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チャプター【059】
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闇の中で音が聴こえている。
パチパチ、と何かが爆ぜる音。
それに交じって、強く吹き抜ける風の音が聴こえている。
闇が少しずつ薄くなりはじめる。
それとともに、左頬に温かい温度を感じてくる。
そこで蝶子は意識を取りもどした。
ゆっくりと瞼を開く。
温かさ感じる左側に眼をやると、そこに焚火が燃えていた。
闇の中で聴こえていたのは、この焚火の爆ぜる音だった。
その焚火の向こう側に、男の姿がある。
隼人だった。
その隼人は、燃える焚火の炎を見つめている。
そこでようやく、蝶子は自分が気を失っていたことを知った。
半身を起こす。
身体中に鈍い痛みが走った。
上半身には、隼人が着ていた、ミリタリー・ジャケットが掛けられていた。
右横の床に置かれている太刀に、蝶子は眼をやった。
「勝手に見せてもらったが、いい太刀だな」
ふいに隼人は、そんなことを言った。
「父の形見だ」
蝶子は素っ気なくそう答えると、
「どれくらい、気を失っていた」
そう訊いた。
「そうだな、3間てところか」
「そうか――」
そこでハッと気づいたように、
「あいつは、どうした」
蝶子は周囲に眼をやった。
「逃げたよ」
隼人はあっさりとそう言った。
「逃げたって、どういうことだ、隼人。おまえが斃したんじゃないのか」
蝶子は隼人に眼を向けた。
「スマン。下手を打った」
「おまえが、どうして」
「それがな――」
隼人は、事の成り行きを説明した。
「そうだったのか……」
蝶子は眼を伏せてしまった。
「ほんとに、すまない。1発で決めてやろうと、ロケット・ランチャーなんて具現化した俺がばかだった」
隼人は頭を下げて謝罪した。
「いいんだ。頭なんて下げるな、隼人」
「おまえの、妹の復讐の相手だったっていうのに……」
隼人は頭を上げようとしない。
「ほんとに、もういいんだ。私だって、あのときは頭に血がのぼりすぎていた。あのまま闘っていれば、わたしのほうがやられていたよ。だから、頭を上げてくれ」
蝶子のその言葉に、ようやく隼人は頭を上げた。
「次は、必ずあいつを斃すさ」
蝶子は焚火の炎を見つめ、言った。
その瞳には、強い意志がこもっていた。
ふと、そこで沈黙が落ちる。
ふたりは、炎を見つづけている。
時おり、焚火の爆ぜる音だけが響く。
その沈黙の中で、
「いい夢を見ていたんだな」
ふいに隼人が言った。
「夢? なぜだ」
蝶子は隼人に眼を向けた。
「笑っていたよ」
「笑っていた?」
「ああ。とても幸せそうにな」
「ほんとうか?」
「嘘を言ってどうする」
隼人は苦笑した。
「――――」
蝶子は何も言わず、隼人に眼を向けたままでいた。
だが、眼を向けてはいるが、隼人を見てはいない。
何かを考えこみ、そのことに心をよせているようだった。
「どうした」
そんな蝶子を見て、隼人が訊いた。
「いや……」
蝶子は、なんでもない、と首をふり、炎へと視線を移した。
揺れるその炎を見つめる。
私が笑っていた?
なぜ?
蝶子は自問した。
私は、夢など見ていなかった。
ただ、無意識の中で、深い闇に漂っていただけだ。
そしてその闇から、ゆっくりと浮かび上がるように意識を取りもどした。
それだけのはずだ。
なのに、なぜ、私は笑っていたのだろうか。
と、そのときだった。
とつぜん蝶子の脳裡に、断片的なものが浮かんだ。
それは、妹の顔だった。
パチパチ、と何かが爆ぜる音。
それに交じって、強く吹き抜ける風の音が聴こえている。
闇が少しずつ薄くなりはじめる。
それとともに、左頬に温かい温度を感じてくる。
そこで蝶子は意識を取りもどした。
ゆっくりと瞼を開く。
温かさ感じる左側に眼をやると、そこに焚火が燃えていた。
闇の中で聴こえていたのは、この焚火の爆ぜる音だった。
その焚火の向こう側に、男の姿がある。
隼人だった。
その隼人は、燃える焚火の炎を見つめている。
そこでようやく、蝶子は自分が気を失っていたことを知った。
半身を起こす。
身体中に鈍い痛みが走った。
上半身には、隼人が着ていた、ミリタリー・ジャケットが掛けられていた。
右横の床に置かれている太刀に、蝶子は眼をやった。
「勝手に見せてもらったが、いい太刀だな」
ふいに隼人は、そんなことを言った。
「父の形見だ」
蝶子は素っ気なくそう答えると、
「どれくらい、気を失っていた」
そう訊いた。
「そうだな、3間てところか」
「そうか――」
そこでハッと気づいたように、
「あいつは、どうした」
蝶子は周囲に眼をやった。
「逃げたよ」
隼人はあっさりとそう言った。
「逃げたって、どういうことだ、隼人。おまえが斃したんじゃないのか」
蝶子は隼人に眼を向けた。
「スマン。下手を打った」
「おまえが、どうして」
「それがな――」
隼人は、事の成り行きを説明した。
「そうだったのか……」
蝶子は眼を伏せてしまった。
「ほんとに、すまない。1発で決めてやろうと、ロケット・ランチャーなんて具現化した俺がばかだった」
隼人は頭を下げて謝罪した。
「いいんだ。頭なんて下げるな、隼人」
「おまえの、妹の復讐の相手だったっていうのに……」
隼人は頭を上げようとしない。
「ほんとに、もういいんだ。私だって、あのときは頭に血がのぼりすぎていた。あのまま闘っていれば、わたしのほうがやられていたよ。だから、頭を上げてくれ」
蝶子のその言葉に、ようやく隼人は頭を上げた。
「次は、必ずあいつを斃すさ」
蝶子は焚火の炎を見つめ、言った。
その瞳には、強い意志がこもっていた。
ふと、そこで沈黙が落ちる。
ふたりは、炎を見つづけている。
時おり、焚火の爆ぜる音だけが響く。
その沈黙の中で、
「いい夢を見ていたんだな」
ふいに隼人が言った。
「夢? なぜだ」
蝶子は隼人に眼を向けた。
「笑っていたよ」
「笑っていた?」
「ああ。とても幸せそうにな」
「ほんとうか?」
「嘘を言ってどうする」
隼人は苦笑した。
「――――」
蝶子は何も言わず、隼人に眼を向けたままでいた。
だが、眼を向けてはいるが、隼人を見てはいない。
何かを考えこみ、そのことに心をよせているようだった。
「どうした」
そんな蝶子を見て、隼人が訊いた。
「いや……」
蝶子は、なんでもない、と首をふり、炎へと視線を移した。
揺れるその炎を見つめる。
私が笑っていた?
なぜ?
蝶子は自問した。
私は、夢など見ていなかった。
ただ、無意識の中で、深い闇に漂っていただけだ。
そしてその闇から、ゆっくりと浮かび上がるように意識を取りもどした。
それだけのはずだ。
なのに、なぜ、私は笑っていたのだろうか。
と、そのときだった。
とつぜん蝶子の脳裡に、断片的なものが浮かんだ。
それは、妹の顔だった。
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