2 / 28
【序章】②
しおりを挟む
碧い海が広がる小島――
海の香りをたっぷりと吸った風が僕の頬から耳をかすめてゆく。
そこには、夢の中にいるのかと錯覚(さっかく)を覚えるほどの光景が広がっていた。
一度たりとも行ったことのないカリブ海のように、海も、そして空も澄み渡っていた。
さらに太陽の陽射しがとても眩しかった。
だから僕は、眼を細めて思った。
これが夢であろうと、現実であろうと、この現状を楽しまなければと。
そう、もったいないじゃないか。
「イャッホー!!」
身に着けているものをすべて脱ぎ捨てて、僕は海へ飛び込んだ。
南の島だけあって、暦は12月だというのに海の水は適温だった。
南の島?――
ふと、そう思う。
そこが南の島だということを認識できても、いったいどこの島なのかが見当もつかない。
それ以前に、どうしてこんなところにいるのかがさっぱりだった。
???
いくら考えてみても、頭の中に浮かぶのは「?」マークばかりだ。
ってことは考えるまでもない。
そう、これは夢ってことだ。
夢ってことなら、泳ぎまくるしかないだろうよ。
てなわけで、僕はまず潜水を試みた。
けれど……、潜れない。
何度試みても、すぐに浮いてしまうのだ。
身長166cm、そして体重92㎏の僕は、幼いころからずっと「ぽっちゃり」型の僕は、潜水が出来なかった。
でも、だからって、夢の中でも泳げないなんてありえないんじゃね?
だって、だって、一度だけしか見たことない夢だけど、空を飛んだことがあるんだから。
なのに、潜れないなんて絶対にありえない。
だから、さらに試みた。
ぐむむむ……。
しかし、結果はやはり同じだった。
「ま、いっか~!」
できないものはできない。
ひとつのことをやり通すこともがんばることもできない僕は、諦めることがすこぶる早い。
諦めが早いということは、つまり切り替えが早いという事なのだ。
そんなわけで、僕は波に身を任せて漂った。
「うわー、気持ちいい!」
身体がぷかぷかと浮いて、なんと心地いいことか。
僕は浮き輪がなくても、ずっと浮いていることができる。
考えてみれば、浮いてしまう身体で潜ろうとするほうが無理な話なのだ。
眼を閉じて、しばらく波に揺られていると腹が減ってきた。
こんな小島に食べるものがあるだろうか。
確かヤシの木が一本あったような、なかったような。
僕は片目だけ開けて、ヤシの木があったであろう方角を確認した。
すると、あった。
立派なヤシの木が一本。
僕は海から上がって、ヤシの木の前に立って見上げた。
「フムフム、いいぞ。あるじゃないか」
見上げた先には、ヤシの実がなっていた。
それもみっつだ。
僕は視線を下げて、周辺を見渡した。
梯子(はしご)があればいいんだけど……。
そう思ったが、こんな小島に梯子などあるわけもない。
それならば登るしかないか、と思い直し、ヤシの木を両手で掴んだところですぐに諦めた。
92㎏という重さに、僕の腕は耐えられやしない。
ではどうするかと、改めて周辺に眼を向けてみる。
よし、これならどうだ……。
手ごろな石を拾い上げて、ヤシの実向かって投げてみた。
が、届かない。
何度くり返しても、ヤシの実に当たることはなかった。
さすがに僕も腹が立って、ヤシの木に体当たりをし、そのうえで力士のようにてっぽうをかました。
するとどうだろう。
ヤシの実がひとつ落ちてきた。
たまたまだったかどうかは定かではないが、僕は気をよくして砂地に転がっていくヤシの実を追った。
そのとき、どこからともなくメロディ音が聴こえてきた。
足を止めると、そのメロディ音は、僕が脱ぎ捨てた衣服の中から聴こえてくるようだった。
そのメロディ音が、僕のスマホの着信音だということにすぐに気づいて方向転換をした。
「痛ってー!」
方向転換をしたときに、足がもつれて僕は砂地へと頭から突っ込むように転んでしまった。
「なんだよ。夢だってのに、痛いじゃないかよ!」
僕は起き上がって、頭や顔についた砂を払いながら、着信音を鳴らす衣服に、いや、正確にはズボンのポケットに入っているスマホまで歩いた。
すぐさまズボンを手に取り、ポケットからスマホを取り出すと、そのとたん、着信音が切れた。
おいおい、誰だか知らないが、ここで切れるかよ、クソ……。
胸の中で悪態をつきながら着信歴を見ると、三多(みた)という名があった。
一瞬、「誰だ?」と思った次の瞬間、いまのこの現状が夢ではないということ、そして、この場所にいる理由を思い出したのだった。
海の香りをたっぷりと吸った風が僕の頬から耳をかすめてゆく。
そこには、夢の中にいるのかと錯覚(さっかく)を覚えるほどの光景が広がっていた。
一度たりとも行ったことのないカリブ海のように、海も、そして空も澄み渡っていた。
さらに太陽の陽射しがとても眩しかった。
だから僕は、眼を細めて思った。
これが夢であろうと、現実であろうと、この現状を楽しまなければと。
そう、もったいないじゃないか。
「イャッホー!!」
身に着けているものをすべて脱ぎ捨てて、僕は海へ飛び込んだ。
南の島だけあって、暦は12月だというのに海の水は適温だった。
南の島?――
ふと、そう思う。
そこが南の島だということを認識できても、いったいどこの島なのかが見当もつかない。
それ以前に、どうしてこんなところにいるのかがさっぱりだった。
???
