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【第10話】

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 そうだよ……。
 俺はゆかりに、会いに行くんだ……。

 そこまで思い返すと、こうしてる場合じゃないとばかりに、高木はその場を立ち去ろうとした。
 ふり返るとドアがある。

 ドア?……。

 この店は、格子戸の引き戸のはずである。
 それがなぜ、ドアに変わってしまっているのか。
 高木は訝(いぶか)しく思いながらもそのドアを開けようとして、だが、把手がないことに気づいた。
 それは中央からオープンに開閉される扉になっていた。

 なんだよ、これは……。

 高木はちらりとうしろをふり返り、扉へ顔をもどしたとたん、背筋に虫が這いずるようなおぞけを覚えた。

 冗談だよな……。

 ちらりと見ただけのその一瞬の光景が、まがまがしく高木の脳裡を広がった。
 そこは、どう見ても病室だった。
 それも集中治療室ようだ。
 手が震えだす。
 その手を握り、気を落ち着かせようと大きく息を吸いこむ。
 高木はふり返らずに部屋の様子を窺った。
 背後では、数人の人間が機敏に動いている。

 なんだよなんだよ。冗談じゃなきゃ、これは夢だろ?

 高木はうしろをふり返ることができなかった。
 ふり返れば、夢が現実になる。
 そう思った。

「高木さーん、聴こえますかァ。高木さーん」

 呼びかける看護師の声が聴こえる。

 おいおい、嘘だろ……。
 だれでもいい、嘘だと言ってくれ!

 高木は頭を抱え、そして恐る恐るだが、うしろをふり返った。
 そこにはやはり、医師や看護師の白衣に囲まれ、酸素マスクをして治療台に横たわる高木の姿があった。
 その顔は血の気が失せて蒼白だ。
 高木は完全にパニくった。
 すぐそこにある現実を、受け入れられるわけがなかった。
 いや、理解できるわけがない。

 いまのいままで、とり徳で生ビールを飲みながら、おやじさんと話してたんだよ、俺はよォ……。
 なのによ……。

「おい、どうして俺が、そこに寝てるんだよ!」

 声に出して言ったが、その声にだれも答えようとしない。

「ちょっと、おい、シカトかよ。なにがどうなってるのか、説明してくれっての!」

 どんなに声を張り上げても、高木の声は、そこにいるだれにも聴こえていなかった。

 ちくしょう、なんだってんだよ……。

 高木はパニくっている自分を落ち着かせようと努めた。

 落ち着け、落ち着くんだ……。
 これは夢なんだ……。
 そうじゃなきゃ、眼の前にこの俺が寝ているわけがねえんだから……。

 高木はゆっくりと深呼吸をし、夢だと思いながらも、もう一度その日の自分を思い返してみた。
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