でもまだ見られる光景だが扱いは圧倒的にこちらが劣悪だと言えてしまうのだ。それを理由だといわれると言い返しは出来ない、というか開き直っている奴隷主の貴族が多いからもっと悪い。もう運命に身を任せるか、この国の上層部はそう思っていた。
 だが目の前にいるこの国王はこの状況に目を付けた、そして当初の目的を大幅に変わり我が国にも希望の兆しが見えるようになったのだ。
 
 初めは勇者共と同じく操れるならそれで、と考えていたクロスだったがその力は監視と調査の結果一軍隊以上、禁術での洗脳も聞かない生命体と判断が下た時には焦りもあった。
 が、クロスが勇者の命を一つでも取りこぼせば表向きは罪滅ぼしと称して、本人の意思でこの国の為に働かせることが出来るのではないだろうか? 大臣はそう考えて国王に進言した。
 やつの弱点はあの白い少女と灰色の弟子だ。この二人は従者の二人よりも捕まえ易い、表向きの理由も突き付ければ洗脳やら禁術などを使用せずとも二人のどちらかを捕まえればことは考えていた策よりも簡単に進むのではと。
 結果、この案は採用された。ヴェレンボ―ン相手には動くか分からないが全く関係のない魔界などの国ならば今までのクロスの性格上人質を救出するよりも先に滅ぼしにかかる。

 はっきり言って馬鹿馬鹿しい考えだがこれはクロスが入国してからの行動を全て把握した状態で言っていることなのでほぼ確信がある。それで魔界が我が領土にできるならぼろ儲けもいいとこだ。
 表向きは魔獣の凶暴化で魔族までもが狂いだし押さえつけたということにすればいい。実際に戦争を仕掛けようとしているのは魔王だ、こちらとしても言い訳出来る余地は少しぐらいある。
 その隙にクロスが世界を騒がせる魔獣の凶暴化事件の首謀者として立たたせる証拠を作ればいい。嬉しいことにクロスは宮廷中の魔導士が【鑑定】で盗み見ようとしてもはじかれた。つまりステータスを見せたくないのだ。
 ヴェレンボーン側にも内通者を送り交友関係を探らせたが誰一人としてクロスのステータスを見たもの聞いた者はいない、特別親しい人物も冒険者パーティの人物以外はいない、と謎に包まれた存在なのだ。
 加えてあの容姿。特にあの目は魔族ですらないと言う声が上がっている。それはヴェレンボーンでも同じことをささやかれていた、これはインフェルノの事件でさらに拍車がかかっている。そこに少しだけ本当と噂を混ぜ込み【真実】を作る。
 
 『クロス・カオスはこの世界の者ではない、異世界から我らの世界を侵略しにきた異世界人だ。クロスはまず手駒を増やすために魔獣を操り人を襲わせている。
 神聖カルットハサーズの城内で手持ちの道具に知らない魔法をかけたり巨大な猛禽類の魔獣を従えていたから間違いない。そばに控えさせている従者も操って使役しているのだ。やつはこの世界の生きとし生ける全てのものを掌握するつもりに違いない』

 といった筋書きが作ることが可能な恰好の人物なのだ。あとは噂が広まるようこちらが転がせば本人が嘘だと声を上げても偽の証拠で民衆の心は動かない。
 そうなってしまえばあとは全てを欺いていた元師匠と裏切られたことで執念を燃やす勇者一行といった民衆が喜びそうな悲劇の完成だ。あとは……どちらにせよクロスの身の上は大臣すら考えたくはない程凄惨な末路をたどってくれるだろう。


 一方、勇者の一行はある調してから送り出し冒険をさせ、鍛えさせることになっている。その後、ある程度強くなったところで魔界軍と衝突したクロスと衝突させる手はずなのだ。
 これには五十嵐拓也のクロスに対する信頼の低さが幸いだった。
 今でこそ勇者だのなんだの名声は高いが元は別世界の唯の子供だ……つまり死んだとしても悲しむ者はいるが国を責める者はいない。勇者とは国の為、民草の為に戦うのだから責め立てられるのは殺した者、つまりクロスとなるのだ。勇者がこの世界の人間ではないから余計に国に異議を申し立てようとする輩がわかないことが利点だ。
 国の為に少年達には死んでもらうことになるかもしれない、このことに何も思わないところが無いわけではないがこれも国の為、そして自分を追い出したあの国に復讐する隙を作るためである。
 これはその為の―――小さな犠牲だ、そう大臣は心の中でそう踏ん切りを付ける。