いくら考えてみても、頭の中に浮かぶのは「?」マークばかりだ。
ってことは考えるまでもない。
そう、これは夢ってことだ。
夢ってことなら、泳ぎまくるしかないだろうよ。
てなわけで、僕はまず潜水を試みた。
けれど……、潜れない。
何度試みても、すぐに浮いてしまうのだ。
身長166cm、そして体重92㎏の僕は、幼いころからずっと「ぽっちゃり」型の僕は、潜水が出来なかった。
でも、だからって、夢の中でも泳げないなんてありえないんじゃね?
だって、だって、一度だけしか見たことない夢だけど、空を飛んだことがあるんだから。
なのに、潜れないなんて絶対にありえない。
だから、さらに試みた。
ぐむむむ……。
しかし、結果はやはり同じだった。
「ま、いっか~!」
できないものはできない。
ひとつのことをやり通すこともがんばることもできない僕は、諦めることがすこぶる早い。
諦めが早いということは、つまり切り替えが早いという事なのだ。
そんなわけで、僕は波に身を任せて漂った。
「うわー、気持ちいい!」
身体がぷかぷかと浮いて、なんと心地いいことか。
僕は浮き輪がなくても、ずっと浮いていることができる。
考えてみれば、浮いてしまう身体で潜ろうとするほうが無理な話なのだ。
眼を閉じて、しばらく波に揺られていると腹が減ってきた。
こんな小島に食べるものがあるだろうか。
確かヤシの木が一本あったような、なかったような。
僕は片目だけ開けて、ヤシの木があったであろう方角を確認した。
すると、あった。
立派なヤシの木が一本。
僕は海から上がって、ヤシの木の前に立って見上げた。
「フムフム、いいぞ。あるじゃないか」
見上げた先には、ヤシの実がなっていた。
それもみっつだ。
僕は視線を下げて、周辺を見渡した。
梯子(はしご)があればいいんだけど……。
そう思ったが、こんな小島に梯子などあるわけもない。
それならば登るしかないか、と思い直し、ヤシの木を両手で掴んだところですぐに諦めた。
92㎏という重さに、僕の腕は耐えられやしない。
ではどうするかと、改めて周辺に眼を向けてみる。
よし、これならどうだ……。
手ごろな石を拾い上げて、ヤシの実向かって投げてみた。
が、届かない。
何度くり返しても、ヤシの実に当たることはなかった。
さすがに僕も腹が立って、ヤシの木に体当たりをし、そのうえで力士のようにてっぽうをかました。
するとどうだろう。
ヤシの実がひとつ落ちてきた。
たまたまだったかどうかは定かではないが、僕は気をよくして砂地に転がっていくヤシの実を追った。
そのとき、どこからともなくメロディ音が聴こえてきた。
足を止めると、そのメロディ音は、僕が脱ぎ捨てた衣服の中から聴こえてくるようだった。
そのメロディ音が、僕のスマホの着信音だということにすぐに気づいて方向転換をした。
「痛ってー!」
方向転換をしたときに、足がもつれて僕は砂地へと頭から突っ込むように転んでしまった。
「なんだよ。夢だってのに、痛いじゃないかよ!」
僕は起き上がって、頭や顔についた砂を払いながら、着信音を鳴らす衣服に、いや、正確にはズボンのポケットに入っているスマホまで歩いた。
すぐさまズボンを手に取り、ポケットからスマホを取り出すと、そのとたん、着信音が切れた。
おいおい、誰だか知らないが、ここで切れるかよ、クソ……。
胸の中で悪態をつきながら着信歴を見ると、三多(みた)という名があった。
一瞬、「誰だ?」と思った次の瞬間、いまのこの現状が夢ではないということ、そして、この場所にいる理由を思い出したのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜
ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。
年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。
そんな彼女の癒しは3匹のペット達。
シベリアンハスキーのコロ。
カナリアのカナ。
キバラガメのキィ。
犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。
ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。
挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。
アイラもペット達も焼け死んでしまう。
それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。
何故かペット達がチートな力を持って…。
アイラは只の幼女になって…。
そんな彼女達のほのぼの異世界生活。
テイマー物 第3弾。
カクヨムでも公開中。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる