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チャプター【042】
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蝶子の瞳に、炎が揺れている。
邪蛇の言ったことを考えていた。
邪蛇の話しによれば、アルファ・ノアはずいぶん以前から異形人を捕えていて、実験を行ってきたようだ。
その実験によって、邪蛇は異形人から人間の姿にもどったのだが、それは長くはつづかず、邪蛇はまた異形人となってしまった。
それからも実験はつづけられ、そして邪蛇は、自分の意思で人間の姿にもどることも、異形人に変態することもできるようになっていた。
きっと組織は、邪蛇に対して異形人から人間へともどす実験を行ったのだろう。
しかし、その実験は失敗に終わった。
そして邪蛇は、失敗作として廃棄されたのだ。
それを考えると、異形人へと行った実験はこの邪蛇だけではないのではないかもしれない。
市川の話では、異形人へと変異する遺伝子の暴走自体をストップさせ、その遺伝子を正常のレベルにもどすことも 可能なところまできているということだった。
しかし、あくまでそれは、異形人の完全体になる以前の状態でなければならない。
要するに、実験はいまだ、成功には達していないということなのだろう。
それだけ実験を重ねてきたということだ。
失敗のたびに異形人を廃棄してきたとなれば、第1第2の邪蛇が野放しになっているということになる。
いや、それどころか、幾多にも及ぶ失敗作が、この世界のどこかに潜んでいるだろう。
ふだんは、人間の姿で行動することが可能となった異形人。
人間にとって、変態が自由にできる異形人は、さらなる脅威となる。
そして執行人においても、それはおなじことが言える。
人間の中にまぎれてしまっては、対処のしようが難しくなるからだ。
組織はなぜ、そんな失敗作を野に放ったりしたのか。
そしてなぜそれを、口外せずにいるのか。
組織には、そうするだけの意図があるのだろうか。
あるとするなら、それはいったいどんな意図なのか。
蝶子は炎を見つめながら、ふと、美鈴のことを思った。
美鈴はいま、組織のラボにいる。
そのほうが安全だと言う、市川の言葉を鵜呑みにしたわけではないが、蝶子自身もそう思い、いままで不安に感じてはいなかった。
それがいま、果たしてそれを信じていいのか、という思いが胸の中にこみ上げている。
美鈴はどうなるのか。
やはり邪蛇のように組織の実験台にされ、失敗となれば、ごみのように棄てられるのだろうか。
その真相は、いまは何もわからない。
しかし、それがもし現実だとするなら、そんなことは決して許さない。
たとえ、組織にどんな考えがあろうともだ。
蝶子の考えが、杞憂であるならそれでいい。
だが、真相は確かめなければならない。
けれど――
そこで蝶子は、瞼を閉じた。
その前にまず、やらなければならないことがある。いままでずっと、そのために生きてきたのだから。妹の復讐を 果たすためだけに。そしてついに、突き止めたのだ。あの犬の異形人の居場所を。
美鈴のことを思えば、真相を確かめることが先決だが、蝶子はどうしても、妹の復讐を先に果たしたかった。
妹を無残に喰らい、命を奪ったあの犬男が、いまもなお多くの人々を襲い、喰らっているのだ。
それを知ってしまった以上、自分をそれ以外のことに割くことはできなかった。
(美鈴、もしおまえが、酷い扱いを受けているなら、必ず助けにいく。けれどそれは、こっちの要件が済んでからだ)
蝶子は胸の中でそう呟き、
「すまない……」
謝罪の言葉を口にすると、瞼を開けた。
蝶子の瞳に、焚火の炎が揺れている。
揺れる炎は、まるで、その瞳に映っているのではなく、蝶子の裡で燻っていた怒りが燃え上がっているかのようだった。
瞳に映る炎が、しだいにその色を失いながらべつの色へと変わっていった。