 既に歯車は動いているのだ。クロスも勇者一行も、国王や自分ですらも引き返せない。
 あとはなるように任せクロスを誘導させることだけが重要だ。国王の策通りならクロスも逃げられないない、例え空を飛べたとしても大迷宮の中心にある大穴はつい先ほど瓦礫で第二階層から下全てが埋まったと情報が入っているので来た道を戻ってくる。そうなれば通路は一本道、逃げ場はない。
 瓦礫を全て押し上げながら上級魔法で空気を調節しつつ空を駆け上る。といった子供の考えるような空想が現実にならない限りは――――



****


 「ク、ロノスって……! え、レモーネ、じゃなかった新月ちゃんも……どうなってるの?」
 「え? は、どういう?」
 「おや、口に出してはならぬことを言ったようですね。あの侵略者は」

 ジンニーヤーが子供二人の戸惑いを聞いて顔では驚きを見せつつも言葉では嬉しそうに呟いた。いや、別に知っているやつに聞かれるのは問題はない。
 だがこちらの二人はいきなり脳が処理出来ない情報が複数入ってきたことにより自分でも何を言っているのか理解出来ない、と言った様子だった。おろおろと視点が定まらない二対の瞳が私を指している。
 コイオス、面倒なことを増やすな。

 「ってかすんげぇぇぇぇぇ―――……いてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! おまっ、俺……の、俺の手まで……折りやがってぇ……いてぇよぉ~母ぁさーん!」

 さてそんな今回の元凶であるコイオスは情けないことに弱音を吐きながらも一言、許さない、と喚いている。
 お前だって神通力で治せるくせに何を言うんだか、

 「クロス……さん?」

 コイオスの顔を睨んでいると外套の裾を引かれる。一条美海だった、

 「はぁ……については後でゆっくりと説明してやるから今は話しかけるな。自分の身だけ守ってろ」
 「えっ? どうするんですか?!」
 「お……う」
 「安心しろ、五体満足で帰れるようにしてやる。私はアホの新月よりはまだまともに約束を守るからな」
 『え、ひど!』

 縋り付くような目が外套の裾を握るので後で話すと宥める。
しかしここから先は内縁問題こちらの話になる。その間、二人にはおとなしくしておいてもらうか。

 「本当にぃ……ょヵ……」
 「……ん……」

 震える二人の声を止めるように『ナーサリーライム』をかける。これで大人しくしてくれるだろう。一条美海から安堵の声が最後に吐き出されたようだが何も言わずに離れる。
 状況が状況なだけに今はもう追求ぜずにいてくれるならもうそれでいい、まずはあのボウボウ鳥を送り返したい。

 「……さて、まずはこのボウボウ鳥の件に関してだが……これどこからか勝手に連れてきただろ。なあ、コィス?」
 「うっ……!」

 スタシスの艶を持たない色をした柄を弄びながら操られて目の焦点が合っていないボウボウ鳥に目を向ける。あらかさまにコイオスが固まった、見事に全問正解だったようだ。

 「では責任はとって貰おうか」
 「げっ!!!」

 目標に視点を合わせる。てスタシスを少し持ち上げて歩み寄るとあらかさまに肩を震わせて後退る。私が一歩前に進むと向こうも一歩後退る。野良猫か、

 「こ、この、ふぇ、フェニックス!! ぼさっとしてんじゃねえ!! 働け!」

 冷や汗をかいたコイオスが手を大きく振り力の限り叫ぶと巨体が翼を広げて走り込んで来た。やめろ、広さも高さも申し分ないが浅目のところとはいえ流石に海底の下、崩れたら私と新月、コイオス以外全員死ぬ。
 先にあいつの喉元掻っ切ておくか、

