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居場所
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「勇者よ。」
「あ…ああ、なんだ?えーっと…」
「私の名はフレイアルニスト・セラギロン 。……フレアとでも呼んでくれ。」
フレアの目には光が灯っていなかった。何年と経っていても、魔族と人間には大きな溝がある。ここにいるみんなは人間にもいい奴がいることを知っている。しかし、人間の悪いことを民に伝え、広めていたのも、間違いなく私達なのだ。
「フレア…さんだな?何か用が…?」
「用…というか忠告だな。まず大前提としてあるのは、魔族は人間が嫌いだ。…ここにいる者を除いて…な。」
勇者は俯いている。じっと…何かに耐えるように。
「次に魔族は他人に好意を抱く事は滅多にない。同情なんかしない。夫婦になっている者は全て政略結婚だ。……中には恋愛結婚もあるかも知れんがな。魔族は魔族である限り、好意的感情は生まれにくいのだ。…わかってほしい。」
「…ふむ。」
「最後に。お前には名前を変えてもらおうと思う。…ここにいる間だけでいい。勇者を人質に取ったとか…無理があるだろ…。」
「…それだけか?」
「……お前なかなかムカつくな?」
勇者はニコリと笑った。
「まあいい。とりあえずは今日のところは変身魔法をかけてやる。じっくり名前を考えるんだな。」
「わかった。」
そういう2人の後ろでシエラがうーん…と唸っている。
「シエラ、どうした?」
「勇者さんの部屋よ。どこにしようかしら…。今まで人質とか取らなかったしなぁ…。そういう部屋もないし…。うーーん…。」
「……え。魔族は人質を取ったことないのか…?」
「当たり前じゃないの。生かす殺さずなんてそんな面倒くさいこと誰がするのよ?」
「そうか…。やはり、人間はウソをついていたのだな…。」
「バーーッカじゃねぇの?ウソをついてるなんてそんなに大したことじゃねぇよ。敵の印象を悪くするために話を膨らませるなんて普通だろ。ウソをついてたのは人間だけじゃねーよ。私らもウソはついてた。ウソなんて気にしてる余裕あるんならさっさと名前くらい考えてくれよな。……辛気臭い顔してる奴がいると指揮が下がるんだよ。」
「…あ…。…すまない…。」
「そ…そうだ!勇者っ!私の部屋に来ればいいさ!」
みなが一斉にこっちを向いた。
「魔王…嬉しい申し出だがそれは少し賛同しかねる…ぞ。」
「お前…それは…。」
「ラディ…。あんまりオススメはできないにゃ…。」
「え…。ラディ…私もそれは良くないと思う…よ?」
「ラルスも…反対…。」
「ダメ!…ダメっ!断固拒否!やだ!ラディの寝顔を見れるのは私の特権なのっっ!」
「ふむ…1人おかしい事を言ってる奴がいたが…なぜそんなに反対するのだ?」
「「………」」
ふむ…今度はだんまりか…。
「はぁーーーーっ!わかった!わかりましたっ!このシュメリアがもう一つ部屋を用意しましょう!」
「シエラ!ありがとう!さっきの特権の話は気になるがここは素直に喜ぶぞ!」
「ただしっ!……その…私にも…ちゃんとかまって…ね?」
「ああ。勿論だ。」
「えへへ~。はーい!できたよぉ~っ!ふふふ…!」
「ありがとう、シエラ。流石私の親友だな。」
頭を撫でてやると満足そうに笑みを浮かべた。
「もっと褒めてくれてもいいんだよっ?」
「…んっん!…シエラ、ここは会議室。そういう態度は自室に戻ってからにしてほしいにゃ。」
「あ…。私としたことが…申し訳ないわ…。魔王様、勇者殿、先にお戻りになられますようお願い致します。」
「わかった。……みんな、ありがとうな。」
「なぁ、勇者。手を出せ。」
「…おう。」
勇者はスッと手を突き出す。
「しっかり捕まっておけよ。………それっ!」
眩しい光に包まれて、気づけば私達はシエラの作った部屋の中にいた。
「勇者よ。ここがお前の部屋だ。…狭いかもしれんが、そこは…すまん。」
「……」
勇者はずっと黙っている。
「ゆ…勇者…?どうしたのだ?なにか…ダメだったか?」
「ここが…俺の…部屋…?」
「そうだぞっ!やっぱり狭いか?…どうしたんだ?」
ずっと下を向いたまま、勇者は返事をしてはくれなかった。少し震えている。
何分経っただろう…。勇者が少しずつ顔を上げてくれた。ゆっくり…ゆっくり…と。
「魔王…様…。俺は…この部屋…を…使っ…ても…いい…の…で…すか…?」
「当たり前だ!シエラがお前の為に作った部屋だぞ!」
「俺の…為…?」
「そうだ…よ…。勇者…。だからどうか泣かないでくれ…。」
「ありが…とう…。ありが…と…う…!」
青いステンドガラスに黄色のカーテン。光が通って美しい…。だが、私には勇者と勇者の滲み出ている気のする血の色のような色しか認識することができなかった。
