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チャプター【055】
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「蝶子を甘く見すぎたな」
隼人が言った。
「しかし、我が喰らった執行人には、これほどの力はなかったぞ」
獣鬼は、腕を失った箇所の傷を、もう一方の手で庇っていた。
「きっと、おまえに不意打ちを食らったんだろうよ」
「ならばなぜ、その執行人を喰らった我に、その力が出せぬ」
「それは、おまえが劣っているからだよ」
「我が劣っているだと?」
「おまえは異形人。ただの化け物だ。そのおまえが、執行人を喰らって特質能力を得たとしても、使いこなせるわけがない」
「ぐぬう。我を愚弄するか。ダメージがあるとはいえ、この我に手も足も出なかったおまえなど、雑作もなく八つ裂きにしてくれる」
獣鬼は、隼人を睨みつけた。
「だから、俺は疲れていたんだよ。いったい、何体の異形人を斃したと思っているんだ? だが、いまはこのとおり元気だ。手負いの化け物相手とはいえ、俺は容赦しないぜ。ここでしっかり形をつけてやる」
そう言ったとたん、隼人の身体を碧色のオーラが包みこんだ。
右腕を正面に上げる。
指先が一際碧く耀きはじめる。
「フン。また剣を出そうとでもいうのか」
「さて、どうかな。鳩が出てくるかもよ」
隼人は口端に余裕の笑みを浮かべた。
指先で、碧い光が何かを形作っていく。
形成されていく形を見ると、剣ではない。
それは、腕の太さほどの丸く筒のようなもの。
「なんだ、それは」
獣鬼が訊いた。
「わからないか? ロケット・ランチャーだよ」
「なに、ロケット・ランチャーだと?」
「ああ。発射するのは、ロケットじゃなくエネルギー弾だがな。言うなれば、エナジー・ランチャーってところさ。おまえのようなでかい怪物には、これが一番だと思ってね。とは言っても、具現化するのはこれが初めてだから、威力がどの程度なのかはわからない。おまえなど、欠片も残らないかもな」
具現化されたエナジー・ランチャーを、隼人は肩に担いだ。
「そ、そんなもの、こけおどしにすぎぬわ」
獣鬼はそう言ったが、明らかに狼狽しているのが見て取れた。
「そうかな」
隼人はスコープを覗きこんだ。
「おまえも執行人なら、そんなものは使わずに堂々と殺り合おうではないか」
「いや、それは無理だ。俺も元気になったとはいえ、おまえにやられた胸の傷が、まだ癒えてないんでね。だから、すまないが一発で決めさせてもらうよ」
獣鬼に標準を合わせ、隼人はトリガーに指をかけた。
「ま、待て、待ってく――」
獣鬼が言い切る前に、隼人はトリガーを絞った。
碧く耀くエネルギー弾が、獣鬼に向かっていく。
「ぐうッ――」
だが、エネルギー弾は獣鬼の左へわずかにそれて、強化ガラスへと突き進んでいった。
ドグォォンッ!
エネルギー弾が、ガラスにぶちあたった。
それでも、そのエネルギー弾は威力を持ったまま突き進もうとしている。
ピシッ、ピシリッ、ピシリリッ……
ガラスにひびが入っていく。
エネルギー弾の威力は治まらない。
バァァンッ!