 足を踏み込み身体を傾ける―――予定だった。


 「と、あとはこいつだ!」
 「おっと、」
 『ありゃ? 新月ちゃん引っ張られてる?』

 引っ張られている?
 そう引っ張られている。重力で、
 幸いなことに飛ばされたのは私、とスタシス新月だけだった。ならば神通力を、と手を伸ばした。
 しかしこれもお約束というのだろうか、何も起きなかった。

 「―――? っぐ!」

 この部屋の隅の壁に黒と灰色の頭髪が遠ざかるのが見える。眉をひそめる。やられた、神通力をまた封じ込められた。



 ガッ、

 「っ、危ない」

 いきなり天井に頭をぶつけるところだった。私は同じことを二回はやりたくないぞ。

 『っ、あっぶな!!! 天井に突き刺すとかクロ酷い!』

 新月が喚いているが垂れ下がっている左手で払い除けた。
 苦肉の策だが今回は天井にスタシスを突き刺し事なきを得る。身体を鎖一本で吊るすのは負担がかかることだが仕方ない。十中八九あのコイオスのせいだなこれは、あいつぐらいしかこんな事出来ない。
 しかも重力で抑えられている間は私が神通力を使えないよう力で捩じ伏せてくれている。

 「ははは! クロノスともあろうものが吹き飛ばされるとはな! 最後に顔合わせしたのが四千年以上前だから忘れたのか? 俺の力を!

 俺は星を司る神!!! 重力の力を変えるのは朝飯前だ! 今だ、やれフェニックス!」

 スタシスを掴んだ右手で全体重と重力をどうにかしているとその真下、大笑いしたコイオスと私の足をグリルしようと喉を見せるよう大きく開いた嘴が見えた。

 『いや――! BBQにされちゃう!!!』
 「ザマアミロォォォ!! 流石のお前でもこの状況でどうにか出来るか?! まぁ例え焼肉になっても神だからどうにかなるだろ?―――だったら大人しく火焙りになってくれよクロノスゥゥゥ!!!」
 『うわ、すんげぇ―――中ボスがやってそうな古典的ゲス顔!!! お前クロの能力と力と発言力が欲しいだけだろ!! それだけが欲しいだけだからクロ本人はどーでもいいとか考えがゲスいんだよ!!!! とっととくたばれこの弩級屑、宇宙のチリに帰れ!!!!』
 「――ッチ、おいフェニックス。いいか? あの武器、あいつだけは黒炭になるまで焙ってやれ!」
 『ファ?! あの野郎……いつか泣かす!』

 新月が文書から滲み出るような負の感情を発信しているが私にはとても呑気に見える。
 何せこいつが言い合いをしている間私にはコイオスからの横槍で重力をかけられ、真下からは数値化したくない程高温の炎が上ってきている。私が普通の一般人ならもうただの肉片と化しているぞ。
 足元では小さく見えるカエル集団が束になって掛かっているがまるで集る蝿を払うようなものにしか見えない。ジンニーヤーによってはもっと状況が悪い。
 

 彼女はコイオスに向かって炎を纏った両手で引っ掻いているが負傷の多いのはどう見てもジンニーヤーだった。あいつにも重力がかけられているのか右足を捻じ曲げられていた。このままだと肉と骨を生きたまま分離させられるぞ。
 そんなカエルと魔人の死を覚悟した足掻きも虚しく湧き出た炎が私に向かって吐き出された。

 「―――このぉ!」

 ジンニーヤーが捨身で飛びかかるが、コイオスに強力な重力で強制的に腹這い状態でめり込んだ床に落とされる。一部始終が見えたが下から登ってくる炎に掻き消されて見えなくなった。
 
 コイオス――――――













 お前いつも思うが詰めが甘く知識が欠けているぞ。

 『――――』
 『――――』



 「ははは、これならあの化け物もこんがりと―――




 ッパォ―――ン!!!


