遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第1章

おわかりいただけただろうか?……よく見るとそこには、こちらをじっと見ている巨大な山羊の姿が……

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 大陸が見えてきたので人気の無い場所を探して降りる。現在地を確認するとここはオージュンの南の外れ、《アルトナ地方》というらしい。

 南の外れか、オークション会場があるのは王都の《グレズン》だから結構な距離がある。私ならどうってことは無いが店を回るとなると同じ人間に会うことも無きにしも非ずだ。
 どうーーー
 
   「Ksaaaa!!!」

 私以外誰一人としていないはずの場所で、背後から草を掻き分ける音と騒音が辺りに響く。
 五月蝿いので後ろを向いて【鑑定】と【世界の図書館】をダブルで使うと緑色と青色のグラデーションが綺麗な巨大鳥が口を大きく開けて待っていた。

『ジャディグルー 【種族】幻鳥【Lv】134』

ーーーーーーーーーー  
 ジャディグルー    オージュンの南地方、グレズン地方に生息する幻鳥類。  別名、【グレズンの翡翠】

 青緑色のグラデーションが非常に美しい幻鳥、その美しさは太古の文明でも装飾品として使われていた程。
 しかし、凶暴で人を食べるので大変危険な魔獣でです。
 素早さはレベルが上がるごとに動きが素早くなりレベルが120を超えていると時速200㎞で移動することがわかっているため一対一ではとてもではないが太刀打ち出来きません。
 備考、ジャディグルーは、鉤爪は加工すると宝石に、羽は羽根飾り、羽根ペンとして使われます。
ーーーーーーーーーー


飛んで火に入る夏の虫、

 土属性の魔法で地面を泥沼化させて拘束し、【呼び声】を使って従わせる。これで移動手段問題は解消だ。さっさとリストの項目を消費しよう。


****
 以降、新月がお送りします⌒⌒⌒⌒⌒/(_Д_)\コロンッ

 一方、そのころの俺とハリスくんはクロの為にギンギラギンの洋服を製作していましたー!

 「んー、クロの服は絢爛豪華な服にしたい! けど、エレガントにもしたい、というより目立たせたい!  着飾って自慢したい! こうなったら……必殺! タカラ●カのDVD!
  さっきわかったんだけど特殊スキルの中に入ってた【千里眼】がパソコン代わりに使えるみたいなんだよね、あとでクロとゲームしようっと! 勿論、ハリスくんにも今度やらせてあげるからすねちゃいやよ☆
 で、クロの衣装はーっと、クロの髪は黒だがら出来るなら金にしたい。ハリスくんも想像してみてよ王の如く光り輝くクロの出で立ち……うん、いい! 凄くいい!!」
 「は、はぁ、とりあえず新月さんがクロス様を着飾りたいってのはわかりました。けど、ちょっといいですか新月さん」
 「ん? なにー、どーったのハリスくん?」

 俺が持っている参考資料全てを使いクロ専用の盛装を徹夜二日連チャン+夜中のテンション突入モードでロングコートの刺繍をしながら喋りまくっていると、俺が切り散らかした布や糸くずをせっせと小間使いのように片づけに勤しんでいたハリスくんからクエッションが飛んできた。

 「いや、どうかしたって話じゃ無いんですけど。なんか今の新月さんを見てて思ったんですけど……もしかして新月さん、クロス様のこと大好きだったりします?」
 「ん? 大好きに決まってんじゃん。だから今こうやってクロ専用の服を作成中。あ、でもこれはクロには言わないでね。クロが聞いたら笑うだろうから。
 あとさ、分かってると思うけど俺って自分で言う程結構な面倒くさがり屋なんだよ? クロのためじゃなきゃこんな手のかかる服作らないしー。て、なんでそんな当たり前のこと聞くのハリスくん?」

 当たり前すぎて何でそんなことを聞いてきたのかこっちが知りたくなる。
 大好きじゃなければ俺が自分のことを小馬鹿にするやつと一緒にいるわけがない。さらに本当のことを言うと俺の好きなタイプは100%クロが元になっている。

 うーん、これには流石に自分のことだとしても少し引くわ。
 あ、でもショタは愛でる対象として俺の中にあるし問題はないか! よし、そうしよう。そうしておこう。

 「いえ、ちょっと。新月さんってよく面倒だって言ってるのになんでこんなに凝った作りの服を作ろうロ考えるんだろうって思ったんで」
 「あー、なるほ。だよね~、ハリスくんもそう思うよねでも見逃してほしいかも。多分、大切な弟だから無意識に贔屓してるんだと思うんだ」

 質問し返すとすぐさまハリスくんからの答えが返ってきた。だよね、自分のことだけど俺もそう思う。
 って、あれ? ハリスくんが一時停止に?! 



 まさかクロの仕業か?!
ーーーもしかして今の話全部聞かれてたり? わー、 恥ずか死ぬ。

 「へぇ~、弟……え?!  弟?!」

 恥ずいと頭の中が無法地帯になりかけた瞬間、ハリスくんが反応した。なんだ、クロが帰ってきた訳じゃなかったんだ。

 「そうさい! 実は俺が姉なんだよーん!」
 「見えませんね」

 わーん、グサッとくるぅー!!