蝶子の瞳が、蒼白き光を帯びて、それが炎の色を変えたのだ。
それは、復讐心に燃える蒼白き炎だった。
邪蛇の言ったことを考えていた。
邪蛇の話しによれば、アルファ・ノアはずいぶん以前から異形人を捕えていて、実験を行ってきたようだ。
その実験によって、邪蛇は異形人から人間の姿にもどったのだが、それは長くはつづかず、邪蛇はまた異形人となってしまった。
それからも実験はつづけられ、そして邪蛇は、自分の意思で人間の姿にもどることも、異形人に変態することもできるようになっていた。
きっと組織は、邪蛇に対して異形人から人間へともどす実験を行ったのだろう。
しかし、その実験は失敗に終わった。
そして邪蛇は、失敗作として廃棄されたのだ。
それを考えると、異形人へと行った実験はこの邪蛇だけではないのではないかもしれない。
市川の話では、異形人へと変異する遺伝子の暴走自体をストップさせ、その遺伝子を正常のレベルにもどすことも 可能なところまできているということだった。
しかし、あくまでそれは、異形人の完全体になる以前の状態でなければならない。
要するに、実験はいまだ、成功には達していないということなのだろう。
それだけ実験を重ねてきたということだ。
失敗のたびに異形人を廃棄してきたとなれば、第1第2の邪蛇が野放しになっているということになる。
いや、それどころか、幾多にも及ぶ失敗作が、この世界のどこかに潜んでいるだろう。
ふだんは、人間の姿で行動することが可能となった異形人。
人間にとって、変態が自由にできる異形人は、さらなる脅威となる。
そして執行人においても、それはおなじことが言える。
人間の中にまぎれてしまっては、対処のしようが難しくなるからだ。
組織はなぜ、そんな失敗作を野に放ったりしたのか。
そしてなぜそれを、口外せずにいるのか。
組織には、そうするだけの意図があるのだろうか。
あるとするなら、それはいったいどんな意図なのか。
蝶子は炎を見つめながら、ふと、美鈴のことを思った。
美鈴はいま、組織のラボにいる。
そのほうが安全だと言う、市川の言葉を鵜呑みにしたわけではないが、蝶子自身もそう思い、いままで不安に感じてはいなかった。
それがいま、果たしてそれを信じていいのか、という思いが胸の中にこみ上げている。
美鈴はどうなるのか。
やはり邪蛇のように組織の実験台にされ、失敗となれば、ごみのように棄てられるのだろうか。
その真相は、いまは何もわからない。
しかし、それがもし現実だとするなら、そんなことは決して許さない。
たとえ、組織にどんな考えがあろうともだ。
蝶子の考えが、杞憂であるならそれでいい。
だが、真相は確かめなければならない。
けれど――
そこで蝶子は、瞼を閉じた。
その前にまず、やらなければならないことがある。いままでずっと、そのために生きてきたのだから。妹の復讐を 果たすためだけに。そしてついに、突き止めたのだ。あの犬の異形人の居場所を。
美鈴のことを思えば、真相を確かめることが先決だが、蝶子はどうしても、妹の復讐を先に果たしたかった。
妹を無残に喰らい、命を奪ったあの犬男が、いまもなお多くの人々を襲い、喰らっているのだ。
それを知ってしまった以上、自分をそれ以外のことに割くことはできなかった。
(美鈴、もしおまえが、酷い扱いを受けているなら、必ず助けにいく。けれどそれは、こっちの要件が済んでからだ)
蝶子は胸の中でそう呟き、
「すまない……」
謝罪の言葉を口にすると、瞼を開けた。
蝶子の瞳に、焚火の炎が揺れている。
揺れる炎は、まるで、その瞳に映っているのではなく、蝶子の裡で燻っていた怒りが燃え上がっているかのようだった。
瞳に映る炎が、しだいにその色を失いながらべつの色へと変わっていった。
蝶子の瞳が、蒼白き光を帯びて、それが炎の色を変えたのだ。
それは、復讐心に燃える蒼白き炎だった。
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