 ……は? ぐぁぁぁぁああああ!!!」


 叫んだのは勿論私でも新月でもない、血気に逸るコイオス自身だ。
 あいつは神としての能力しか封じようとしていないのが抜けているところだ。この世界には色々と利便的なものが多く存在するのだからそこまで考慮するのが基本だろ。
 私がこの咆哮を遮ったのがあの使い物にならないと言われる屑魔法『フリップシート』だ。下から狙われているなら横にしか出せない『フリップシールド』じゃ役に立たないから足元に敷くこれが使えるかと思った。
 以前からこれで対策は練ってはいたが本気では無かった。流石に短気なコイオスでもこれには気が付くだろうと、それも今ので残念な結果になったが。
 そういえば似たもので魔術として扱われているものがあるがあれは如何なのだろうか?

 『ヒャッハー! 「汚物は消毒だ!」 ってやつ? いゃ~愉快痛快……ん? クロどうしたん?』
 「いや、『フリップシート』と『フリップシールド』の違いは何かと。大した違いは無いのに片や魔法、片や魔術だろ?これを創作したやつは何を思ってこう区別したのか……私は両方とも魔法でいいと思ったのだが」
 『ん……新月ちゃん分かんない!』
 「お前はそういうやつだよな。分かってる」

 頭にクレヨンで描いたような花が咲き乱れた脳内をしている新月に言ったのが馬鹿だった。こいつ十分の一も理解していない。

 『で、それがどうしたん?』
 「どうしたって誤表記だぞ。あの魔法を創作した輩に指摘するべきだろ」
 『え、んな面倒なことすんの? 絶対その作者とやもこれぐらい……って思ってるか気が付いてないって! やんなくっていいよ、お金貰えるわけじゃないんだしさ!』
 「やめろ、それだと私がクレーマーに見えるだろ」
 『あ、そうだ。作ったやつに話付けて金をせびろう! ついでに間違いを見つけたとしてクロの名前を大々的にに宣伝しよう! クロの偉大なる功績を糧に新月ちゃんは優雅な午睡の日々に浸り―――「おい無視すんな!!!」

 なんよー焼肉? 新月に被せんといて』

 焼肉……か、言いたいこと分かる。子供三人に『フリップシールド』をかけてなかったらあいつらも焼肉だった。黒焦げたコイオスが足元で喚いているがあいつは……まあ、死なないからいいだろ。
 
 さて、厄介なのがコイオスが私の力を封じたことだが―――今はいいか。
 能力封じなんて神同士でも力を封じることはできるが出来ても一時的なものだ。最悪コイオスを気絶させたら解ける。
 
 このように、



 「頭上注意だコィス『ホーリーツリー』」

 集中力が途切れて湾曲された重力から解放されたところで『ホーリーツリー』を出す。
 が、流石にそこまで馬鹿ではないので脳天には刺さらず右に避けられた。鳥が貼り付けになったのとコイオスの右肩に刺さったので良しとするか。

 「―――っぇ!!!  ってメェ、何すんだ! ……あぶねぇだろ」
 「は、こんなもので根を上げるのか? ぬるいぞ」

 痛みに声を上げたコイオスに飛び蹴りとスタシスで吹き飛ばす。次に突き、もう一度鎌を振るい距離を詰めていく。
 ここまで執拗にコイオスだけを狙えば海綿の詰まった頭でも私が何をしようとしているのか分かったか分かってないか不明だがとにかく私と対局に距離を取ろうと縦横無尽にチャクラムを投げて逃げ惑う。ボウボウ鳥に指示を出しながらやればいいものを。
 まあ、そのボウボウ鳥さんは焼き鳥になった挙句『ホーリーツリー』が効いていて口を開けることは愚か、瞬きが出来ない状態で貼り付けになっているので使い物にはならないのだが。


 ところでこのコイオスについて最大の特徴を上げよう、それは何と言っても星のありとあらゆる力を司っていること。
 のはずなのだが……いかせん本人が浅はかなせいかあまり使い回しが出来ていないのが欠点だ。まともに考える力があったら自分で王にでも何でもなれるというのに残念なやつだ。

