遑神 ーいとまがみー

慶光院周

文字の大きさ
上 下
27 / 82
第1章

超魔法?

しおりを挟む
 「疲れた~。昼飯! 飲み物!」

 王都を出てゲルを建てた瞬間新月がリビングに置いてある私が出した大型クッションにダイブした。

 「飯! 飲み物! デザート! クロなんか作って! 俺はダラける! 」

 そのあと、次々に注文が飛び交い、床からズブッ、グサッっという消して小さくはない音がする。
 なんだこの音。

 「新月あんよ上げろ」
 「む~。はい」

 うつ伏せのまま海老反りをする新月の足を横にどかす。

 ……床に微かなへこみがあった。


 神通力を使って直し新月の足につけてる防具兼武器を外す。お嬢様の靴を脱がず執事じゃないが私が注意しても今の新月は自分でやるとは思えないので仕方がない。

 「せめてこれは脱げ。床に穴が空くだろうが」
 「分かりましたって、それより飯!」

 全部脱がし終わってから新月に軽く注意するが、怒鳴り声の命令で返される。
 はいはい、作ればいいんだろ。我儘で傍若無人なお嬢様がこれ以上不機嫌になる前に昼食作りに取り掛かるとしよう。


 キッチンに行き【無限の胃袋】からバタールを取り出して半分に切る。バタールとはフランスパンの一種でバゲットよりも小さめのパンのことだ。その内側にバターを塗って馴染ませるために少し置いておく。

 「クロス様このパンはこの前に行った異世界で買った物ですか?」

 パンの形を不思議に思ったのかハリスが聞いてきた。

 「あぁ、ハリスついでに手伝ってくれ。そこの棚にある皿とコップだ。そう、それ。出して置いてくれ」
 「はい」

 食器の準備をハリスに任せて今度は具材を作る。
 生ハムとモッツァレラチーズ、バジルの葉、赤玉ねぎとレタスを出す。
 まずは赤玉ねぎからか。皮をむいて軽く水で洗い、半分にしてから薄くスライスする。
 モッツァレラチーズは一回包丁を水洗いしてからゆっくりとスライスする。前に普通に切ろうとしたら潰してしまったことがあるのでここは力を入れないようにする。
 パンがバターと馴染んで来たのでレタスとバジルの葉を適当にちぎって乗せて、赤玉ねぎとモッツァレラチーズ、生ハムを順に乗せ、もう片方のパンで挟む。
 最後に上から岩塩と粗挽きのコショウ、少量のオリーブオイルを軽くかけて味を整える。適当に作ったがこれでいいだろう。あとはオレンジをくし切りにして皿に乗せたものと紅茶を用意をする。
 

   テーブルを見ると食器を出し終わって手持ち無沙汰で座っているハリスの隣に紅茶の匂いに誘われたのかクッションを持ったままの新月がいつの間にか椅子に座っていた。
  視線に気づいたのだろう。新月がこちらに首を傾ける。

 「出来た?」
 「あぁ、とっとと食え」

 出来たばかりのサンドイッチを皿に載せてテーブルに置くとでは遠慮なく、といって新月がサンドイッチを齧る。
 むすっとしていた顔が少し和らぐ。もう一口食べたあと皿の上を視線が泳ぎ、シュンっとなる。なにが気に入らなかったのだろうか?
 
 「そこそこうまい。けど一種類だけ?」
 「私に料理を求めるな。ハリス食うぞ、いただきます」
 「イタダキマス……」

 一種だけって、そんな短時間で何種類も作れるだけの技量は私にはない。
 ちなみに、ハリスのいただきますががカタゴトなのは私達の真似をしているせいだ。こちらでは一応お祈りをしてから食べるらしいから慣れないのは仕方ない。
 私もハリスに続いてサンドイッチに齧り付つく。まあまあだな、



 一通り食べたので一旦、休憩をしてるとハリスが私の顔色を伺いながらのぞき込んできた。

 「あの、クロス様このあと何もすることが無かったら魔法の練習をして貰ってもよろしいですか?」
 「魔法?」
 「あ、俺は服作るからパス」

 魔法と聞いた途端新月がパスした。おい、逃げるな。逃げるんだったら私も連れていけ。

 「なぜだ。お前も練習は必要だろ」
 「服がボロくなってるんだよ。直すついでに洗わないと、クロとハリスの服も作るから免除してって」

 私とハリスの服か。そこを言われると許せざるおえないな。
 服は、新月>私>ハリスの順で汚れていた。確かに服は必要か。これからも必要なものだし、私が出すのなら新月のアイデアが必要になってくる。ならついでに何着か作って置いて貰うとしよう。

 「分かった、じゃあ必要な素材を私が出すから着替えなんかを何着か作れ。それが条件だ」

 条件を出して新月に提案すると、そんなのお安い御用だという顔をして新月がオッケーサインをした。本当にちゃんとやるのか少し心配だ。

 「オッケー! じゃあ、リネンとチュールとビロードと綿に絹、あとレースと刺繍道具に金糸銀糸にリボンにエナメ……「待て待て、流石に多すぎる。もう少し減らせ」」

 服の素材の名前が飛び交う。
 多い、いきなりそんなに用意しろと言われても無理だ。布の素材なんて私は絹とリネンぐらいしか実際のものは知らない。他のものは知識としてしか知らないこの二つでもいいじゃないか。
 新月の口を手で押さえてこれ以上の注文が増えないように止める。がすぐに手を跳ね除けられた。

