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【第1話】
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こりゃいったい、なんだ……。
目の前にあるその光景に、高木正哉(たかぎまさや)は呆然とした。
なぜなら、そこには自分自身が横たわっているのである。
いったい何がどうなっているのか。
それはとても理解しがたい光景だった。
自分がなぜそこに立っているのかも、まったくもってわからない。
わからないものをどれほど考えてもわかるわけがないということに、ずいぶんな時間を要して気づいた高木は、自分の一日を思い返してみた。
その日の朝、彼はまったく夢を見ることもなく目覚めた。
目覚まし時計が鳴ったわけでも、物音がしたわけでもない。
ごく自然の目覚めである。
部屋の中は静寂に包まれ、カーテンの隙間からは白んだ光が洩れていた。
早朝である。
ここ何年も、そんな朝早くに眼を醒ましたことはない。
ふだん正午になるころ、やっと起きだす高木にとって早朝は夜中だ。
そんな彼が早朝に眼を醒ますとすれば、それは尿意をもよおしてのことであり、意識は朦朧としているから、用を足せばすぐさまベッドにもどって睡眠をむさぼる。
でありながら、その朝はなんとも清々しく目覚めた。
いつものようなけだるさもなく、頭の中はすっきりとしている。
それどころか、身体の奥から力がみなぎってくるような感覚さえあった。
それでも高木は、しばらく夜の残す薄闇の中の天井を見つめていた。
起きることができなかった。
いや、そうではない。
早朝から起きだすということに慣れていなかった。
だから、起きだしたところでどうしていいのかもわからない。
「早起きは三文の徳」というが、生まれてこのかた一度たりともそんなことが頭に浮かんだためしのない高木には、できるかぎり眠っていたほうが得なのであった。
それだけに、せっかく気分よく目覚めたにもかかわらず、もう一度眠ろうと瞼を閉じる始末だった。
とはいえ、すっきり爽快の状態で眠気がやってくるわけもなく、高木はしかたなくベッドからずり落ちそうになっているTVのリモコンを手に取ると、スイッチを入れた。
モニターの画像がゆっくりと映しだされ、すると画面左上の時刻の表示が5時55分を示していた。
「オォ、確変じゃねえか!」
思わず高木は半身を起こした。
数字がみっつそろうということは、彼にとってパチンコの大当たりを意味する。
それも奇数の「5」が三つとなれば、それは確率変動なのである。
「よし!」
拳を握り、小さくガッツする。
そして思った。
今日はいい1日になりそうだと。
それはいつになく予感めいていた。
これは神の啓示かもしれないな……。
そういうときだけは、ちゃっかりと神の存在を信じる高木であった。
となると、もともと単純にできている高木は、矢も盾もたまらなくなってベッドから飛び起き、カーテンを勢いよく開けた。
とたんに朝の光が眼を射してくる。
麻雀の帰りなどは眼に沁みる朝の光を呪うのだが、そのときだけはその陽光が自分だけを照らしているような気がした。
そして何を思ったのか、この1年まったくやったことのない部屋の掃除を朝もはよから始めたのであった。
一度何かをやり始めると止まらない高木は、2時間かけてワンルームの部屋を隅から隅までせっせと掃除し、整理整頓までやらかした。
それはまさに、何かが起こる前触れに違いなかった。
ひと息ついて煙草を取ると切れている。
しかたなく財布を持ってマンション前の舗道に出ると、高木はふと立ち止まって大きく息を吸った。
清らかな朝である。
きっと気のせいだろうが、空気までが美味かった。
自販機にタスポをかざして煙草を買い、つり銭を取ってみると100円玉が2枚多い。
つり銭が多く出てくるわけがないから、だれかが取り忘れていったのだろう。
こりゃあ、ツイてるな……。
わずか200円程度ではあるが、高木は大いに歓び、またも拳を握りガッツを決めた。