 「う、うぁ、なんだよ?! 来んなよ! ……なんか喋れよ、こぇえよ!!!」
 「『――――』」
 「だからなんか言えよ! 無言が怖い!」

 真っ赤に燃えるダイヤモンドの球やら水を大量放出する球やらを無茶苦茶に投げてくるので避ける、分断する、打ち返す。
 あ、ホームラン。

 所々壁や天井に当たって砂煙と瓦礫を作成しているがジンニーヤーには我慢して貰おう。

 「きゃあああ!」

 あ……今度はジンニーヤーに鉄の球が当たって気絶した。あとで詫びに肉と一緒にコイオスが出す物で利用出来そうな物を頂戴して渡すか。

 『ねぇクロ! そろそろ必殺技とか出してケリをつけてよ。お腹空いた! 俺だってお肉食べたい。生ハム食べたいし、焼肉も食べたい!』
 「必殺技なんて私は持ってないぞ。言っておくが必殺技や奥義なんてものの名前を叫んでいる暇があるならその時間に倒せ場いいだろ。あんなもの要らん。
 それから肉が食べたいと言っているが普通ならこんな時『食べる気にならない』と言っているだろ。今日は食べたいのか?」

 搾り取れるだけ搾り取ろうとしていると新月が愚図り始めた。気の抜けた声に私もコイオスも呆れて動きが止まった。それでもなお新月は止まらない。

 「さっきの芳ばしい香りでお腹ハングリーなのよ! 俺の唯一輝けるハングリー精神が焼肉食べたいって輝いているのよ! ついでに言うと必殺技は世のセオリーだぞクロぴょん!』
 「変な付けたしはやめろ。お前には食い意地以外に何も張れないのか?」
 『そうだぞどうだ!!! 凄いだろ!!!』
 「「凄くないだろ(ねーよ)!!」」
 『ウキャキャ!! ヽ(゜∀゜)ノ』  
 『おそろっちじゃん! 笑えるんですけど~』
 「笑えるわけねっ―――

 「終わりだ」

 ブギャ!」
 「余所見をしているからこうなるんだ」

 新月の頭のネジが飛んだ会話をしたせいでコイオスと同じ言葉を突っ込んだ。
 新月の頭が猿になったところでコイオスの気がそれた。その隙を逃さず顔面にストレートをお見舞いすると簡単に気を失い途端に通常時の状態に戻る。
 コイオス、お前弱過ぎるだろ。手こずりはしたがすぐ終わってくれて助かった。


 外套を外しコイオスが動かないうちに簀巻きにして締め上げる。途中で耳につく音が上がるが妥協はしない。今のうちにボウボウ鳥も始末するかと足を動かしたが本当に元の阿呆鳥か確認してからにしようと思い止まった。
 フェニックスの区別が出来るやつ……確かあいつならいつもエジプトからの捜索願いを見ていて区別はつくはずだ。あいつに頼むか、


 空間に切り込みを入れて世界の隙間を開ける。さらにそこを弄りもう一つ付け加える。
 何をやっているのかと言うと世界と世界を無理矢理隣接させようとしている。はっきり言ってとてつもなく手間がかかるし疲れるからやりたくない。
 でも早めに返品したい。

 その一心で手探りのなか引き寄せていくと手ごたえを感じた。それをもう少し弄り倒す。合っているか分からないがスタシスで切り込みを入れる。
 合っているのならばまず最初に投げかけられるのは―――














 「「「―――ぎゃぁぁぁあああああ!!!」」」



 そう、このような悲鳴だ。
 開いた空間の先はオリンポス、正確に言えばオリンポス十二神がしのぎを削る会議の場のど真ん中だ。

 「こ、この力は!!!」
 「ク、クロノス?!」
 「お父様?!」
 「お前、一体何のつもりだ?!! ついに反旗を―――」

 少し先から見知った男女様々な声が耳障りな声が耳に付きまとう。五月蝿いな。
 騒ぎを聞き流していると金髪にブランドの物と分かるスーツの青少年、新月のあだ名で『ぜうぜう』ことゼウスが覗き込んできた。
 世界二つと空間一つを挟んで対面するとたいして時間が空いているわけではないのに久しぶり思える。

