バタフライ～復讐する者～

【最終話】

　建物の内部では、次々と爆発音が鳴り響いる。
　建物の外では、隼人が爆発とともに崩れていく建物の入り口に眼をやっていた。

「蝶子のやつ、なにをやってるんだ。瓦礫の下敷きになるぞ……」

　やきもきした顔つきで隼人は呟く。
　すると、入口から外へと駆け出してくる蝶子の姿があった。
　それとともに、入口が崩れ落ちた。

「蝶子！」

　隼人が声をかける。蝶子は、隼人の前で脚を止めた。

「間一髪だったぞ」
「――――」

　蝶子は答えず、隼人にも眼を向けずに眼を伏せている。

「美鈴って子は、どうした」

　隼人が訊いたが、蝶子は眼を伏せたまま、ただ首をふった。
　眉根をよせたその眼が、悲しげに翳った。

「そうか……」

　ぽつりと言うと、隼人は倒壊したアルファ・ノアのラボへと視線を向けた。
　わずかな沈黙があって、

「これで、おれたちは、ノアを敵に回したってことだな」

　隼人が言った。

　その言葉に蝶子は眼を上げると、隼人を見て、そしてその隼人の見つめる先へ視線を移した。

「すまない、隼人。おまえを、巻きこんでしまった……」

　視線をそのままに、蝶子が言った。

「そんなことはない。俺のほうが先に、ここへ偵察に来ていたんだ。それに、おまえを敵に回よりはマシってものさ。どのみち、ノアの正体を知った以上、俺の敵になっていた」
「――――」

　蝶子は何も言わず、再び沈黙が落ちた。
　その沈黙を破るように、

「ノアは許さない」

　蝶子が言った。

「どんなことをしても、叩き潰してやる。ここからが、ほんとうの戦いだ」

　そう言った瞳の奥には、怒りに燃えた蒼白き焔が燃えあがっていた。
　厳しいまでのその顔には、もう悲しみの翳りは微塵もなかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了