ついに強化ガラスはぶち破られ、妨げるものがなくなったエネルギー弾は、そのまま遥か彼方へとどこまでも突き進んでいった。
そのとたんに突風が吹きこんで、フロアの空気を掻き乱した。
「チッ、外したか」
「ぐふう。あたらなければ、そんなものは玩具にすぎんなァ」
「はじめて具現化したやつだから、手許が狂ったよ。だが、今度は外さない」
隼人は、もう一度、スコープを覗いた。
そのときには、獣鬼が、強化ガラスの割れて開いた穴へと動いていた。
「なに!」
穴から外へ出ると、獣鬼はそこからダイブしていた。
隼人が言った。
「しかし、我が喰らった執行人には、これほどの力はなかったぞ」
獣鬼は、腕を失った箇所の傷を、もう一方の手で庇っていた。
「きっと、おまえに不意打ちを食らったんだろうよ」
「ならばなぜ、その執行人を喰らった我に、その力が出せぬ」
「それは、おまえが劣っているからだよ」
「我が劣っているだと?」
「おまえは異形人。ただの化け物だ。そのおまえが、執行人を喰らって特質能力を得たとしても、使いこなせるわけがない」
「ぐぬう。我を愚弄するか。ダメージがあるとはいえ、この我に手も足も出なかったおまえなど、雑作もなく八つ裂きにしてくれる」
獣鬼は、隼人を睨みつけた。
「だから、俺は疲れていたんだよ。いったい、何体の異形人を斃したと思っているんだ? だが、いまはこのとおり元気だ。手負いの化け物相手とはいえ、俺は容赦しないぜ。ここでしっかり形をつけてやる」
そう言ったとたん、隼人の身体を碧色のオーラが包みこんだ。
右腕を正面に上げる。
指先が一際碧く耀きはじめる。
「フン。また剣を出そうとでもいうのか」
「さて、どうかな。鳩が出てくるかもよ」
隼人は口端に余裕の笑みを浮かべた。
指先で、碧い光が何かを形作っていく。
形成されていく形を見ると、剣ではない。
それは、腕の太さほどの丸く筒のようなもの。
「なんだ、それは」
獣鬼が訊いた。
「わからないか? ロケット・ランチャーだよ」
「なに、ロケット・ランチャーだと?」
「ああ。発射するのは、ロケットじゃなくエネルギー弾だがな。言うなれば、エナジー・ランチャーってところさ。おまえのようなでかい怪物には、これが一番だと思ってね。とは言っても、具現化するのはこれが初めてだから、威力がどの程度なのかはわからない。おまえなど、欠片も残らないかもな」
具現化されたエナジー・ランチャーを、隼人は肩に担いだ。
「そ、そんなもの、こけおどしにすぎぬわ」
獣鬼はそう言ったが、明らかに狼狽しているのが見て取れた。
「そうかな」
隼人はスコープを覗きこんだ。
「おまえも執行人なら、そんなものは使わずに堂々と殺り合おうではないか」
「いや、それは無理だ。俺も元気になったとはいえ、おまえにやられた胸の傷が、まだ癒えてないんでね。だから、すまないが一発で決めさせてもらうよ」
獣鬼に標準を合わせ、隼人はトリガーに指をかけた。
「ま、待て、待ってく――」
獣鬼が言い切る前に、隼人はトリガーを絞った。
碧く耀くエネルギー弾が、獣鬼に向かっていく。
「ぐうッ――」
だが、エネルギー弾は獣鬼の左へわずかにそれて、強化ガラスへと突き進んでいった。
ドグォォンッ!
エネルギー弾が、ガラスにぶちあたった。
それでも、そのエネルギー弾は威力を持ったまま突き進もうとしている。
ピシッ、ピシリッ、ピシリリッ……
ガラスにひびが入っていく。
エネルギー弾の威力は治まらない。
バァァンッ!
ついに強化ガラスはぶち破られ、妨げるものがなくなったエネルギー弾は、そのまま遥か彼方へとどこまでも突き進んでいった。
そのとたんに突風が吹きこんで、フロアの空気を掻き乱した。
「チッ、外したか」
「ぐふう。あたらなければ、そんなものは玩具にすぎんなァ」
「はじめて具現化したやつだから、手許が狂ったよ。だが、今度は外さない」
隼人は、もう一度、スコープを覗いた。
そのときには、獣鬼が、強化ガラスの割れて開いた穴へと動いていた。
「なに!」
穴から外へ出ると、獣鬼はそこからダイブしていた。
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