上 下
20 / 84

【第20話】

しおりを挟む
 クソッ、とことん死んだことを認めなけりゃよかったのかよ……。

 流れでつい認めてしまったことが悔しい。
 だが、ここであとには退きたくない。
 高木は厳しい眼光を老人に向けて近づく。

「な、なんですか。殴るおつもりですか?」

 思わず老人は後ずさる。
 と、
 高木はその場に土下座をした。

「頼む。なんとか見逃してくれ」
「そんな真似をするのはおやめなさい。さ、高木さん。立って」
「いや、あんたがわかったと言うまでは、俺は頭を上げねえ」
「そんな、ちょっと、わたしを困らせないでくださいよ」

 老人は高木に手をかけ、立ち上がらせようとするが、彼は断固として頭を上げようとしなかった。

「もう、ほんとに困りましたね」

 まったく、といったように老人はため息をついた。
 そのときであった。
 天から眩いばかりの光が射してきた。
 その光を、老人が見上げる。

「高木さん。どうやら天へと召される時間がきたようです」

 それでも高木は頭を上げようとしない。
 老人は光を見上げながら、高木からすっと背を向ける。

「どうです高木さん。これほどに美しい光を見たことがありますか?」
「――――」

 高木はそれに答えない。

「あちらの世界はどこもかしこも、このような煌びやかな光に包まれているのです。それはもう、言葉では言いつくせないほどにすばらしく、幸せに満ちあふれた世界です。それを考えたら、この世に留まるなど、つまらないことではないでしょうか。そうは思いませんか?」
「――――」

 それにも高木は答えない。
 老人はふり返って高木に眼を向けた。
 だが、そこに土下座をしていたはずの高木の姿はなかった。

「高木さん?」

 室内を見回し名を呼ぶが、高木からの返事はない。
 だがそれでも、老人はあわてる様子もなく、シーツをかけられ治療台に横たわる高木の肉体に眼を落とした。

「行かれてしまわれたか」

 ぽつりとそう言い、老人はまた光をふり仰いだ。
 天からの光は、その煌びやかさをそこなうことなく降り注いでいる。 

「これでよかったのかどうか……。いやはや、なんとも……」

 ため息交じりにそう呟いたものの、老人のその表情どこか穏やかに微笑しているように思えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おじろよんぱく、何者?

月芝
キャラ文芸
タヌキ娘の拳が唸り、トラ女が猛り吠え、ヘビ娘が関節を極めては、キツネ娘が華麗に宙を舞う。 シカ男が夜の街道を爆走しつつ、解剖マニアのウシ女医がメス片手に舌なめずり。 巷を騒がせる変態怪人たちが暗躍し、たまにおっさん探偵が迷推理を披露しつつ、 カラス女の銃口が火を噴く。人情刃傷、悲喜劇こもごも、時々バトル。 阿呆どもがわちゃわちゃ戯れる笑撃の問題作。 ヒョウ柄の生息地・大阪と魑魅魍魎が跋扈する京都。 その狭間に位置しているのが高月という街。 冴えない貧乏探偵、武闘派女子高生、やさぐれ刑事、イケメン怪盗……。 住民たちはひと癖もふた癖もある猛者ばかり。 個性豊かな面々が繰り広げる日常は、どこかピントがズレている? それもそのはず、だって彼らは人間に化けた動物なんだもの。 人間たちに混じって動物たちが暮らしているのか。 動物たちに混じって人間たちが暮らしているのか。 そんなややこしい土地でも生きていくのには先立つモノが必要。 ゆえに動物たちの社会進出は必然であった。 本作は高月の街にて探偵業を営むとある動物にスポットを当て、 その生態に迫る密着ドキュメント風の仮面をかぶった何か、である。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

