里子の恋愛

星 陽月

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【第3話】

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 その日里子は、朝のミーティングに何とか間に合い、1日の仕事を終え、勤め先の旅行代理店をあとにした。
 渋谷の街は、すっかりネオンに耀く世界へと変貌している。
 道玄坂を109の辺りまで下りてくると、さすがに若者たちで溢れ賑々しい。
 入社したころは、里子もよく渋谷の繁華街に足を向けたが、26歳となった今では、その賑わいが鬱陶しい。
 その中から早く逃れようと、里子は人の波を縫うようにして歩き、地下鉄の駅に向かった。
 これから、大学の頃からの親友、内田奈々実と寺島玲子のふたりと、青山にあるイタリアンの店で食事をすることになっている。
 2週間ぶりに会うそのふたりは、まだ独身だ。
 材木資材を扱う会社に勤めている奈々実は、結婚願望が強く、その上26歳になったということもあって、

「出逢いを待ってるだけじゃダメなのよ」

 と今年になってすぐに、男女の出逢いをサポートするクラブに入会した。

「今年こそは、いい人を見つけて結婚するわ。絶対に」

 意気揚々と言っていただけに、里子から「結婚するわ」と聞いたときには、自分のことのように歓び、祝福の言葉を口にしたが内心ではかなりショックを受けていた。
 現在、「いい人」を見つけるために奮闘中だ。
 玲子はフリーのライターで収入も多く、結婚という安住の巣をつくるより、自由でいたいと思っている女性だ。
 それだけに、過去の男たちが「結婚」の二文字を口にしたとたんに別れの引導を渡してきた。
 今は、三つ年下の売れないカメラマンとつき合っている。

「彼は、結婚からは一番遠いところにいる男だから」

 私の理想に合っているのよ、と口では言っているが、男は売れてないだけに収入も少なく、玲子が貢ような形になっている。
 けれど玲子に言わせれば、あくまで援助をしているということらしい。

 騙されてるんじゃないの?

 玲子のことを心配し、里子はなんどもそう口にしようとしたが、ある日のこと、玲子とその男の3人で会うことになって昼食を摂(と)ったことがあった。
 遠藤一馬と名乗ったその彼は、厭味のない灼けた肌が印象的で、里子が想像していたタイプとは違っていた。
 笑うとどこか幼さが残ったやさしい顔になる。
 それがカメラの話になると、眉根を寄せて熱く語る眼は耀き、その眼に男の色気を感じさせた。
 里子も、一瞬その眼に見惚れたほどだった。

 こんなところに、玲子は惚れたんだな……。

 もし自分が玲子の立場だったら、やはり同じことをしただろうか。
 里子はそんなことを考えながら、そのときの、彼の横顔を見つめる玲子の顔がとても綺麗で、これが玲子の恋愛の仕方なんだと思った。
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