 「無理、あとパールやボタンにファーに金具も欲しいからよ・ろ・し・く」

 語尾にハートを付けるようにいって手を前に出される。しばらくそのまま出された手を見ていると早くといって「ん!」と唸る。

 今すぐに全て出せと申しますか……


 「じゃ、頑張ってね~」
 「しっかり作っておけよ」
 「頑張ってきます」

 新月に見送られて私とハリスは外に出た。勿論、出る前にご所望品は全部出させられた。
 おかげでもう神通力が0だ。もう今日は使えない。
 予定では今から本の知識を私に取り込むのに使う予定だった。計画は新月の手で破壊された。



 「ーーーでは、今から新月が作る間私達は魔法の練習をする。その前に本を全部読むから待っててくれるか?」
 「はい、いいですげどそれを全部読むんですか?」

 近くにあった石に腰掛けると魔法・魔術大全の分厚い背表紙を捲る。とハリスが魔法・魔術大全を覗きながら聞いてきた。
 どれだけ時間がかかるんだろうと言いたいのだろう。

 「いや読むというより捲るだけといった方が正解だな。それだけで覚えるだろう普通」
 「はぁ……いや普通じゃねえ」

 気の抜けた返事の後は間紙を捲る音だけが周りに響く。やがて参考資料のページになったので本を閉じるとボンッ という音がした。


 この本の中に書かれていた魔法や魔術は全て頭の中に記録した。同時に魔法の使い方を全て覚えたぞ。
 本の内容をざっくりまとめると簡単な魔法は呪文無しで出来るが高度なものになると必要になる。
 そして魔法を使う時のコツだが……これは少し驚いた、魔法の操り方というのは案外私が使う神通力とやり方が似たものだったのだ。これなら私が教えても大丈夫だろう。全部出来る確信があった。

 「待たせたなハリス。始めよう」
 「やっとですか~。結構待ったので今日はやらないのかと思いましたよ」

 あらかさまにほっとした顔でハリスが答える。そんなにも時間が経っていたのかと思い時間を調べる。
 あれから30分程経っていた。さっさと始めようと思っていたがここまでかかっていたのか、詫びに何かしてやろう。

 「ではハリス、まず詫びに私から何かやろう。どんなものが見たい?」
 「どんなですか? えっと……」

 突然どんなものが見たいかと聞かれてハリスが固まった。少しの間うーん、と唸っていると。あっ、と言ってこちらを向いた。

 「じ、じゃあ、俺は火属性のものが出来たのでそれから見せて下さい。呪文が要らなくてなるべく凄いので」

 注文が決まった。火属性で呪文無しのなるべく見栄えがいいのか。ならこれか、

 「どんな魔法なのかな……もしかして空まで届くような炎とか?!」

 手を前に出すとまるで子供が遊園地に行くような顔でハリスが私の手元を凝視してくる。……ちゃんと出来てくれ、ここでシーンとかだと私の面目まるつぶれだ。

 「では見てろ『メテオライトファール』」

 神通力を使う時と同じように意識を集中させ力を練るようにして考える。
 この魔法は空から隕石を落下させて爆発させるというものだったが今は練習なのであまり派手なものじゃなくていい。そう念じて魔法を発動する。
 ……だがしっかり唱えたはずなのに辺りはシーンとしている。




 あれ? 何も起こ

ーーーゴゴゴォォォ!!!! 

……たな。

 上を見ると白く輝きながら何かが煙を上げて落下してくる。いや何かじゃなくっても絶対に隕石だなこれ。
 隕石は一瞬赤く光るとまた白くなり今度は辺り一面が光り何も見えなくなる。

 不味い、これは結構大きいかもしれない。素早くさっき読んだ本に載っていた魔法で『アイアンガーディアン』とやらを発動させて王都周辺を囲む。
 次の瞬間、ボッガガガァァァンンンーーーという音と一緒に地面が揺れて爆風が広がり身動きが取れなくなる。
 煙が薄れてくると私達の目の前には直径15m程の決して小さいとはいえないようなクレーターがあった。




 確かこういう時新月ならこう言うな。

 「めんご」
 「殺す気か!!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~

ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した 創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる 冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる 7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す 若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける そこからさらに10年の月日が流れた ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく 少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ その少女の名前はエーリカ=スミス とある刀鍛冶の一人娘である エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた エーリカの野望は『1国の主』となることであった 誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた エーリカは救国の士となるのか? それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか? はたまた大帝国の祖となるのか? エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

元魔王おじさん

うどんり
ファンタジー
激務から解放されようやく魔王を引退したコーラル。 人間の住む地にて隠居生活を送ろうとお引越しを敢行した。 本人は静かに生活を送りたいようだが……さてどうなることやら。 戦いあり。ごはんあり。 細かいことは気にせずに、元魔王のおじさんが自由奔放に日常を送ります。

陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

日向
ファンタジー
 これは現代社会に埋もれ、普通の高校生男子をしていた少年が、異世界に行って親友二人とゆかいな仲間たちと共に無双する話。  俺最強!と思っていたら、それよりも更に上がいた現実に打ちのめされるおバカで可哀想な勇者さん達の話もちょくちょく入れます。 ※初投稿なので拙い文章ではありますが温かい目で見守って下さい。面白いと思って頂いたら幸いです。  誤字や脱字などがありましたら、遠慮なく感想欄で指摘して下さい。  よろしくお願いします。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

処理中です...