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チャプター【057】
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「それは、きっとアルファ・ノアに考えがあってのことだ」
隼人が言った。
「考えとは、なんだ」
獣鬼が訊いた。
「異形人を、人間にもどすためさ」
「人間にもどす? 笑止な。めでたいやつだな、おまえは。そんなことは表向きのことよ」
「表向きだと! ふざけるな。蝶子も言っていたじゃないか。おまえは失敗作だと」
「フン。失敗作だと言うなら、なぜに我を野に放った。人間の姿にもどれる我は、その人間どもの中に難なくまぎれこむことができるのだぞ。これまで、人間どもの隠れ住む場所へ、どれほど容易に入りこめたことか知れぬわ」
「――――」
隼人は、言い返すことができずに奥歯を噛みしめた。
「それになァ、我はアルファ・ノアに一年ほど捕らわれていた。そのあいだに、様々なことを知ったよ」
「――――」
「我らがこの世に存在したのはなぜだ」
ふいに、獣鬼がそう訊いた。
「それを知らないものなどいない。五年前のあの天変地異、ポールシフトが地殻変動を起こさせ、それによって地磁気にゆがみが生じて、それが生物の遺伝子に影響を及ぼし、その形態までも変えてしまったんだ。そしておまえたちが現れた」
「ほんとうに、それが真実だとでも思っているのか」
「なに! おまえは、それさえも表向きのことだと言うのかよ」
「そのとおりだ」
「ばかな。そう言える根拠でもあるのか」
「根拠もなしに、こんなことが言えるものか。しかし、アルファ・ノアも、そんな作り話をよくも言えたものよ。地磁気にゆがみが生じて、それが生物の遺伝子に影響を及ぼしたなどとな。馬鹿げた話よ」
獣鬼は嗤った。
「嗤ってないで、その根拠を言え!」
「そう、急くな。おまえも、製薬会社だったノア・コーポレーションのことは知っていよう」
「ああ。そのノア・コーポレーションがなんだと言うんだ」
「あのポール・シフト以前、ノア・コーポレーションは、とある場所の地下300メートルに研究施設を所有していた。そこでは、極秘の研究プロジェクトが行われていたのだ」
「極秘の研究プロジェクト?」
「そうだ。主に、ゲノム、ウイルス、バイオ、ナノ、などの研究をしていたのだが、それらの研究が極秘だったわけではない。そんな研究など、世界のどこでも行われていたことだからな。その施設で行われていた極秘の研究とは、生物の人工進化だ」
「生物の人工進化だと! そんな研究、許されるわけがない」
「当然だ。だからこそ極秘なのだ。施設の科学者たちは、研究に研究を重ね、細胞の受容体、レセプターの遺伝子地図を作ることに成功した。そして、遺伝子変異体を完成させたのだ」
「俺には、難しくてよくわからん」
「まあ、聞け。その遺伝子変異体をウイルスに詰めこみ、細胞に放出すると、どうなると思う」
「どうなるんだ」
「染色体は異常をきたし、生物は変異をはじめる」
それを聞いた隼人は、わずかに沈黙し、
「その実験は、行われていたのか」
訊いた。
「小動物程度ではあったが、実験は行われていた。そして、その施設で行われていた、研究プロジェクトの名というのが――」
獣鬼が、その名を言う前に、
「アルファ・ノア、というわけか」
隼人がそう口にした。
「そのとおりだ。これでわかったであろう。アルファ・ノアの正体が」
「待て。アルファ・ノアが、極秘の研究していたというのはわかった。だが、そのことと、先祖返りやおまえたち異形人が現れたことに、どう関係があるんだ。実験をしたのは、小動物だけだったんじゃないのか」
「実験はな。だが、あのポールシフトよ」
「それがなんだ」
「わからぬか」
意味ありげに、獣鬼が隼人を見つめる。
「――まさか」
隼人はすぐに思いあたった。
隼人が言った。
「考えとは、なんだ」
獣鬼が訊いた。
「異形人を、人間にもどすためさ」
「人間にもどす? 笑止な。めでたいやつだな、おまえは。そんなことは表向きのことよ」
「表向きだと! ふざけるな。蝶子も言っていたじゃないか。おまえは失敗作だと」
「フン。失敗作だと言うなら、なぜに我を野に放った。人間の姿にもどれる我は、その人間どもの中に難なくまぎれこむことができるのだぞ。これまで、人間どもの隠れ住む場所へ、どれほど容易に入りこめたことか知れぬわ」
「――――」
隼人は、言い返すことができずに奥歯を噛みしめた。
「それになァ、我はアルファ・ノアに一年ほど捕らわれていた。そのあいだに、様々なことを知ったよ」
「――――」
「我らがこの世に存在したのはなぜだ」
ふいに、獣鬼がそう訊いた。
「それを知らないものなどいない。五年前のあの天変地異、ポールシフトが地殻変動を起こさせ、それによって地磁気にゆがみが生じて、それが生物の遺伝子に影響を及ぼし、その形態までも変えてしまったんだ。そしておまえたちが現れた」
「ほんとうに、それが真実だとでも思っているのか」
「なに! おまえは、それさえも表向きのことだと言うのかよ」
「そのとおりだ」
「ばかな。そう言える根拠でもあるのか」
「根拠もなしに、こんなことが言えるものか。しかし、アルファ・ノアも、そんな作り話をよくも言えたものよ。地磁気にゆがみが生じて、それが生物の遺伝子に影響を及ぼしたなどとな。馬鹿げた話よ」
獣鬼は嗤った。
「嗤ってないで、その根拠を言え!」
「そう、急くな。おまえも、製薬会社だったノア・コーポレーションのことは知っていよう」
「ああ。そのノア・コーポレーションがなんだと言うんだ」
「あのポール・シフト以前、ノア・コーポレーションは、とある場所の地下300メートルに研究施設を所有していた。そこでは、極秘の研究プロジェクトが行われていたのだ」
「極秘の研究プロジェクト?」
「そうだ。主に、ゲノム、ウイルス、バイオ、ナノ、などの研究をしていたのだが、それらの研究が極秘だったわけではない。そんな研究など、世界のどこでも行われていたことだからな。その施設で行われていた極秘の研究とは、生物の人工進化だ」
「生物の人工進化だと! そんな研究、許されるわけがない」
「当然だ。だからこそ極秘なのだ。施設の科学者たちは、研究に研究を重ね、細胞の受容体、レセプターの遺伝子地図を作ることに成功した。そして、遺伝子変異体を完成させたのだ」
「俺には、難しくてよくわからん」
「まあ、聞け。その遺伝子変異体をウイルスに詰めこみ、細胞に放出すると、どうなると思う」
「どうなるんだ」
「染色体は異常をきたし、生物は変異をはじめる」
それを聞いた隼人は、わずかに沈黙し、
「その実験は、行われていたのか」
訊いた。
「小動物程度ではあったが、実験は行われていた。そして、その施設で行われていた、研究プロジェクトの名というのが――」
獣鬼が、その名を言う前に、
「アルファ・ノア、というわけか」
隼人がそう口にした。
「そのとおりだ。これでわかったであろう。アルファ・ノアの正体が」
「待て。アルファ・ノアが、極秘の研究していたというのはわかった。だが、そのことと、先祖返りやおまえたち異形人が現れたことに、どう関係があるんだ。実験をしたのは、小動物だけだったんじゃないのか」
「実験はな。だが、あのポールシフトよ」
「それがなんだ」
「わからぬか」
意味ありげに、獣鬼が隼人を見つめる。
「――まさか」
隼人はすぐに思いあたった。
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