上 下
58 / 70

チャプター【057】

しおりを挟む
「それは、きっとアルファ・ノアに考えがあってのことだ」

 隼人が言った。

「考えとは、なんだ」

 獣鬼が訊いた。

「異形人を、人間にもどすためさ」
「人間にもどす? 笑止な。めでたいやつだな、おまえは。そんなことは表向きのことよ」
「表向きだと! ふざけるな。蝶子も言っていたじゃないか。おまえは失敗作だと」
「フン。失敗作だと言うなら、なぜに我を野に放った。人間の姿にもどれる我は、その人間どもの中に難なくまぎれこむことができるのだぞ。これまで、人間どもの隠れ住む場所へ、どれほど容易に入りこめたことか知れぬわ」
「――――」

 隼人は、言い返すことができずに奥歯を噛みしめた。

「それになァ、我はアルファ・ノアに一年ほど捕らわれていた。そのあいだに、様々なことを知ったよ」
「――――」
「我らがこの世に存在したのはなぜだ」

 ふいに、獣鬼がそう訊いた。

「それを知らないものなどいない。五年前のあの天変地異、ポールシフトが地殻変動を起こさせ、それによって地磁気にゆがみが生じて、それが生物の遺伝子に影響を及ぼし、その形態までも変えてしまったんだ。そしておまえたちが現れた」
「ほんとうに、それが真実だとでも思っているのか」
「なに! おまえは、それさえも表向きのことだと言うのかよ」
「そのとおりだ」
「ばかな。そう言える根拠でもあるのか」
「根拠もなしに、こんなことが言えるものか。しかし、アルファ・ノアも、そんな作り話をよくも言えたものよ。地磁気にゆがみが生じて、それが生物の遺伝子に影響を及ぼしたなどとな。馬鹿げた話よ」

 獣鬼は嗤った。

「嗤ってないで、その根拠を言え!」
「そう、急くな。おまえも、製薬会社だったノア・コーポレーションのことは知っていよう」
「ああ。そのノア・コーポレーションがなんだと言うんだ」
「あのポール・シフト以前、ノア・コーポレーションは、とある場所の地下300メートルに研究施設を所有していた。そこでは、極秘の研究プロジェクトが行われていたのだ」
「極秘の研究プロジェクト?」
「そうだ。主に、ゲノム、ウイルス、バイオ、ナノ、などの研究をしていたのだが、それらの研究が極秘だったわけではない。そんな研究など、世界のどこでも行われていたことだからな。その施設で行われていた極秘の研究とは、生物の人工進化だ」
「生物の人工進化だと! そんな研究、許されるわけがない」
「当然だ。だからこそ極秘なのだ。施設の科学者たちは、研究に研究を重ね、細胞の受容体、レセプターの遺伝子地図を作ることに成功した。そして、遺伝子変異体を完成させたのだ」
「俺には、難しくてよくわからん」
「まあ、聞け。その遺伝子変異体をウイルスに詰めこみ、細胞に放出すると、どうなると思う」
「どうなるんだ」
「染色体は異常をきたし、生物は変異をはじめる」

 それを聞いた隼人は、わずかに沈黙し、

「その実験は、行われていたのか」

 訊いた。

「小動物程度ではあったが、実験は行われていた。そして、その施設で行われていた、研究プロジェクトの名というのが――」

 獣鬼が、その名を言う前に、

「アルファ・ノア、というわけか」

 隼人がそう口にした。

「そのとおりだ。これでわかったであろう。アルファ・ノアの正体が」
「待て。アルファ・ノアが、極秘の研究していたというのはわかった。だが、そのことと、先祖返りやおまえたち異形人が現れたことに、どう関係があるんだ。実験をしたのは、小動物だけだったんじゃないのか」
「実験はな。だが、あのポールシフトよ」
「それがなんだ」
「わからぬか」

 意味ありげに、獣鬼が隼人を見つめる。

「――まさか」

 隼人はすぐに思いあたった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

グラディア(旧作)

壱元
SF
ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。 恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも… ※本作は連載終了しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

戦艦大和、時空往復激闘戦記!(おーぷん2ちゃんねるSS出展)

俊也
SF
1945年4月、敗色濃厚の日本海軍戦艦、大和は残りわずかな艦隊と共に二度と還れぬ最後の決戦に赴く。 だが、その途上、謎の天変地異に巻き込まれ、大和一隻のみが遥かな未来、令和の日本へと転送されてしまい…。 また、おーぷん2ちゃんねるにいわゆるSS形式で投稿したものですので読みづらい面もあるかもですが、お付き合いいただけますと幸いです。 姉妹作「新訳零戦戦記」「信長2030」 共々宜しくお願い致しますm(_ _)m

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

処理中です...