哀しみは、もういらない

星 陽月

文字の大きさ
上 下
50 / 50

【最終話】

しおりを挟む
 晩秋の陽が落ちて、西の空が黄昏に染まるころ、中学校の鐘が鳴り響いた。
 下校する生徒とともに妙子は校舎をあとにすると、一度アパートにもどって着替え直し、銀座へと向かった。

 晃一に逢える……。

 その想いに胸が高鳴りつづけた。
 地下鉄を銀座で降り、地上に出ると、すでに街はネオンの輝きに溢れている。

 早く逢いたい……。

 逸る自分を抑えながら、晃一の待っている店に足を向けた。
 しっかりとした足取りで歩く。
 それなのに気持ちは先へ先へと向かっていく。
 十ヵ月ぶりの新たな再会なのだ。
 心が昂ぶるのは当然だった。
 そんな妙子だっただけに、車道の反対側にあるデパートの、電光掲示板に眼がいかなかった。その電光掲示板には、今日一日のニュースが流れていた。

 昨夜、日本時間の零時十五分。
 スペイン、バルセロナ発国際線旅客機が、滑走路を飛び立った直後に墜落炎上した。
 墜落原因はエンジントラブルと思われるが、詳細は現在調査中。
 搭乗していた日本人は、十三人。生存者は――

 音もなく流れていったニュースは、次のニュースに変わった。
 妙子は、「高千穂」の前まで来ると立ち止まった。
 胸の鼓動が激しくなる。
 眼を閉じて、ひとつ大きく深呼吸をし、店に入ろうと足を踏み出したそのとき、妙子はふとあしを止めた。
 名前を呼ばれたような気がして、妙子は辺りを見渡した。
 その声は、確かに晃一だった。
 だが、人波の中に晃一の姿はない。
 その刹那、妙子は嫌な胸騒ぎを覚えた。

 馬鹿ね、彼なら店の中で待ってるわよ……。

 そうだ。
 彼は店の中にいるのだ。
 妙子は改めて歩を進め、店の中へと入っていった。
                                了
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

婚約者

詩織
恋愛
婚約して1ヶ月、彼は行方不明になった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした

瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。 家も取り押さえられ、帰る場所もない。 まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。 …そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。 ヤクザの若頭でした。 *この話はフィクションです 現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます ツッコミたくてイラつく人はお帰りください またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

処理中です...