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チャプター【037】
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「ずいぶん遅かったじゃないか。どこかで道草していたねえ」
邪蛇がデイノニクスに向かって言った。
デイノニクスがそれに反応して、また邪蛇に顔を向けた。
そのデイノニクスとの距離を取ろうと、蝶子はじりじりと後ずさった。
「おまえ、この先祖返りのペットが来るのを待っていたのか」
蝶子が言った。
邪蛇は、蝶子を疲れさせようとしていたのではなかった。
このデイノニクスが来るまで、時間稼ぎをしていたのだ。
と、デイノニクスがとつぜん、
キケェェェッ!
蝶子に向かって威嚇の奇声をあげた。
「シャ、シャ。その子を、ペットだなんて失礼なことを言うから怒っているじゃないか。その子は、言葉が理解できるんだよ」
「まるで、自分の子供のような言い方だな」
デイノニクスに眼を向けながら、蝶子が言った。
「そうさ。その子は、私の子供だよ」
「――――」
蝶子は無言で、邪蛇へと視線だけを向けた。
「おや、信じたのかい? 冗談さ。シャ、シャ、シャア!」
「フン。おまえの醜いところにそっくりだから、思わず信じたよ。いっそのこと、養子にでもしたらどうだ」
「言ってくれるじゃないか。けど、そんな口を利いていられるのはいまだけだよ。その子たちにかかったらねえ」
蝶子はデイノニクスに視線をもどした。
すると、そのデイノニクスの後方の闇が動いた。
そう思うと、その闇から、新たに2頭のデイノニクスが姿を現した。
その2頭は、口に何かを咥(くわ)えてぶら下げていた。
焚火の火に、その咥えているものが浮びあがる。
デイノニクスが咥えていたものは、人の首だった。
最初の1頭の口に、ひとつ。
もう一頭の口には、ふたつ。
その2頭のデイノニクスは、その首の髪を咥えて揺らすようにぶら下げている。
それは、さっきまでこの場にいた、男3人の首だった。
3人の首はそれぞれ眼を見開き、その顔は、驚愕と苦悶にゆがんでいた。
「なんだい、おまえたち。遅いと思ったら、その3匹を喰っちまったのかい。2匹は、おまえたちにくれてやるつもりでいたのに、3匹とも喰っちまうとはどういうことだい。私の餌まで横取りしたとあっては、たとえおまえたちだからって、許さないよ!」
邪蛇が3頭のデイノニクスに向かって動いた。
それを見て、あとから来た2頭が、咥えていた首を口から地に落とした。
キケェェェェェ!
3頭のデイノニクスが、同時に奇声をあげた。
1頭が、邪蛇と対峙しながら後退する。
あとの2頭は、それぞれ邪蛇を左右から挟みこむように移動していく。
3頭は、連携して狩りをする体系を作っているらしい。
「いい度胸じゃないか。この私を狩るつもりでいるのかい」
邪蛇は、裂けた口をつり上げ、3頭を睥睨した。
「クココ……」
「コカカカ……」
「カカカ……」
3頭は、邪蛇との間合いを保ちながら啼(な)く。
それはあたかも、互いに声をかけ合っているかのようだった。
「どうしたんだい。来ないなら、こっちからいくよ!」
邪蛇はそう言うなり、自分の右側のデイノニクスに向かって尾を見舞った。
「グケェッ!」
あまりの速さに、そのデイノニクスは躱す間もなく弾き飛ばされていた。
その一瞬を狙って、左側のデイノニクスが邪蛇に向かって跳んでいた。
腕に喰らいつく。
「馬鹿だね。おまえの牙なぞ、私の身体に傷ひとつつけられるもんかね」
そのデイノニクスの身体に、邪蛇の尾がするすると巻きついていった。
徐々に絞めあげられていく。
それでも尚、そのデイノニクスは、腕に喰らいついたまま離さない。
それを見た正面のデイノニクスが、勝機とばかりに邪蛇へと跳んだ。
そのデイノニクスは、邪蛇の肩に牙を立てた。
邪蛇がデイノニクスに向かって言った。
デイノニクスがそれに反応して、また邪蛇に顔を向けた。
そのデイノニクスとの距離を取ろうと、蝶子はじりじりと後ずさった。
「おまえ、この先祖返りのペットが来るのを待っていたのか」
蝶子が言った。
邪蛇は、蝶子を疲れさせようとしていたのではなかった。
このデイノニクスが来るまで、時間稼ぎをしていたのだ。
と、デイノニクスがとつぜん、
キケェェェッ!