 「お、親父ぃぃいいい??!!! い、いきなりなんなんだりょっ!」

 噛んだな、
 私がいきなり現れたせいもあってか威嚇だか求愛だか不明の頓珍漢な動きで私を指差す。

 「何でここにきたんだよ?! も、もしかして帰ってきたのか?」
 「いや、帰るわけじゃない。返品しに来ただけだ。まずはこれ」
 「―――ん、……え? は、離せぇぇぇ!!」

 騒ぐゼウスに簀巻きを見せる。持ち上げた瞬間に目覚めたのか揺れて暴れるコイオスが鳴き叫ぶ。五月蝿いので鳩尾に一発拳を入れて黙らせて向こう岸に投げ渡す。投げ込むとどこかにぶつかったような衝撃音と短い悲鳴が聞こえた。

 「はぁぁぁ??!! これ馬鹿のコイオスじゃないか!!! 何でこいついるんだよ!」
 「飛びかかってきた」
 「飛びかかってきた?!」
 「で、捕まえた」
 「捕まえた―――って野良猫じゃないんだからよ!」
 「よく喚くなくから性質は野良猫みたいなやつだ。野良猫でもいいだろ」
 「よくねぇ!」

 向こう岸から伸びてきた手に手を掴まれて振り回される。ガキかこいつ、

 「というか今までどこ徘徊してたこのドアホ!
 どっか行ったと思ったらいきなり顔を出して問い詰めようとしたらまたどっか行ってるし! 爺婆にGPSつけたがる息子夫婦の気分だわ!」
 「あと何があったんだよ! 真後ろで蠢いているフェニックスってあれ最近行方不明届が出てるエジプトの阿呆鳥じゃないか! それに背景! ここなんだよ、洞窟か?
 それにそのアダ―――じゃなかった、鎌! 何がどうなってんだよ! 説明! 説明カモーン!!!!
  いきなり言われても俺はおや……あんたみたいな巻き戻し再生出来ねーんだぞ! 全知全能神でも無理があるわ!
 あらすじ、あらすじプリーズ!!!! 置いてけぼりにされてたやつに理解を求めるな! いきなり話の輪に入れたって時と場合と会話の内容の言葉のキャッチボールが不完全、というか情報が伝わってすら無いのに出来るか! 
 こっちは家でのんびりしてたらいきなり戦場に放り出された心境だぞこのやろ――痛い!!!」

 どこ産か聞く前にあっさり終わった……コイオスお前エジプトにまでわざわざ盗みに行ったのか、馬鹿にも程がある。の件といい今度きたらエジプトに放り捨ててやろう。

 そんなことを考えているとゼウスが新月のようになっているが気色の悪い動きをしながら蠢いて柱に頭を打った。かける言葉が見つからない。……心境なんてものは知る由もないから質問に答えればいいのだろうか? しかしそんな全部は細かく説明出来る時間は無いぞ。

 「そんな全部は答えている時間はない。質問にだけ答えるぞ。まずボウボウ鳥こと焼き鳥のフェニックスはまだ片付いていないから今は渡せないから一回消してそっちに送る。少し―――



 『は?』
 「は? ボウボウ鳥? ってか焼き鳥って、言いたいことはわかるがド直球じゃねえか。あと意味わからん。そこまで察せれないぞ」
 『てん、てん、チーン! うん、俺もよく分からん。時間が無いってどないやねん。説明……まあいいや! 説明あっても分からんし』
 「うわぁ! 武器がなんか文章送ってきた怖ぇ! ってか説明あれば頑張れよ、あきらめんな」
 『武器じゃねーよカオス改め新月ちゃんだ! 勝手にホラーな物件にすんな。あと無理、俺考えの嫌い。頭のIQテストやったら78って出たし』
「え、低っ。というかお前の存在事態が恐怖物件だろ。主成分が未知の物質Zとかで構成された頭のネジが一本もついてないイかれたマッドサイエンティストって言われても信じるわ。なんせあのアホのカオスだぜ? 変質者でも通じるし」
 『はあ? こんなキュートな新月ちゃんが変質者な訳無いだろ!!』
 「お前のどこがキュートだ! 今の姿見ろ、武骨な武器だろ!」
 『これは世を偲ぶ仮の姿ってやつだ!』
 「偲んでねーじゃん!!」

