遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第2章

【番外編】チート再び

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 以降、新月がお送りします

 状況確認、よし。クロもハリスくんもつーちゃんも睡眠に入ったからこれでゆっくりと行動ができる。自分で作った服の中からのボロいマントとシャツ、ズボン、それに男物のブーツを身につけこっそりとゲルを抜け出し真夜中の静けさを纏った宮廷の庭を散歩する。
 手入れが行き届きすぎて寸分の狂いも乱れもなく切りそろえられた植林を見ながら歩く。なんか整いすぎて気持ち悪いよね、花もなく木だけの庭って―――「お嬢様」




 『$%*#'!!!!』

 突然背後から声がかかり心臓が飛び跳ね今現在声が出ない筈の体のが悲鳴を上げるがやはり声は出ない。

 やっば何か見つかった!!!  

 「お嬢様私です。ツァスタバです!!」
 『なんだつーちゃんか、驚かせないでよ』

 鈴を転がすような声が再度聞こえ後ろを振り返ると声をかけてきたのは燕尾服を脱ぎ俺が作った旅用のマントを身につけたつーちゃんだった。

 『びっくりしたー……って、なんでつーちゃんがいるの?!』
 「お嬢様が考えていることはお見通しです。お嬢様はマスターに悪意を向ける者と今から会いにいくのでしょう?」
 「……よく分かったね。つーちゃんって探偵の才能でもあるの?」

 鋭い目つきで見つめられ自分の声がワントーン低くなるのが分かる。なんで分かったのかと聞くと雲ひとつない星空を背負った銀は被りを振りさらに目を鋭くする。

 「いいえ、これはただの感です。女性になったからかですかね、こういうことに敏感になったんです。それでなんとなくですがお嬢様が今からなさることが分かったのです」
 『へーやっぱ女性の方が感が働くんだ』
 「ええ、ですがなぜ私をお誘いしてはくれないんですか? 私には暗殺スキルがついてるというのに」
 『あははー……て何? つーちゃんも来るの?』

 笑って誤魔化すと当たり前ですと腕を組んで答えられた。ありゃりゃ……こりゃご機嫌斜めだ~マジでつーちゃん付いて来るわ。

 「ではまずどこに行くのですか?」
 『んーとね、実はまだあいつらの住居知らないからそこから調べないと、
 まずはクロの目玉を抉ろうとしようとしたやつ……あれ男だよね。それとクロのコアを見たいとかほざく馬鹿令嬢、クロ殺してつーちゃんをR指定にしようとした男の三人が先かな? 
 あとはまた今度、前の二人は物盗りに見せかけてお家から金品巻き上げて潰す。後の一人は前回がありそうだから証拠を世界中にばら撒く。
 あの言葉からして魔族、エルフ、獣人、ドワーフ全部の種族から恨み買うようなことしてそうだから。でも俺そういうの不得意だからこの情報操作はつーちゃんに任せていい?』
 「かしこまりました。では今回のターゲット二人の情報を探したし住居を割り出します」

 どこに行くかと言われてまだ名前もわかっていないことを告げるとつーちゃんは頷き割り出すといって何やらステータス画面を弄り始めた。




 『特殊スキル【裏仕事】を使います』

 意識を集中させる為か目を閉じ地に片手をつけ何やら復唱のようなものを唱え、それと同時に聞こえる能力発動時の機械的な声。

 「終了しました。お嬢様が申しておりましたターゲットの名は順にアコギ伯爵、住まいはタンオ地方の領地にある屋敷。
 ヨクシン伯令嬢ガメツイーヌ、住まいは王都からほど近いタンラン地方、タンオ地方の隣ですね。そのヨクシン伯爵の領地内にあります屋敷。
 最後の人物はオショク公爵、今現在の住まいは王都内にあります貴族街の邸宅でございますね。この人物はあとで私がなんとかしますのでまずはこの二人から会いに行きましょう」
 『早!!  どうやってわかったの?!』
 「それは機密です。それより早く行かないと夜が明けてしまいます。早く行きましょう」