蝶子に向かって威嚇の奇声をあげた。
「シャ、シャ。その子を、ペットだなんて失礼なことを言うから怒っているじゃないか。その子は、言葉が理解できるんだよ」
「まるで、自分の子供のような言い方だな」
デイノニクスに眼を向けながら、蝶子が言った。
「そうさ。その子は、私の子供だよ」
「――――」
蝶子は無言で、邪蛇へと視線だけを向けた。
「おや、信じたのかい? 冗談さ。シャ、シャ、シャア!」
「フン。おまえの醜いところにそっくりだから、思わず信じたよ。いっそのこと、養子にでもしたらどうだ」
「言ってくれるじゃないか。けど、そんな口を利いていられるのはいまだけだよ。その子たちにかかったらねえ」
蝶子はデイノニクスに視線をもどした。
すると、そのデイノニクスの後方の闇が動いた。
そう思うと、その闇から、新たに2頭のデイノニクスが姿を現した。
その2頭は、口に何かを咥(くわ)えてぶら下げていた。
焚火の火に、その咥えているものが浮びあがる。
デイノニクスが咥えていたものは、人の首だった。
最初の1頭の口に、ひとつ。
もう一頭の口には、ふたつ。
その2頭のデイノニクスは、その首の髪を咥えて揺らすようにぶら下げている。
それは、さっきまでこの場にいた、男3人の首だった。
3人の首はそれぞれ眼を見開き、その顔は、驚愕と苦悶にゆがんでいた。
「なんだい、おまえたち。遅いと思ったら、その3匹を喰っちまったのかい。2匹は、おまえたちにくれてやるつもりでいたのに、3匹とも喰っちまうとはどういうことだい。私の餌まで横取りしたとあっては、たとえおまえたちだからって、許さないよ!」
邪蛇が3頭のデイノニクスに向かって動いた。
それを見て、あとから来た2頭が、咥えていた首を口から地に落とした。
キケェェェェェ!
3頭のデイノニクスが、同時に奇声をあげた。
1頭が、邪蛇と対峙しながら後退する。
あとの2頭は、それぞれ邪蛇を左右から挟みこむように移動していく。
3頭は、連携して狩りをする体系を作っているらしい。
「いい度胸じゃないか。この私を狩るつもりでいるのかい」
邪蛇は、裂けた口をつり上げ、3頭を睥睨した。
「クココ……」
「コカカカ……」
「カカカ……」
3頭は、邪蛇との間合いを保ちながら啼(な)く。
それはあたかも、互いに声をかけ合っているかのようだった。
「どうしたんだい。来ないなら、こっちからいくよ!」
邪蛇はそう言うなり、自分の右側のデイノニクスに向かって尾を見舞った。
「グケェッ!」
あまりの速さに、そのデイノニクスは躱す間もなく弾き飛ばされていた。
その一瞬を狙って、左側のデイノニクスが邪蛇に向かって跳んでいた。
腕に喰らいつく。
「馬鹿だね。おまえの牙なぞ、私の身体に傷ひとつつけられるもんかね」
そのデイノニクスの身体に、邪蛇の尾がするすると巻きついていった。
徐々に絞めあげられていく。
それでも尚、そのデイノニクスは、腕に喰らいついたまま離さない。
それを見た正面のデイノニクスが、勝機とばかりに邪蛇へと跳んだ。
そのデイノニクスは、邪蛇の肩に牙を立てた。
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