勇者に溺れた魔王様

世夜

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人間の魔族

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魔法を行使し、素早く城へ戻る。まるで、紙芝居でもしてるようにクルクルと景色が変わり、見慣れた所へと着いた。
「…戻った。」
「…!ラディ…!良かった…。」
「…シエラ…、私はそんなにやわじゃないぞ?」
「そう…ね。…あら…?貴方は…確か…勇者…さんじゃない…?」
勇者は少し困った顔をしたが、軽く会釈した。
「マリン達は…?」
「会議室にいるわよ。マリンとリンが戦ってるから逃げてきちゃった。」
「え…?リンが…?今日は満月じゃないだろう…?」
「満月じゃなくても久しぶりの戦闘で活躍の場がないとか…悲しいでしょ。」
「ラ…ラルスは…?ちゃんと働いてるのか?」
「ラルスは寝てるわ。ついでにいうとフレアは読書中。」
「はぁー……。そうか…うん…うん……わかった…。……会議室に行くぞ。」
「………勇者も一緒なの…?」
「ああ…コイツの説明もするからな…。」
会議室へと足を運ぶ。私の家であり、私の城であり、ここは魔族の宝でもある。どこに目を向けてもピカピカに磨かれているガラスは月光を浴び、薄暗く…青白く…。なんとも奇麗なものだった。
「…なぁ、魔王…。俺はどうしていたらいいんだ?」
不安なのが伝わってくる。当たり前だ。ここは今まで敵だった所の本拠地なのだから。
「…大丈夫だ…。いつも通りのお前で大丈夫だよ。何があっても私が守ってやる。」
「ラディ!ここは、城!貴方の部屋じゃないのよ!言葉を選びなさい!」
「う…。わかってるよ…。」
「まったく…。……ほら、着いたわよ。…リンの件は半分くらいアンタらのせいなんだから、責任もってよね。私は知らないから!」
「…そんなにひどいのか…。」
重い扉を押してみると、そこは…炎に包まれていた…。
「お…おい…。これは…いったい…?」
「だからいったじゃないの。マリンが戦ってるって。リンが攻撃魔法のしかも炎属性をバンバン撃つからマリンが対処してるのよ。」
「なるほど…。」
マリンやフレアは純粋な水、炎の術者。他の属性では劣っても、それぞれの属性では何人にも負けない威力がある。
リンやラルスは木、空の属性の力を引用して様々な力に変えるエキスパート。その中でもリンは攻撃系、ラルスは回復系に特化している。
純粋な属性を使う術者達はその属性自体を掻き集め、形とする。よって発動までにすこし時間がかかるのだ。
対する引用して様々な力に変える者達は微量でも引用する属性があれば、発動したい数だけ引用する属性がなくても、周りにある他の属性と融合させ、魔法を発動させる事ができるのだ。
マリンが手こずっているのはそのためだろう。発動時間に追いつかないのだ。
「マリン、そこをどけ。」
「…!ラディ…!?…助かるわ。」
即座に水の柱を作り上に回避するとは…流石だ。
「"リンに命ずる…魔法を止めろ"」
「……あ…。」
「…リン、落ち着いたか?」
「あ…っ!ラディ!……え…もしかして、また私やっちゃった…?」
「ああ…そうだな。……しかし、今回の事は私にも責任があるだろう。…すまない。」
「そんな…!?私が悪かったよぉ…ごめんなさい…!」
「ハイハイ、そこまでにゃ~。まったくもう…どれだけ私の仕事を増やせばお前らは気がすむんでしょうにぇ?」
「まぁ、いいじゃない。改装だと思えば。…ほら。」
シエラはそういうと指をクロスさせ、パチンッと音を鳴らした。瞬く間に城を光が覆い、壊れた部分が新しく生まれ変わっていた。
「これはまた…可愛らしいデザインだな。ピンクロというやつか?」
「そうねぇ…。アンタ達がすぐ壊すからデザインのストックが無くなってきたけどね。」
「そうに違いない。」
私はそんな事を言って笑っていた。この場所が勇者にとって酷な場所だなんて、少しも考えずにいた。


「俺は…魔族じゃない…人間でもない…ならいったい何になればいいんだろうな……。なんて…俺らしくない…か…。……羨ましい…。」
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