電脳将ウェブライナー~侵略者に町が襲われている件~

吉田明暉
キャラ文芸
 侵略者が襲ってきたので、それを撃退しようとする物語です。  より詳しい内容が知りたい方は、下の長~い文を読んでください。嫌だったら、作品に進んでください。  私は、小説に対して「笑ったり、ドキドキしたり、読んでいたらいつの間にか夜が明けていた」というのを至高だと思っているんですよね。  設定やメッセージ性はあくまで裏に潜ませて、どんどん先を読みたくなるような小説が書きたいのです。  「文字が不思議とスラスラ頭に入ってきて、最後まで退屈しなかった!えっ、もう終わり!?次の巻、早く出してくれよ!」と読者に言ってもらえるような作品が書けたら、それ以上の喜びは無いです。    さて、設定についてはこのくらいで、登場人物とその舞台について語りましょう。  、基本的に私の作るキャラクターは頭のネジが外れているのが多いです。はっきり言うとサイコパスです。主に全員が。  ただ、書いていて思ったんですけど、私は彼らが大好きです。サイコパスだけど、好きなんですよね。妙に常識的な部分もありますし。おまけに敵も好きです。やっぱり、主人公と戦う相手は魅力的な方が良いですよね。  舞台となる町は、「ぱっと見はマトモだけれども、地獄よりひどい魔境」をイメージしました。絶対に引っ越したくないですね。行ったらその日に殺されてもおかしくない修羅の地です。  まあ、そんなこんなで色々な要素をゴチャゴチャつなぎ合わせてこの物語が出来ました。長いお時間いただきましてありがとうございました。  ぜひ、最後まで読んでいってください。感想もお待ちしております。

タロウちゃんと私達

鏡野ゆう
キャラ文芸
『空と彼女と不埒なパイロット』に登場した社一尉と姫ちゃん、そして羽佐間一尉と榎本さんがそれぞれ異動した後の某関東地方の空自基地。そこに残されたF-2戦闘機のタロウちゃん(命名は姫ちゃん)に何やら異変が起きている模様です。異動になった彼等の後を任されたパイロットと整備員達が遭遇したちょっと不思議なお話です。 『空と彼女と不埒なパイロット』に引き続き、関東方面の某基地にF-2戦闘機が配備されたという架空の設定になっています。

ニートな俺と笹島神社の巫女さん

けろよん
キャラ文芸
ニートをしている俺の家に近所の神社から巫女さんが乗り込んできた。この家からは何か良からぬ気配がするという。俺は彼女と一緒にいろいろやる事にした。

午後の紅茶にくちづけを

TomonorI
キャラ文芸
"…こんな気持ち、間違ってるって分かってる…。…それでもね、私…あなたの事が好きみたい" 政界の重鎮や大御所芸能人、世界をまたにかける大手企業など各界トップクラスの娘が通う超お嬢様学校──聖白百合女学院。 そこには選ばれた生徒しか入部すら認められない秘密の部活が存在する。 昼休みや放課後、お気に入りの紅茶とお菓子を持ち寄り選ばれし7人の少女がガールズトークに花を咲かせることを目的とする──午後の紅茶部。 いつも通りガールズトークの前に紅茶とお菓子の用意をしている時、一人の少女が突然あるゲームを持ちかける。 『今年中に、自分の好きな人に想いを伝えて結ばれること』 恋愛の"れ"の字も知らない花も恥じらう少女達は遊び半分でのっかるも、徐々に真剣に本気の恋愛に取り組んでいく。 女子高生7人(+男子7人)による百合小説、になる予定。 極力全年齢対象を目標に頑張っていきたいけど、もしかしたら…もしかしたら…。 紅茶も恋愛もストレートでなくても美味しいものよ。

身長48メートルの巨大少女ですけど普通のJKさせてもらっても良いんですか!?

穂鈴 えい
キャラ文芸
身長48mの女子高生春山月乃は、入学式の日に身長43mで身長コンプレックスの美少女白石小鈴と出会った。 みんなから巨女扱いされてきた小鈴は、自分よりも背の高い月乃が小柄扱いしてくれるおかげで次第に心を開いていき、やがて恋に落ちていく。月乃も同じ巨大娘として気楽に仲良くできる小鈴のことが大好きだった。 そんな2人の距離がお互いに近づいていくのだが、月乃に憧れている普通サイズの少女絵美莉に月乃が懐かれてしまい、小鈴にとって気が気ではない日が続いていくことに……。 月乃にとっても、小鈴が憧れているモデルのSAKIことお姫ちゃん先輩(身長51m)という恋のライバル(?)がいて日々不安に苛まれてしまうことに……。 巨大娘専用の校舎は全てのものが大きいから、巨大な月乃や小鈴でもサイズを意識せずに生活できる。 ……はずなのだが、いじめがきっかけで苦手意識を持ってしまった普通サイズの人間が、虫と同等くらいの生物にしか見えなくなった2年生の詩葉先輩(48m)や、巨大化してしまって大好きなピアノが弾けなくなったストレスで街で暴れる身長50mの女子中学生琴音との出会いによって定期的に巨大さを意識させられてしまうことに。 はたして、身長48mの月乃は巨大娘たちに翻弄されずに普通の女子高生として学校生活を送ることができるのか……。 巨大娘要素以外は基本的には日常系百合作品です。(稀に街を壊したりしちゃいますが)

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...