遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第1章

パーティ

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 起きた。現在4:25、


 目を開くとすぐに茶色いクッションカバーが目に入った。そうだこの前にベットを出したんだった。
 私のベットは白いシーツに茶色のベットカバーと同系色の何種類かの模様入りのクッションが付いたローベット(新月が細かく注文を付けて私が作ったもの)だ。しかしなぜか私は動けない。
 無理矢理に体を起こすと左にハリス、これは分かる。右に新月、なぜだ。
 揺すって二人を起こし朝食をすましゲルを畳む。さて、今日は早く起きたからギルドにでも行くか。

 「クロ、実は作戦があるんだ。
 1、5:00にギルドに到着を試みる。(もう4:59だけど)
 2、同じ場所の依頼を何個か取って来る。そうすればギルドに一日で二回だけですむからな。 
 3、どんなにズルだとしても使えるものを総動員して、出来るだけ依頼を早く終わらる。 
 4、他の冒険者がまだ依頼をやっているうちにさっさと交換する! 
 どうだ、良い提案だろ? 俺達なら普通の冒険者よりも早く終わらせられるからな!」

 朝早くで王都の店がまだ開店の用意をしていて人通りが少ない道を歩いていると新月が私の腰に抱きつきながら提案した。
 いや、ドヤ顔するのはいいが引っ付かないで欲しい、重い。
 邪魔なので腰から引き剥がして脇に抱えて歩く。ついでだ、ハリスも抱えてしまえ。その方が早く歩ける。

 「で、どうよ?」

 脇に抱えられたままの新月が再度ドヤ顔で返事を求める。提案という程のものでもないが出来ればそうしたい。

 終わらせたあとの時間はゆっくりするのに使いたいと思っているし、たとえば(新月の)趣味の時間に当てる、(お邪魔虫がいない間に)買い物に行く、(お邪魔虫がいない間に)ハリスの勉強時間に当てる、などしたい。

 「分かった分かった。それよりもそろそろギルドに着くぞ、依頼をしっかり読んで同じ場所のを取ってこい。いいな」
 「イェッサー!」「はい!」

 着いた瞬間新月とハリスが依頼が貼ってある掲示板に突撃した。手持ち無沙汰なので周りを見ていると結構人がいた。
 大方、皆同じ考えで動いているのだろう。私は何もしていないが。


 しばらくの間ギルドの入って直ぐの場所にある椅子に座って冒険者達が掲示板に群がるのを観察する。
 依頼を取ったやつは素早く受付嬢に見せてそそくさとギルドをあとにする。これが何度か目の前で繰り返される。このギルド嫌われてるな、という率直な感想が湧いた。

 程なくして新月とハリスが戻ってきた、手には何枚かの紙を持って。

 「何持ってきたんだ、見せてみろ」
 「はい」「ほい」

新月とハリスが紙を差し出してきた。

ーーーーーーーーーー
【討伐依頼】ゴブリン  報酬:銅貨10枚
 数:3   (倒した分だけ報酬は払う)
ランク:E   場所:嘆きの渓谷
備考:倒したゴブリンの右耳とコアをちゃんと回収すること。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
【採取依頼】霧草   
報酬:一本につき青銅貨5枚
数:5本(取ってきた量、質で報酬額を考えます)
ランク:F  場所:嘆きの渓谷
備考:霧草とは霧が発生する場所に生える多年草で色は白いです。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
【二連依頼】レインバードの羽の採取と配達
報酬:銅貨2枚
数:4枚
ランク:D   場所:嘆きの渓谷
備考:レインバードとは水のように透明な青色の羽を持ち、羽ばたくと水滴を撒き散らすことがある鳥だ。
配達はギルドから右に三件の店『アクセサリーショップ  猫の目』へ、
ーーーーーーーーーー


 見事に場所は【嘆きの渓谷】一箇所だった。ランクはF~Dまであったが。
 しかしこの【二連依頼】とはなんだろうか、気になったのでギルドの掟を開いて依頼について調べるとあっさりと【二連依頼】についての項目を見つけた。