 「やーん、悲し! でも本当。俺が姉でクロが弟、誕生日とかは無いけどね」
 「誕生日が無い……? どうして?」

 どうして、っと聞かれて喋っていても勝手に動いていたはずの刺繍をする手が動きを止めた。



 タンジョウビ? 淡上美? 誕生日?ーーー!! 




 一瞬漢字が変な方向へ飛んでいった。
 やっべ! 誕生日考えて無かった!! もしかしたらどっかで使うかもしれないのにー!
 今はとりあえず誤魔化そう。ありがとうハリスくん。今度暇があったらクロと一緒に考えておくよ。

 「それは……あー、知らないから。まぁ、今度暇があった時に決めるとするよ。誕生日、確かに何処かで使うかも知れないから考えないとね。ありがとう、ハリスくん」
 「はぁ」

 以上、新月の会話についていけないハリスくんでした☆


 「あ、そうだ! 今服作ってるんだからついでに部屋着作っておこう。クロはリラックスした茶色い熊の着ぐるみで、俺のは白い子熊で! ハリスくんもいる? ひよこの着ぐるみ」
 「いりません」


****
戻って、オージュン、王都、グレズン


 私は今、王都のグレズンのオークション会場の前の喫茶店で休憩をしていた。(鳥は外に停めている。逃げたら殺すと脅しもしておいた)

 さて、ここに来るまでに買った物を我儘リストから消しておくか。



『黒い漆が綺麗だった大小様々な戸棚があるキャビネット、
 格子棚、
 ハリス用、《神聖カルットハサーズ》産の縦では無く横に長い足つきチェスト、
 以外とあったこたつ、
 畳、これは王都を歩いている時に簡単に見つかった。とりあえず20程購入。
 円を中心にした幾多模様の大判タペストリー』

 こんなに買ったのに新月が欲しいと言っていたアンティークは少なく、私が見た中ではハリス用に買ったチェストぐらいだった。もしかしたら新月が欲しいものは《神聖カルットハサーズ》産限定なのかもしれない。
 頭の中に面倒な予感が流れたがオークション会場が時間通りに開いたので考えるのを一旦止める。会計をしてオークション会場へ向かった。


 会場内に入るとすぐに警備員らしき人物数人と、着飾った格好をした人物が数人いた。
 彼らは入り口からやって着た人間(その他もろもろの種族)を列に並べ、奥にある二つの扉のどちらかに入るように話していた。
 中には顔パスで通れるやつもいるらしいが、常連の客ってことだろう。

 しばらくして私の番になったがすぐに右のドアに入るように言われて扉の中へと案内された。
 扉を通るとすぐに調べた通りに指輪が渡され席にエスコートされる。どうやら私はいい方に通されたらしい。

 「すまない。隣、失礼する」
 「え? あぁ、どうぞ」

 端の席の女性に挨拶をして座る。
 女性は地味な色のなんの飾りが少ないドレスと頭にレースで出来たベールを被っていた。
 がよく見ると、ベールの隙間からキラキラと金色に輝く鹿のような角が見える。魔族の令嬢だったらしい。

 座るとほぼ同時に会場が暗くなり、最初の商品が出てオークションが始まる。
 始まったか、さっさと新月が欲しがっているアンティーク探して帰ろう。



 と思っていた、



 「No,4268、これまた珍しい子供の頭程のサイズのダイヤモンド!『ホワイトスター』です!!」

 ザワザワ……

 さっきから宝石やら見目麗しい生き物やら奴隷やらばっかりでつまらない。もっと凄い物があると思っていたから拍子抜けだった。
 ここまでで私が落札した物は、

 『人間の皮で出来た本(本物)、
 古い文字が刻まれた死神の鎌(本物だが錆びていて使い物にならない)、
 人魚の尾ひれ(本物、水分が抜けて萎れているが水に入れたら多分戻る)、
 異世界に繋がると言われる桜が描かれた壺(本物)、
 インド絨毯のような模様の絨毯』の四点だ。

 しかも本と絨毯以外は全部、偽物だと思われてガラクタ同然の価値だったので楽に落札出来てしまった。
 これなら魔族の子供やら、奴隷やらと落札している隣の女性の方が経済活性化に貢献している。
 もう飽きた、今日はも買い物にならないと判断したのでオークション会場を後にする。
 だがノルマのリストが消費出来なかったのでヴェレンボーンには帰らず近くの宿に泊まったが最近は両脇に子供(内1人はBBA)がいたのでベットが広く、冷たく思えた。





 次の日、ヴェレンボーンにもどって蚤の市に来ていた。
 空は快晴、右は雑貨、左には家具などの大きな物を取り扱う店、これなら新月の我儘に答えることが出来るだろう。早速、虱潰しに店を回リ始めよう。


 「そこの本棚と隣のローテーブル、買った」
 「このガラス製のランプシェード」
 「そこのクッションはどれだけあるんだ? あるだけでいい、いただく」
 ………………………………
 ………………