 どうしたらあんなに早く割り出せるのか知りたかったがさらりとはぐらかされた。
 背中を向けられて腑に落ちなかったがつーちゃんのいう通り早くしないと夜が明けちゃう。素直に従うとつーちゃんは今まで見たこともないような速さで庭園を抜け出し城壁を軽々と超えて走り出す。
 凄え、巡回中の兵士もあまりの速さに気づいてナッシングよ。

 走っている間はお互いに暇だったのでポツポツと会話をしながら先を急ぐ。
 聞くとタンオ地方は王都から少し離れているがつーちゃんはこれぐらいなら全然問題ないらしい。この国では迂闊なことが出来ないから今回だけ特別だとウインクされて目に衝撃波を食らった。美人のウインクって凄いね!

 他には見事に名は体を表すと言いますがその通りの人達ばかりですねーなんて話をする。
 なんだよガメツイーヌって、欲心ばかりでがめついってことですか? 受け狙いのネームですかと二人で名前にツッコミを入れながらツァスタバ号でまずタンオ地方とやらに足を踏み入れる。
 つーちゃんの情報能力ではここはちょっとした野菜の産地らしいのであとで屋敷の中の食材も拝借していこう。


 そう二人で考えていると小さな町にほど近い場所に如何にも民家を圧倒させるために派手に作りましたと言っている屋敷がそびえ立っていた。
 外から様子を探っていると屋敷の兵士はひょろひょろとしており頼りなさそうに見えたのでつーちゃんが催眠魔法というのを使っておねんねさせる。
 っとここでつーちゃんが魔法か何かで髪の色を真っ赤に塗り上げ口元をハンカチで結んで隠しあの蹄ブーツを脱いで兵士の靴部分の鎧―――サバトンを拝借した。

 『なんでそんなことしてんの?』
 「? 今から入るのは泥棒ですから少しは変装をと……」
 『あっそっか。なら俺も変装しないと……』

 【無限の胃袋】をガサゴソとかき混ぜながら前に作り出したアクセサリーを出す。
 出したのはただの布で出来た仮面、ファッションでヘアスタイルを変えるため作った黒髪のウィッグを装着して華麗にポーズをドン!  と決める。

 『どう?  ゴスロリ用に作っておいたのが役立ったでしょ?』
 「おお素晴らしい。これならお嬢様はお嬢様ではなくどこにでもいる少年に見えます」
 『でっしょー!  じゃあ行こう!』
 「かしこまりました」

 月を背負い拍手喝采を受けて華麗にターン、そしてお辞儀をする。
 どこにでもいる少年に見えるというのはこれからコソ泥に近いことをするんだからしっかりと変装出来ているという褒め言葉だろう。その褒め言葉に気を良くして忍び足で屋敷へと侵入する。



 屋敷内は外側と同じく如何にも貴族でございと自己主張している金装飾が施された無駄な調度品が溢れかえっていたので次々と有り難く頂戴して行く。ついでに見回りをしていた召使いっぽい子は縛って転がす。
 ははは、精々苦しめ!  この無駄な調度品の大半は質に入れて鼠小僧よろしくしてやろう。

 そう心の中で搾り取られた税の消えた行く末を民間人に知らしめてやろうと思っていると飴色のドアの前に行き着く。

 『つーちゃんここ……』
 『ここです。この先にアクシン伯爵が眠っていると反応していますね。いかがなさいますか?』
 『うーん……身包み剥いで町のど真ん前に

 《私は農民の皆様方の税金をネコババしました》

 って書いておけばいいよ』
 『なるほど、では伯爵だけでなくその奥方やご子息も巷では横暴で名前が通っていますが同じように?』
 『うん、でもそっちを先にやっちゃおう』
 『かしこまりました』

 流石にここでは声は出せないので手話をやっている振りをしつつ【以心伝心】で互いに意思疎通をとりながらまずはワイフさんとドラ息子を寝ている寝室に忍び込み縛り上げる。
 途中でドラ息子の方が起きたけど俺達が手話で会話していると思い込んだのか歯を食いしばって吠え出した。

