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チャプター【052】
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蝶子の疾さに、犬男が押されていく。
太刀を受ける腕も、そのスピードに追いつかず、貌、胸、肩、二の腕に刃が潜りこむ。
その攻めの疾さに、犬男が逃れようとする。
それを蝶子は許さず、次々に犬男に向かって斬りこんでいった。
なんという身体能力であろうか。
消耗している肉体のどこに、これほどの力が残されているのか。
ましてや、特質能力を発現させ、その能力が持続するのは長くとも20分ほどであるはずだ。なのに、その20分を 越えているはずである。
本来なら、もうすでに、その能力が消えてしまっていてもおかしくはない。
現に、犬男のオーラはいまにも消え入りそうで、その眼からは赤い光を失いつつある。
そんな犬男とは逆に、蝶子の瞳は光を失っていない。
それどころか、光が増しているようでさえあった。
その光が、蒼白き炎となって燃えている。
復讐という業火。
業火に燃えるその復讐心こそが、蝶子の身体能力を増幅させ、特質能力を持続させているのだった。
蝶子は、復讐の権化と化していた。
犬男は防戦一方となっていた。
太刀が潜りこんだ個所からは、血があふれだしている。
茶褐色の剛毛が、あふれる血で赤く染まっていく。
「グアッ!」
たまらず犬男は、蝶子に向かって右腕をふり下ろした。
蝶子は右に跳んで、それを躱した。
さらに右へと跳び、犬男との間合いを取った。
「おまえの能力など、しょせんその程度さ」
片手で太刀を握り、切っ先を犬男に向けて言った。
「ぐぬう……」
犬男の巨体が揺らぐ。
「身体を切り刻まれていくというのは、どんな気分だ」
「ぐふう。下等な人間がァ、あまり図に乗るなよ」
犬男の声が、野太いものに変わっていた。
「少し、遊びがすぎたようだなァ。ここからが本番といこうかよ」
その口調まで変わっている。
ゴオォォォオウッ!
またしても、犬男が咆哮した。
と、犬男の額の中心が、とつぜん突出しはじめた。
それは突起となり、ずるり、ずるり、と伸びていく。
体液のような粘りついたものが、それにまとわりつきながら滴り落ちる。
そしてそれは、伸びながら先端が上方へと折れ曲がり、一本のどす黒い角となった。それだけではない。
犬男の貌が、うごうごと蠢きながら変形していく。
犬のそれであった貌が、人の顔を形成していった。
だが、形成していくその顔は、明らかに人ではない。
ぎょろりとした眼、そして太い鼻。裂けた大きな口からは、鋭い二本の牙が覗いている。体躯は、犬男のときより二倍近く大きい。
茶褐色の剛毛は暗黒色に変わり、全身を被っていた。
その姿は、獣の鬼だった。
犬男は、獣鬼へと変貌していたのだった。
「これが、新たに進化した我の姿よ。素晴らしいだろう? そう言えばおまえは、我が特質能力を持つことに驚いていたなァ。グフフ。その理由を知りたいか」
獣鬼は口端をつり上げ、にたりと嗤(わら)った。
そのふくみを持ったその嗤いに、
「まさか、おまえ――」
蝶子は眉根をよせた。
「グフフ。そうだ、そのまさかよ。我に特質能力があるのは、執行人のひとりを喰ろうたからさァ。そのお陰で、我はこの姿を手に入れたのだ。それだけではないぞ。我には特別な力があるのだ。食らった者の性質を得るという能力がなァ。特異能力とでも言っておこうか。これは、我だけが持ちえる能力よ。どうだ。まさに王と成るべくための能力とは思わぬか」
さらに口端を上げて、獣鬼は嗤っていた。
「どれだけ特異な能力を得ようと、おまえは化け物でしかない」
蝶子は獣鬼を睨んだ。。
「面白い。この姿を見ても、まだ臆さぬか。その胆の据わりよう。たまらぬなァ。どうだ、この王となる我の妻にならぬか」
「戯言(ざれごと)は、あの世で言うんだね」
「我の申し入れを、戯言と申すか。グフフ。ならば、この我の血肉としてくれようかァ」
言ったとたん、獣鬼が蝶子に向かって動いた。
疾い。
その巨躯からは想像のできないスピードだった。
蝶子が太刀を構えるいとまも与えず、獣鬼の右腕が頭上から落ちてくる。
グァキッ!