 目についたものを買い漁り、買った物を人がいない場所で【無限の胃袋】に放り込み、我儘リストの達成した項目を消していく。

 『新月用、彫刻が施された扉付き本棚、
 簡素なローテーブル、
 ハリス用、シンプルな薄型の本棚、
 新月用、ガラスで出来た花の蕾のようなランプシェード、
 新月が欲しがっていたアンティークらしき模様のクッション(タッセル付き)  計7個』

 これだけで結構な項目が消えた。もしかしたらオークションに行く必要が無かったかもしれない。
 そう思いながら次はどこに行こうかと考えていると、先ほどの店で旅行鞄はどこにあるかと聞いた時に今日は無いらしい。
 しかし、西の大陸《カッパズティット》製の旅行鞄は、使い勝手がいいと言われたのを思い出した私はジャディグルーに乗って《カッパズティット》へと向かった。




 カッパズティットの王都、ベットブバンに行く途中、少しの間木陰で休憩をしているとなにか重たいものを地面に下したような音がした。振動が地面に伝わって揺れる始める。
 何が起きたのか分からない。一先ず体を起こし、音のする方を見ると2~3山先から巨大な白い塊のようなものが顔を覗かせていた。
 文字にするとやや迫力がないが想像して欲しい。 
 白い、なにかの塊は山の陰からこちらへと向かっているのだ、普通なら違和感を感じるだろう。
    だが私はそんなことをする暇があるなら休みたい。


 音のする主を放置して再び目を閉じると今度は私自身に注がれる視線を感じた。
 次の瞬間、何かが走る音と共に水の入ったビニール袋を押し潰した音が間近で聞こえる。
 目を開けると辺り一面の草木が青い液体で葉を汚し、所々に青く濡れた羽で着飾っている光景が飛び込んでくる。
 隣でイビキをかいて寝ていたジャディグルーが押し潰された音だった。

 「…………」

 ジャディグルーが死んだことで少し驚きたくなるがそんな時間は無い。
 視線の先を探すとジャディグルーよりも遥かに巨大な山羊がこちらを見つめて佇んでいた。

 周りの山々に体がはみ出る程の巨体に太陽の光を浴びて燦々と輝く銀色の巻角に山羊特有の横に線を引いたような目、前足の蹄はジャディグルーを踏み潰したせいで青く汚れているがそれが体毛をより一層、白く際立たせていた。
 直ぐに【鑑定】を使う。

『シルバーゴート  【種族】幻獣   【Lv】201』



 あり得ない。この一言に尽きる。
 今まで私は200以下の魔獣しか見たことがない。こんなものが今までずっとこの大陸には生きていたとなると人間はひとたまりも無なかっただろう。

 シルバーゴートは私が自分を見上げているとわかると威嚇なのか襲撃なのかどちらかわからないがこちらに向かって突進して来たーーー






 「で、光属性魔法で無数の矢を豪雨のように振らせる。といういうのを何発かお見舞いして倒してやった」
 「うわー、エゲツない。瞬殺じゃん」

 驚きながらも新月は「ま、当たり前か。だってクロだもん!」と満面の笑みを浮かべる。だが……

 「いや、これが瞬殺じゃ無い。魔法を二回使ったからな」
 「え……?! 二回使ったのか ーーーあのクロが?」
 「あぁ」

 満面の笑みを浮かべていた新月の顔が一瞬にして驚愕の色に変わる。
 そう、誰でもないこの私が瞬殺出来なかったのだ。驚いて当たり前だろう。

 私はあのシルバーゴートに向かって始めに使った魔法は天から火の玉を落とすことが出来る火属性魔法の『ティアズサニー』という魔法だった。それをあのシルバーゴートは避けたのだ。

 普通、魔法を避けられるのは珍しく無い。魔獣だって死ぬとわかっていて飛び込む程馬鹿は無い。そんなやつだったらあっという間に人が殲滅させているだろう。
 だが私が放った『ティアズサニー』というのは上から落ちてくる魔法でしか無いが秒速60mで落ちてくる直結500mの火の玉だ。
 しかも場所は大きな山々が広がる山脈だ。例え、シルバーゴートが歩いていたところは山と山の間で幅が火の玉よりもある障害物になるようなものがない場所だったとしてもだ。

 そんな場所でこんなちょっとした暴風並みの速さで降ってくる火の玉を、あの巨体で避けたなんて普通はあり得ない。  
 何よりも私の攻撃を避ける=神の行動が読まれたということだ。
 あのシルバーゴートが特別なら仕方ないがこのことは少し引っかかる。

 「確かにちょっと引っかかるね~……でも偶然でしょ、そんな日もあるさ~」
 「そうだな……」

 事情を説明すると新月も少し引っかかるらしい。珍しく眉間に皺を寄せて考える素ぶりを見せた。しかしすぐにいつもの能天気な顔に戻った。
 あまり深く考えようとは思わないらしい。私も偶にはそんな日もあると自分に言い聞かせてこのことは記憶の片隅に置いておくことにしよう。












 「あーあ、失敗した。また次の機会を探らないとな~」
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