―――――――――――
―――――
―――



 待て、と言おうとしたら何故か私を放って言い争いが始まった。
 情報を考えろ、後ろにまだどでかい鳥が残ってるのに無視するな馬鹿か? 馬鹿だな。いや馬鹿だから気がつかないんだろう。そんな馬鹿は放ってもう一のアホの処理をしておくか、でないと送り返せない。
 時として同じく忘れさられて痛みも忘れたボウボウ鳥との距離を一瞬で飛び越え言い争いをしているスタシスを振るう。刃の面が切り刻むように回転するとボウボウ鳥は赤を通り越して真っ白になり四方から血を吹き出した。
 こいつも呆気ないな、インフェルノの方が手こずった。

 『「え、え―――!!! ねぇ(おい)今の何?!』
 「何って、鶏肉を玉ねぎのみじん切りのように切ってやっただけだ。何も無い」
 『いや、これを必殺技って言うんだって! 言ってよ!!』
 「お、お前そんな技持ってたのかよ?! もう一回見せろ! 見てなかった!」

 ボウボウ鳥が木っ端微塵になり灰の山が出来始めるとつい先程まで私を無いものと認識していた二人が叫ぶ。さっきまで私を無視していただろうが、もう一回なんてしないぞ。

 「さっきまで文字と口で運動会をして気がつかないお前らが悪い。あとこれは必殺技でも無い。一瞬で木っ端微塵にしただけだ」
 『だからそれが必殺技!!!! 名前ナッシング?! なら俺が考える!』
 「却下」
 『え――――――!!!』

 子供のように叫ぶアホを床に刺して放置し、神通力で出した箒と塵取りで灰を素早く掻き集める。山盛りになった塵取りを【無限の胃袋】に入れていた魔獣の遺体入れにしていた袋に詰めてゼウスがいる向こう岸に投げ渡す。
 この時袋を見ていたやつら全員がなんとも言えない顔をしていたのが印象的だった。


 「確認が取れたからこの灰はお前に渡す。フェニックスだからあと数時間後にはこの灰から卵が形成される筈だ。それをエジプトに送って置いてくれ。
 そして質問の答えだが洞窟は正解だ。あと鎌じゃない、スタシス。正式名称をクロノススタシスだ。詳しいことはコィスに全部吐かせろ。二度と逃げないようクレイオスと一緒に鎖にでも繋いでおけ。じゃあな」
 「は?! お、おぃぃぃいいいい―――「ブツッゥ!」」

 こちらの事情が分からないゼウスはだらし無く口を開けた。丁度そこで時間切れとなり空間が閉まった。
 悪いなゼウス、細かいことはコイオスに事情聴取してくれ。


 『ねぇ、親子の会話がアレでええの?』

 騒音の元凶がいなくなり途端に静まり返った空間に新月の文書が転がった。


 ――――――……別に問題はないだろ。

 「時間が無いから仕方ないだろ。あと私に普通の親子の会話を求めるな」
 『はは~ん、なるほですな。クロってぶっちゃけ子持ちししゃもでも知らない間に出来てた状態だからどう接していいかわからんとね。
 でも俺は全部知ってるからなんも言わんよ。世の中神様でも、というか神様だからこそ分らんこともあるし。別に出来ない物の一つや二つはあって当然よ。』

 知ったかぶり……とは言えない。流石に長い間私にくっついて姉を自称していただけあってアホの一言では切り捨てれない文字だ。


 ……図星で何も言い返せないことは知られているらしい。
 伊達に私の半身、姉ではない、か……




 『あ、折角焼き鳥作ったのに食べてない!!! お腹空いた! クロごはんちょーだい!』
 「今は無理だ」
 『やだやだやだやだやだ!!!! 生ハム食べたい!』
 「ガキか」
 『ガキだ! お菓子ちょーだい!』
 「馬鹿か、指でもくわえて我慢しろ」
 『……ふびふはけは!(訳、指ふやけちゃった!)』
 「……はぁ」

 赤ん坊か、







おまけ

 ちなみにあの後ゼウスはねじの緩んだ親父に向けて吠えていましたとさ。
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