今日はいい1日になりそうだという予感は、なにやら現実味を帯び始めたような気になってきたのだった。
目の前にあるその光景に、高木正哉(たかぎまさや)は呆然とした。
なぜなら、そこには自分自身が横たわっているのである。
いったい何がどうなっているのか。
それはとても理解しがたい光景だった。
自分がなぜそこに立っているのかも、まったくもってわからない。
わからないものをどれほど考えてもわかるわけがないということに、ずいぶんな時間を要して気づいた高木は、自分の一日を思い返してみた。
その日の朝、彼はまったく夢を見ることもなく目覚めた。
目覚まし時計が鳴ったわけでも、物音がしたわけでもない。
ごく自然の目覚めである。
部屋の中は静寂に包まれ、カーテンの隙間からは白んだ光が洩れていた。
早朝である。
ここ何年も、そんな朝早くに眼を醒ましたことはない。
ふだん正午になるころ、やっと起きだす高木にとって早朝は夜中だ。
そんな彼が早朝に眼を醒ますとすれば、それは尿意をもよおしてのことであり、意識は朦朧としているから、用を足せばすぐさまベッドにもどって睡眠をむさぼる。
でありながら、その朝はなんとも清々しく目覚めた。
いつものようなけだるさもなく、頭の中はすっきりとしている。
それどころか、身体の奥から力がみなぎってくるような感覚さえあった。
それでも高木は、しばらく夜の残す薄闇の中の天井を見つめていた。
起きることができなかった。
いや、そうではない。
早朝から起きだすということに慣れていなかった。
だから、起きだしたところでどうしていいのかもわからない。
「早起きは三文の徳」というが、生まれてこのかた一度たりともそんなことが頭に浮かんだためしのない高木には、できるかぎり眠っていたほうが得なのであった。
それだけに、せっかく気分よく目覚めたにもかかわらず、もう一度眠ろうと瞼を閉じる始末だった。
とはいえ、すっきり爽快の状態で眠気がやってくるわけもなく、高木はしかたなくベッドからずり落ちそうになっているTVのリモコンを手に取ると、スイッチを入れた。
モニターの画像がゆっくりと映しだされ、すると画面左上の時刻の表示が5時55分を示していた。
「オォ、確変じゃねえか!」
思わず高木は半身を起こした。
数字がみっつそろうということは、彼にとってパチンコの大当たりを意味する。
それも奇数の「5」が三つとなれば、それは確率変動なのである。
「よし!」
拳を握り、小さくガッツする。
そして思った。
今日はいい1日になりそうだと。
それはいつになく予感めいていた。
これは神の啓示かもしれないな……。
そういうときだけは、ちゃっかりと神の存在を信じる高木であった。
となると、もともと単純にできている高木は、矢も盾もたまらなくなってベッドから飛び起き、カーテンを勢いよく開けた。
とたんに朝の光が眼を射してくる。
麻雀の帰りなどは眼に沁みる朝の光を呪うのだが、そのときだけはその陽光が自分だけを照らしているような気がした。
そして何を思ったのか、この1年まったくやったことのない部屋の掃除を朝もはよから始めたのであった。
一度何かをやり始めると止まらない高木は、2時間かけてワンルームの部屋を隅から隅までせっせと掃除し、整理整頓までやらかした。
それはまさに、何かが起こる前触れに違いなかった。
ひと息ついて煙草を取ると切れている。
しかたなく財布を持ってマンション前の舗道に出ると、高木はふと立ち止まって大きく息を吸った。
清らかな朝である。
きっと気のせいだろうが、空気までが美味かった。
自販機にタスポをかざして煙草を買い、つり銭を取ってみると100円玉が2枚多い。
つり銭が多く出てくるわけがないから、だれかが取り忘れていったのだろう。
こりゃあ、ツイてるな……。
わずか200円程度ではあるが、高木は大いに歓び、またも拳を握りガッツを決めた。
今日はいい1日になりそうだという予感は、なにやら現実味を帯び始めたような気になってきたのだった。
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