 「貴様ら乞食の障害者風情がこんなことをして許されるとでも思っているのか?!!!  おいそこのクソガキ!!!  この縄をほどきやがれ!!!」

 わぉ、貴族とは思えない口の悪さだね~んなの聞くわけないじゃん。まだ夢の中にいるのかな?ってか誰が乞食じゃ!
 ほどけほどけと五月蝿いので無駄に整っているけどメタボリックなお顔にストレートで拳をお見舞いする。
 うん、スッキリした隣で肥え太った豚が何か言ってるけど俺豚じゃないらコミュニケーションをとろうとしない限りわかんないし。
 そのまま放置してこの屋敷の主人がいる部屋まで戻りいびきをかいていたおっさん身包みを剥いで町のど真ん前に投げ捨てて女帝ちゃんから貰ったザクザクの金貨を適当にばら撒き次のターゲットへと移行する。


 こちらも同じ用に忍び込みこむとちょっと面倒だった。なんとあの、ガメツイーヌってやつが寝起きでフラフラしながらも魔法で応戦しいてきたのだ!!  
 まぁつーちゃんが一瞬で背後に回り込んで気絶させちゃったからそこまで苦労しなかったんだけど。

 この素晴らしい対応をしてくれた小娘ちゃんはお名前通りのお部屋に住んでいて尚且つ忍び込んだ筈の俺達が召使いさん達にありがとうございましたと言われた。筆記で何があったのかと筆談するとこの小娘ちゃん、召使いさん達をいびり倒していたらしい。
 よってこの小娘ちゃんはちょっとお仕置きがてら他のやつらとは別の方法で人生を終わらせてやった。

 別ニナニモワルイコトシテナイヨ? タダシバラクハ恥ズカシイ思イヲスルダケダヨ?……性格には素っ裸でグラビアポーズさせてやっただけだし……
 でもつーちゃんはこの小娘ちゃんにしたことを不満に思っているのか仏頂面で帰り道を走っていた。

 『つーちゃんなんかご機嫌斜め? どうしたの』
 『どうしたの? ではございませんお嬢様、なぜあの小娘はあれだけで済ませてしまったのですか?
 あの者はマスターを殺し命の源であるコアをコレクションにしようとしたのですよ?!  あの者の部屋には紫色や黄色のコアがあったというのに』

 理由を聞いたらつーちゃんはもっと苦しめなければ気が済まなかったらしい。なぜあれだけでで済ませてやったのかとそこが不服だと申し立てておられた。

 『そりゃ俺だって時間があればもう少しやったけど時間ないしー』
 『いいえ、時間無くても踏み潰してあげればよかったのです。マスターを食い物にしようとした者にはそれが相応しい』
 『ほーう、つーちゃんはクロにえらく心酔していると見たー』

 でも今回は仕方ないと言ってもつーちゃんは妥協しない。そんなにクロのことが好きなんだと思わず送ってしまった。
 後から俺も好きだけどね~と送るととんでもない答えが帰ってきて冷や汗が背中を伝った。

 『ええ、私はマスターやお嬢様を崇拝しております。出なければマスターやお嬢様のやる事なす事全てに感動など湧きません。
 本来、私はシルバーゴートという魔獣。とある地方では神として崇められるような存在です。そんなものが人の形を作り出してくれたとはいえ簡単に従うと思われますか?』

 そう言って俺の目を覗き込んだつーちゃん……ツァスタバの目は紅く爛々と輝き瞳孔が山羊特有の横長に変わっており角も角隠しのリボンを結んでいる筈なのに一瞬だけ見えた気がした。 
 月に照らされたそれらは月光によりさらに不気味さを増し微かに微笑んだ口元からは八重歯が微かに見えていた。

 『おー怖い怖い』
 『何が怖いですか、その私が今現在背負っておられるお方の方が私よりも恐ろしいのではないですか』

 素直な感想を言うと先ほどの表情から一転、眉を下げた困り顔へと変わる。

 『ははは……正解だ。俺だってその気になればクロ程力は出せないけどこの大陸ぐらいはいけるしね』
 『そうでしょうとも。でなければマスターもお嬢様も主人とは認めておりませんよ』
 『へー、じゃあ他の神様ならどうだったの』

