勇者に溺れた魔王様

世夜

文字の大きさ
上 下
19 / 19

雨の余波

しおりを挟む
「ー雨が降り止まないな。」
レイガがきてから10日がたった。未だ人間軍からの反応はなく、ただ平穏な日が続いていた。
「こちらの世界にも雨は降るんだな…」
めずらしそうに言葉を発した。
「戦うときには雨なんて降ってなかったから…。俺は雨を見るのは初めてだなぁ…」
…か…。
「まあなぁ…。戦争のときはどうしたって負の魔力が濃くなるし…。しょうがないよなぁ…」
レイガは訳がわからないというように首をかしげた。
「……ああ。そっか。人間の方はがあるんでしたっけ?うらやましいにゃぁ~」
「えっ……とね。魔界の天気っていうのはね、魔力ので決まるの」
「濃さ?」
「うん。たとえばね…。戦いの時はみんな恨みや妬みを力にしてるから負の魔力が濃くなって薄暗ーい淀んだどんより~って感じの天気になるの」
「魔力を含んだ禍々しい空気のせいで空も淀んでしまうのにゃ」
いつもの会議室にいるみんなの声が聞こえる
「それに比べて普段はみんな楽しく暮らしているから、魔力のバランスがよくて、気持ちのいい天気になるのよ」
「ああ。だからこの雨はちょっと異常自体なんだよ」
「ラディ…シエラ!おはよう!」 
「みんな、おはよっ!」
「おはよう」
ちょっと遅れた合流だったが、みんな揃っていたようだ。
私はマリンに目を向けた。
「これは水の魔力が強くなっているようだが…。…マリン。何か知ってるか?」
「それが…私にも心当たりがなくて…」
「ふむ…。」
魔力の濃さに左右される魔界の天候。魔界にはそれぞれの属性に特化した者の集まる集落がいくつもある。
私と行動を共にしているシエラ以外の幹部はその筆頭のような者たち。
マリンが知らないとなると…

「事件かしら」

シエラのいうその言葉に、誰も驚くことはなかった。
きっとそうに違いない。そんな肯定の意すら感じるように。
「しかし…ここは私の城だ。王都周辺にまで届くだろうか?」
「小さい悲劇ならその周辺だけの影響しかないだろうがなぁ…。そこにある魔界地図を見たか?全土が雨だったぞ?」
「でもでもっ…!そんなに大きい事件なら…それこそ何か報告があると思うの…。そんな大変な事例はいっこもきてないよ?」
「…どこが…魔力…1番…濃い…?」
会議室の中央にあるテーブル。その上に表示されている魔力を使った立体的な魔界地図に目をやる。
「フレア」
「……へいへい。調べりゃいいんでしょぉ?ちょいと時間くれよ。…その間に遠出の準備の1つでもしてくれや」
「ありがとう」
視線が集まる。私を見てる。…指示を…私の指示を待ってるんだ…。
「調査に向かう者を決めよう。…マリンは来てくれ。魔力を操ることになるかもしれない。あとは…」
シエラが来てくれると戦力的には申し分ない。何か戦闘になっても大丈夫だろう。
…しかし…全勢力をこちらに…という訳にはいかない。
城の守りが薄くなるのは得策ではない。
ラルスは来て欲しいところだ。回復を私一人で担えるとは思わない。
しかし…属性相性でいうのならリンに来て欲しいところだ。
火力も高く、水性魔力に木性魔力は相性がよい。
フレアは相性は良くないだろう。しかし…機動力という点と何かの調査における能力は随一だ。調査要員としてはこれ以上にないだろう。
火力ならばレイガに来てもらうということもあるが…万が一人間だとバレたときに対処できない。
今は魔法で魔族へと見せているが…何の拍子に解除されるかわからない。
考えられる最善は…
「リン、ラルスも一緒に来てくれ。シエラ、フレア、レイガは待機だ。何か情報が入るとそちらに情報が届くように通信機を持って行こう」
「通信機?魔法ではダメなのか?」
レイガの疑問そうな声。
「確かに魔法の方が確実に届くし、手軽だ。何かあったときのために魔法も発動はするが…」
私は中央のテーブルへと歩む。
「ここは魔界だ」
立体魔界地図を手で掬う。
「魔界の者は魔力がわかる。盗聴に長けた者もいるだろう。……意外と人間達の使うような魔力を持たない機械というのは盲点だったりするのだ。」
「魔族が相手ならそっち使って通信したほうがいいし、人間なら逆に魔法を使えばいい」
「臨機応変に…な」
みんなは準備へと取り掛かっていった…。
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

ドナルド
2019.12.17 ドナルド

今回もとても面白かった!
シリアスとは違う落ち着いた回だけど、とても大事な話が聞けた気がしました。次回の更新も楽しみにしています。

世夜
2019.12.18 世夜

今回も読んでくださってありがとうございます!!
シリアスが続いていたのと、勇者さんのお話を書きたいと思っていたので、このような回にできて私自身とても満足しています(*´ω`*)
これからも更新していきますのでよろしくお願いします!

解除
ドナルド
2019.10.28 ドナルド

今回も楽しく読みました〜!忙しい中更新ありがとう〜!
魔族の魔族らしからぬ会話は面白かった〜!

でも、勇者の影、それがこれからどう進んでいくのか楽しみです!

解除
ドナルド
2019.09.22 ドナルド

相変わらず人間らしい魔族のやりとりがとても面白いです。これから勇者がどんな風に絡んで行くのか、魔王とみんなの関係がどう変わっていくのか、楽しみがいっぱいです。これからも無理せず書き続けてくださーい。応援してます。

解除

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。