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【第22話】

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「ユート兄ちゃん、お帰り!」

 家までまだ100メートルほどあり、それにすっかり陽も暮れて真っ暗だというに、チェルシーちゃんは僕を確認すると駆け寄ってきて抱きついてきた。
 ダーククラーゲンの件があってから、それまで兄妹のように仲の良かった子供たちに、チェルシーちゃんは長かった髪を燃やされたりしてひどく虐められたと、レーベンさんに聞かされた。
 それからというもの、チェルシーちゃんがさらに可哀そうになり、やさしくしてあげたいという気持ちが強くなっていた。
 
「ただいま。遅くなっちゃって、ごめんね」

 僕は彼女の頭をなでた。

「オラ、すっごく心配(シンペー)してただ。兄ちゃんが、もどって来ねえんじゃねーかって……。でも、ちゃんと帰ってきてくれてえがったぁ」

 安堵したのだろうか、チェルシーちゃんは抱きついた腕に力をこめてきた。
 僕はひとりっ子だから、こんな小さい娘(こ)に抱きしめられると、なんか胸のあたりがくすぐったい。

 いつまでこの島に留まるかはわからないけど、妹みたいにやさしくしてあげよう……。

 僕はそんなことを思いながら、抱きしめるチェルシーちゃんの頭をなでつづけた。
 しばらくしてから、チェルシーちゃんとふたりで家に入ると、ルミエールさんが難しい顔で僕を待っていた。

「遅かったな」

 僕に顔も向けず、ルミエールさんはそう言った。

「すみません。ちょっと色々ありまして……」

 ネルさんとレーベンさんから、ルミエールさんのことを聞かされたので、どう接していいかわからず僕はただ、もじもじとした。
 そんな僕に、

「君が村で何をしていたかなど興味はない。そんなことよりも、早く食事の支度をしてくれ」

 そう言って睨みつけた。

「あ、ああ、そうそう、食事ですね。僕も腹を空かせているんで、さっそく作りますね」

 僕がそう言うと、

「オラも手伝うだ」

 チェルシーちゃんが言った。

「ほんと、そうしてくれると助かるよ。ありがと」

 村で何をして誰としゃべったとか詮索されるのではと思っていたから、何も聞いてこなかったことに僕はホッとした。
 とはいえ、疲れて帰ってきた人に、早く食事の支度をしろと言うのもひどい話だ。

「兄ちゃん、今日は何を作るだ? 芋もバナナも、あとちょっとしかねぇぞ。あ、そうだ。でも鳥の卵を見つけたよ」

 チャルシーちゃんは、ザルに入れた卵を得意そうに僕に見せた。

「おー、すごい! この卵、青いんだね……」

 白くも茶色くもない卵なんて初めて見た。
 その青さに、少し引き気味の僕にチェルシーちゃんは気づかない。

「うめぇんだよ、この卵。いつもなら、見つけてすぐに食っちまうんだけど、兄ちゃんにも食わしてやりてえから我慢しただよ」
「え? ってことは、生のままで?」
「んだ。ヌルヌルしてうめえんだよ。兄ちゃんも食ってみろ」

 海より空よりも青い色した卵をつき出された。

「や、や、ちょっとそれは……。僕はしょう油がないと卵は生で食べれないんだ」

 僕は思わず、無理無理!、と顔の前で手のひらをひらひらとふった。

「しょう油ってなんだべか?」

 チェルシーちゃんが首を傾げる。

「えっと、しょう油はね、黒くてしょっぱいソーズみたいなものだけど――。っていうか、ソースくらいは、この世界にもあるよね?」
「知らね。父ちゃんはソースって知ってってっか?」
「そんなもの、わたしが知らないわけがけがないだろう。野菜やフルーツをよく煮込んで味付けしたものだ」

 ルミエールさんは、確認を取るかのように僕へと視線を向け、

「だが、黒くはなかったぞ」

 そう言った。

「あ、そうですか。こっちの世界では、そうなんですね」

 説明するのが面倒なので、異世界との文化の違い、ということで納得してもらった。
 それにしても、調味料が塩しかないというのは困ったものだ。
 眼の前にある食材は、小麦粉とバナナと芋と卵。
 そして海藻と塩とハチミツ、この材料で腹を満たす料理といえば、パンケーキしなかった。
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