蝶子はその右腕を、なんとか太刀で受け止めた。
ずしりとくる鋭い衝撃があった。
太刀が受け止めていたのは、正確には獣鬼の鉤爪だった。
その鉤爪は20センチほどの長さがある。
そんなものをまともに受けていたら、たとえ蝶子とはいえ、頭部を深く抉られていただろう。
太刀を受ける腕も、そのスピードに追いつかず、貌、胸、肩、二の腕に刃が潜りこむ。
その攻めの疾さに、犬男が逃れようとする。
それを蝶子は許さず、次々に犬男に向かって斬りこんでいった。
なんという身体能力であろうか。
消耗している肉体のどこに、これほどの力が残されているのか。
ましてや、特質能力を発現させ、その能力が持続するのは長くとも20分ほどであるはずだ。なのに、その20分を 越えているはずである。
本来なら、もうすでに、その能力が消えてしまっていてもおかしくはない。
現に、犬男のオーラはいまにも消え入りそうで、その眼からは赤い光を失いつつある。
そんな犬男とは逆に、蝶子の瞳は光を失っていない。
それどころか、光が増しているようでさえあった。
その光が、蒼白き炎となって燃えている。
復讐という業火。
業火に燃えるその復讐心こそが、蝶子の身体能力を増幅させ、特質能力を持続させているのだった。
蝶子は、復讐の権化と化していた。
犬男は防戦一方となっていた。
太刀が潜りこんだ個所からは、血があふれだしている。
茶褐色の剛毛が、あふれる血で赤く染まっていく。
「グアッ!」
たまらず犬男は、蝶子に向かって右腕をふり下ろした。
蝶子は右に跳んで、それを躱した。
さらに右へと跳び、犬男との間合いを取った。
「おまえの能力など、しょせんその程度さ」
片手で太刀を握り、切っ先を犬男に向けて言った。
「ぐぬう……」
犬男の巨体が揺らぐ。
「身体を切り刻まれていくというのは、どんな気分だ」
「ぐふう。下等な人間がァ、あまり図に乗るなよ」
犬男の声が、野太いものに変わっていた。
「少し、遊びがすぎたようだなァ。ここからが本番といこうかよ」
その口調まで変わっている。
ゴオォォォオウッ!
またしても、犬男が咆哮した。
と、犬男の額の中心が、とつぜん突出しはじめた。
それは突起となり、ずるり、ずるり、と伸びていく。
体液のような粘りついたものが、それにまとわりつきながら滴り落ちる。
そしてそれは、伸びながら先端が上方へと折れ曲がり、一本のどす黒い角となった。それだけではない。
犬男の貌が、うごうごと蠢きながら変形していく。
犬のそれであった貌が、人の顔を形成していった。
だが、形成していくその顔は、明らかに人ではない。
ぎょろりとした眼、そして太い鼻。裂けた大きな口からは、鋭い二本の牙が覗いている。体躯は、犬男のときより二倍近く大きい。
茶褐色の剛毛は暗黒色に変わり、全身を被っていた。
その姿は、獣の鬼だった。
犬男は、獣鬼へと変貌していたのだった。
「これが、新たに進化した我の姿よ。素晴らしいだろう? そう言えばおまえは、我が特質能力を持つことに驚いていたなァ。グフフ。その理由を知りたいか」
獣鬼は口端をつり上げ、にたりと嗤(わら)った。
そのふくみを持ったその嗤いに、
「まさか、おまえ――」
蝶子は眉根をよせた。
「グフフ。そうだ、そのまさかよ。我に特質能力があるのは、執行人のひとりを喰ろうたからさァ。そのお陰で、我はこの姿を手に入れたのだ。それだけではないぞ。我には特別な力があるのだ。食らった者の性質を得るという能力がなァ。特異能力とでも言っておこうか。これは、我だけが持ちえる能力よ。どうだ。まさに王と成るべくための能力とは思わぬか」
さらに口端を上げて、獣鬼は嗤っていた。
「どれだけ特異な能力を得ようと、おまえは化け物でしかない」
蝶子は獣鬼を睨んだ。。
「面白い。この姿を見ても、まだ臆さぬか。その胆の据わりよう。たまらぬなァ。どうだ、この王となる我の妻にならぬか」
「戯言(ざれごと)は、あの世で言うんだね」
「我の申し入れを、戯言と申すか。グフフ。ならば、この我の血肉としてくれようかァ」
言ったとたん、獣鬼が蝶子に向かって動いた。
疾い。
その巨躯からは想像のできないスピードだった。
蝶子が太刀を構えるいとまも与えず、獣鬼の右腕が頭上から落ちてくる。
グァキッ!
蝶子はその右腕を、なんとか太刀で受け止めた。
ずしりとくる鋭い衝撃があった。
太刀が受け止めていたのは、正確には獣鬼の鉤爪だった。
その鉤爪は20センチほどの長さがある。
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