ーーーーーーーーーー
【二連依頼】とは二つの依頼が重なったものである。
 例えば、原材料である魔獣の爪を採る→採った爪を依頼主に持って行く、
という二つの仕事をしなければいけないのが【二連依頼】だ。

 他にも採る→届ける→届けたものを依頼主が加工したものをまた別の場所に届けるなど作業が増えていくごとに【三連】【四連】となっていく。
ーーーーーーーーーー

なるほど、だから今回のクエストが【二連依頼】なのか。


 「へ~、そうなんだ。で、クロこれでいい? 受付嬢に持ってくよ」
 「あぁ頼む。私が行くとまた面倒なことになりそうだからな」
 「おk! そうして、じゃハリスくん行くぞ」
 「はい、し……レモーネさん」

 ハリスが新月と言い掛けて言い直した。今まで普通に新月で会話が成り立っていたのでこれには少し違和感を感じる。

 「ハリス違和感があるから言い易い新月でいいぞ。公共の場では新月と言わなければいいんだから無理にレモーネと言わなくていい」
 「うん、なんかしっくりこなかったからいいよ。テキトーに誤魔化してどうしてもって時だけでいいから」

 私だけでなく新月も違和感があったらしい。そりゃ今まで新月さんだったしな。それを言うとハリスは少し口元を上げて頷いた。

 「じゃ持って行くね~」
 「あ!  待ってください」

 空気を変えるためか新月が話を戻して受付へと先に走っていく。置いていかれたハリスはそのあとを追いかけて受付嬢の待つカウンターに向かった。再び帰ってくるのを待っていると二人が話し合いながら戻ってきた。

 「クロ、なんかさ~その~」
 「どうした、なんかあった?」

 何があったのかと聞くとイヤーそんな大ごとでもないけどさ~と新月が笑いながら話の続きをする。

   「なんかさ~、最近魔獣が強くなってるから討伐は気を付けてなんだと。なんでだろ~♪   
   ま、俺達には関係の無い話だけどさ! あと、ついでにパーティの登録しといたよ!」

 さらりと重要な話をなんでだろで済ますな。だがパーティか、冒険者達が協力して作る団体だった筈だ今の私達には確かに必要だ。
 それで名前にしたんだ?

 「あぁ、アイアム ・ア・ゴットだ!」

 アイアム・ア・ゴット?……アイアム・ア……直略すると《私は神だ》だ。


 腰に手を当ててどうだったと鼻を高くしているアホに呆れ果てた。私達だ……まんまじゃないか……正体言ってる!
 なんのための偽名だと思ってるんだ。なぜ名前にしたんだ。馬鹿だろ、

 「なんでそんな名前にしたんだ馬鹿野郎」

 小声で叫ぶ。アホの頰をまた抓ってやろうとしたらしゃがんで躱された。チッっ、とでも思えばいいのかこの場合。

 「いや、流石の俺でもそんなバナナなことしないって今は嘘ッス! って、アベシッ!!」

 うん、今回は当たった。

 「いってー、チョップはヤメてー! 縮んじゃぅ~、これ以上縮んでも俺はコ●ンにはなれないんだぞ」
 「お前にはそんな頭ないだろうが。あと五月蝿い、本当はどんな名前にしたんだ?」
 「ひでぇ( ̄▽ ̄;)、本当の名前は『ヴージェノヴ・ニュアレンバーグ』だよ。ニュルンベルクの処女だな」

 ニュルンベルクの処女、かさっきのよりはマシだな。なら許してやるか、……でもニュルンベルクの処女ってアイアンメイデンのことだったはずだ。厨二病か、

 「クロス様、そろそろ人が増えてきました。そろそろ【嘆きの渓谷】へ行ったほうがいいんじゃないですか?」

 ハリスがそう言うと掲示板の方を見る。さっきよりも人が増えていた。本当だ、早くギルドを出よう。


 目指すは【嘆きの渓谷】だ。
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