 言葉に力を込めて真剣に答えるとつーちゃんは鼻を高くして頰を緩ませると走るスピードを倍に上げた。あー喜んどる~。
 そこでなんとなくに気になっていた質問をするとさっまで風が顔に体当たり痛かったと言うのに今はそんなに強く風を感じなかった。



 いつの間に立ち止まっていたのだろう。顔を上げると赤く煌めく生命の色にじっと見つめられていた。

 「目ガ合ウ前二踏ミ潰シテ殺シテル」

 それは瑞々しい唇がら発せられたとは思えないような声が普通に出てきた。
 地獄の底から亡者が嘆く声を凝縮させて不気味さを塗り固めた低音の男の声、叫ぶように喉から出てきたわけではないのにたった一五文字の言葉に踏みしめられた大地からは冷気のようなものを感じる。
 こそクロが倒したというシルバーゴート本来のものなだとなんとなくに確信した。

 『わぉ!  クロがマスターでよかったね~』
 「ええ、本当に」

 声は戻っていた。クロの名前を出すとつーちゃんはうっとりとした顔で微笑む。

 『でもクロにはさっきの話言っちゃダメだよ? クロだと嫌われちゃうからね』
 「っ、そうですね。マスターには完璧な私を見てもらいたいので尻尾を出さぬようにしなければ」
 『つーちゃんクロのこと好きだもんね~』
 「お嬢様?!」
 『あはは、照れなくていいから。早く帰ろークロが心配するー』
 「ああ、そうでした早く帰りこのガラクタを処分しなければ!」
 『いっそげー!  ツァスタバ号!』
 「了解しました!」

 面白く思ったので少しからかうとつーちゃんは頰を微かに赤て怒鳴る。そこがまた面白くってまたクロの名前を出すと話をさらりとかわされて再び走り出した。
 あはは~可愛い! でもつーちゃんはクロに仕えるだけで満足しちゃうから無理かーと心の中で付け足したのは空に輝く月すらも気が付かなかったことだ。



 おまけになってしまうんだけどこの地方の町にも金貨ばら撒いたからすっからかんになっちゃった!  でもいいもん、あとで奪った品々を質入れて帳消しにしたから問題ないしーむしろプラスよ~♪


****

 「あいつら何勝手に動いてるんだ」

 もう夜明け間近となり起き上がろうとするとあの馬鹿二人がやらかしたことが流れ込んできた。新月の方は片割れの記憶として、ツァスタバは眷属がやらかしたこととして私の脳内に記録として送り込まれた。

 これはなんだと思い【世界の図書館】で調べると特殊スキルの【アナザーメモリー】という能力が新月とツァスタバの行動により発動して何が合ったのか全てこちらには筒抜けとなってしまった。
 【アナザーメモリー】はこの世界の双子が持ちやすい能力で魔力の多さによってより鮮明に片割れの記憶が流れ込んでくるものであいつらの行動はまるっと私のど真ん前で行われていたようなものだ。

 さてと、ではあの馬鹿二人をしないとなぁ。



 「お前達何をしてたのか言ってみろ」
 「『申し訳ございません」』
 「なにあったんですか?」


 数時間後、帰ってきた馬鹿二人は私に説教されハリスは馬鹿二人が持ってきたガラクタに目が飛び出す程驚かせた。
 そして神聖カルットハサーズの王都ではとある地方の貴族が全財産を奪われ、庶民は家に金貨が放り込まれたと大喜びするという記事が全新聞社の一面を彩った。
 貴族に虐げられる庶民を助ける二人の男組。
 まだ幼く長い黒髪で赤い目をした仮面の少年を怪盗α、燃えるような炎の髪にすらりとした手足、血のように赤い目をした魔術士の男を怪盗β、と勝手に名前をつけて尾ひれ胸びれを付けてくてたおかげて子供達どころか大人にさえ人気となりしばらくこの二人が世間を賑わすこととなった。
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