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【第20話】
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三多という女性に異世界に送られ、チェルシーちゃんと出会ってルミールさんの家に住むことになり、そして家財道具と食料を調達するためにこの村に来たことを、僕は正直にネルさんとレーベンさんに話した。
先ほど聞いたネルさんの話の中の、強引に着いてきた貴族とは、なんとルミエールさんだった。
僕の口からルミエールさんの名前が出てきたとたん、ネルさんとレーベルさんは険しい顔をした。
「よりによって、あんなやつの世話になってるのかよ。悪いことは言わない、うちの宿に泊まりな。そのほうが、お前も気が楽なんじゃないか?」
ネルさんはそう言ったが、
「いや、そうしたいのは山々なんだけど、チェルシーちゃんが…」
僕はそう答えた。
瞳に涙をいっぱいためて、僕が出ていくのを引き留めたあの子の気持ちを無視するのは胸が痛む。
ネルさんも異世界から来た人間だし、そりゃあ、一緒にいたほうが何かと都合がいいと思う。
だけど、チャルシーちゃんを傷つけてしまったことを、悔いて悩む自分が易々と想像できる。
「チェルシー…。あの子も不憫(ふびん)な子です」
そう言ったのはレーベン。
「ユートがいることで救いになるならば、私としても、あの子の傍(そば)にいてやってほしいです」
「そうですね。まだ小さいのに母親を失くしてるし…」
そう言ってレーベンを見つめると、
「それだけではないんですよ、ユート。君は昨日知り合ったばかりだから知らないだろうけれど、あの親子には問題があるんです」
彼はそう言った。
すると、ネルさんが思い切りテーブルを叩くと、
「レーベン、ちがうだろ!」
そう言い放ち、
「問題があるのは、ルミエールだけだ!! あんなやつが父親だなんて、チェルシーはまったく不幸な子だよ。俺が引き取って、育てたいくらいだ」
そう言った。
「確かに、気難しいところはあるけど…。ひょっとしてルミエールさんて、ヤバイ人なの?」
僕はネルに訊いた。
「ああ、相当ヤバイやつだよ。あいつは、不幸を招く天才だ。俺たちが、魔王を倒すことなくこんな島でコソコソする生活する羽目になったのも、すべてルミエールのせいなんだ!」
鼻息を荒げ、ネルはまくし立てた。
そのネルさんをたしなめることもなく、レーベンさんは窓から見える海を見ている。
「あの…、レーベンさん。ネルさんの言うことはほんとうなんですか? ルミエールさんが不幸を招くっていうのは」
レーベンさんは、僕をふり返らずに海を見つめたままうなずき、
「ルミエールは、たいした魔力もないし、戦闘に至ってはまるきり役に立ちません。けれど、彼には特殊な能力があるんです。それは、彼の歌声。その歌声には、誰もが魅了されるんです。特に女性はそうでしょう」
答えた。
「あれだけ美形で歌も上手だったらな――わかる気がする」
僕は、うんうんとうなずいた。
「女性だけならいいのですが…、彼の歌声は、ダーククラーゲンというボク級の魔物を呼び寄せてしまうですよ」
レーベンさんが言った。
「ダーククラーゲンって、ネルさんたちが乗った船を襲った魔物じゃないですか。そうだったんだ…。ルミエールさんのせいで、ダーククラーゲンは姿を現したんだ」
「ええ。けれど、そのときの私たちは、ルミエールの歌声でダーククラーゲンが姿を現したのだとは思いもしなかった。だから、王都の追ってから身を隠しながらも、この島で平和に暮らすことができました。3年前に、私たちの仲間であり、ルミエールの妻だったミルフィーが亡くなるまでは…」
そう言うと、レーベンさんは眼をつぶり、うなだれたのだった。
先ほど聞いたネルさんの話の中の、強引に着いてきた貴族とは、なんとルミエールさんだった。
僕の口からルミエールさんの名前が出てきたとたん、ネルさんとレーベルさんは険しい顔をした。
「よりによって、あんなやつの世話になってるのかよ。悪いことは言わない、うちの宿に泊まりな。そのほうが、お前も気が楽なんじゃないか?」
ネルさんはそう言ったが、
「いや、そうしたいのは山々なんだけど、チェルシーちゃんが…」
僕はそう答えた。
瞳に涙をいっぱいためて、僕が出ていくのを引き留めたあの子の気持ちを無視するのは胸が痛む。
ネルさんも異世界から来た人間だし、そりゃあ、一緒にいたほうが何かと都合がいいと思う。
だけど、チャルシーちゃんを傷つけてしまったことを、悔いて悩む自分が易々と想像できる。
「チェルシー…。あの子も不憫(ふびん)な子です」
そう言ったのはレーベン。
「ユートがいることで救いになるならば、私としても、あの子の傍(そば)にいてやってほしいです」
「そうですね。まだ小さいのに母親を失くしてるし…」
そう言ってレーベンを見つめると、
「それだけではないんですよ、ユート。君は昨日知り合ったばかりだから知らないだろうけれど、あの親子には問題があるんです」
彼はそう言った。
すると、ネルさんが思い切りテーブルを叩くと、
「レーベン、ちがうだろ!」
そう言い放ち、
「問題があるのは、ルミエールだけだ!! あんなやつが父親だなんて、チェルシーはまったく不幸な子だよ。俺が引き取って、育てたいくらいだ」
そう言った。
「確かに、気難しいところはあるけど…。ひょっとしてルミエールさんて、ヤバイ人なの?」
僕はネルに訊いた。
「ああ、相当ヤバイやつだよ。あいつは、不幸を招く天才だ。俺たちが、魔王を倒すことなくこんな島でコソコソする生活する羽目になったのも、すべてルミエールのせいなんだ!」
鼻息を荒げ、ネルはまくし立てた。
そのネルさんをたしなめることもなく、レーベンさんは窓から見える海を見ている。
「あの…、レーベンさん。ネルさんの言うことはほんとうなんですか? ルミエールさんが不幸を招くっていうのは」
レーベンさんは、僕をふり返らずに海を見つめたままうなずき、
「ルミエールは、たいした魔力もないし、戦闘に至ってはまるきり役に立ちません。けれど、彼には特殊な能力があるんです。それは、彼の歌声。その歌声には、誰もが魅了されるんです。特に女性はそうでしょう」
答えた。
「あれだけ美形で歌も上手だったらな――わかる気がする」
僕は、うんうんとうなずいた。
「女性だけならいいのですが…、彼の歌声は、ダーククラーゲンというボク級の魔物を呼び寄せてしまうですよ」
レーベンさんが言った。
「ダーククラーゲンって、ネルさんたちが乗った船を襲った魔物じゃないですか。そうだったんだ…。ルミエールさんのせいで、ダーククラーゲンは姿を現したんだ」
「ええ。けれど、そのときの私たちは、ルミエールの歌声でダーククラーゲンが姿を現したのだとは思いもしなかった。だから、王都の追ってから身を隠しながらも、この島で平和に暮らすことができました。3年前に、私たちの仲間であり、ルミエールの妻だったミルフィーが亡くなるまでは…」
そう言うと、レーベンさんは眼をつぶり、うなだれたのだった。
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