「あ…ああ、なんだ?えーっと…」
「私の名はフレイアルニスト・セラギロン 。……フレアとでも呼んでくれ。」
フレアの目には光が灯っていなかった。何年と経っていても、魔族と人間には大きな溝がある。ここにいるみんなは人間にもいい奴がいることを知っている。しかし、人間の悪いことを民に伝え、広めていたのも、間違いなく私達なのだ。
「フレア…さんだな?何か用が…?」
「用…というか忠告だな。まず大前提としてあるのは、魔族は人間が嫌いだ。…ここにいる者を除いて…な。」
勇者は俯いている。じっと…何かに耐えるように。
「次に魔族は他人に好意を抱く事は滅多にない。同情なんかしない。夫婦になっている者は全て政略結婚だ。……中には恋愛結婚もあるかも知れんがな。魔族は魔族である限り、好意的感情は生まれにくいのだ。…わかってほしい。」
「…ふむ。」
「最後に。お前には名前を変えてもらおうと思う。…ここにいる間だけでいい。勇者を人質に取ったとか…無理があるだろ…。」
「…それだけか?」
「……お前なかなかムカつくな?」
勇者はニコリと笑った。
「まあいい。とりあえずは今日のところは変身魔法をかけてやる。じっくり名前を考えるんだな。」
「わかった。」
そういう2人の後ろでシエラがうーん…と唸っている。
「シエラ、どうした?」
「勇者さんの部屋よ。どこにしようかしら…。今まで人質とか取らなかったしなぁ…。そういう部屋もないし…。うーーん…。」
「……え。魔族は人質を取ったことないのか…?」
「当たり前じゃないの。生かす殺さずなんてそんな面倒くさいこと誰がするのよ?」
「そうか…。やはり、人間はウソをついていたのだな…。」
「バーーッカじゃねぇの?ウソをついてるなんてそんなに大したことじゃねぇよ。敵の印象を悪くするために話を膨らませるなんて普通だろ。ウソをついてたのは人間だけじゃねーよ。私らもウソはついてた。ウソなんて気にしてる余裕あるんならさっさと名前くらい考えてくれよな。……辛気臭い顔してる奴がいると指揮が下がるんだよ。」
「…あ…。…すまない…。」
「そ…そうだ!勇者っ!私の部屋に来ればいいさ!」
みなが一斉にこっちを向いた。
「魔王…嬉しい申し出だがそれは少し賛同しかねる…ぞ。」
「お前…それは…。」
「ラディ…。あんまりオススメはできないにゃ…。」
「え…。ラディ…私もそれは良くないと思う…よ?」
「ラルスも…反対…。」
「ダメ!…ダメっ!断固拒否!やだ!ラディの寝顔を見れるのは私の特権なのっっ!」
「ふむ…1人おかしい事を言ってる奴がいたが…なぜそんなに反対するのだ?」
「「………」」
ふむ…今度はだんまりか…。
「はぁーーーーっ!わかった!わかりましたっ!このシュメリアがもう一つ部屋を用意しましょう!」
「シエラ!ありがとう!さっきの特権の話は気になるがここは素直に喜ぶぞ!」
「ただしっ!……その…私にも…ちゃんとかまって…ね?」
「ああ。勿論だ。」
「えへへ~。はーい!できたよぉ~っ!ふふふ…!」
「ありがとう、シエラ。流石私の親友だな。」
頭を撫でてやると満足そうに笑みを浮かべた。
「もっと褒めてくれてもいいんだよっ?」
「…んっん!…シエラ、ここは会議室。そういう態度は自室に戻ってからにしてほしいにゃ。」
「あ…。私としたことが…申し訳ないわ…。魔王様、勇者殿、先にお戻りになられますようお願い致します。」
「わかった。……みんな、ありがとうな。」
「なぁ、勇者。手を出せ。」
「…おう。」
勇者はスッと手を突き出す。
「しっかり捕まっておけよ。………それっ!」
眩しい光に包まれて、気づけば私達はシエラの作った部屋の中にいた。
「勇者よ。ここがお前の部屋だ。…狭いかもしれんが、そこは…すまん。」
「……」
勇者はずっと黙っている。
「ゆ…勇者…?どうしたのだ?なにか…ダメだったか?」
「ここが…俺の…部屋…?」
「そうだぞっ!やっぱり狭いか?…どうしたんだ?」
ずっと下を向いたまま、勇者は返事をしてはくれなかった。少し震えている。
何分経っただろう…。勇者が少しずつ顔を上げてくれた。ゆっくり…ゆっくり…と。
「魔王…様…。俺は…この部屋…を…使っ…ても…いい…の…で…すか…?」
「当たり前だ!シエラがお前の為に作った部屋だぞ!」
「俺の…為…?」
「そうだ…よ…。勇者…。だからどうか泣かないでくれ…。」
「ありが…とう…。ありが…と…う…!」
青いステンドガラスに黄色のカーテン。光が通って美しい…。だが、私には勇者と勇者の滲み出ている気のする血の色のような色しか認識することができなかった。
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