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チャプター【035】
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「もう、大丈夫だ」
蝶子は、うしろ手に縛られた女の拘束を解いた。
拘束から自由になると、女は両手首をさすった。
「怪我はないか」
そう訊いたが、女はうなだれたまま何も答えない。
「まったく、人間のくせに酷いことをする」
「――――」
女はうなだれたままでいる。
「あんた、住まいはどこだ」
「…………」
それにも女は答えない。
いや、そうではない。
女はかすかな声で何かを言った。
「なに!」
女のその声が、蝶子にははっきりと聴こえた。
『よけいな真似をしてくれたね……』
女はそう言ったのだった。
「どういうことだ!」
蝶子は立ち上がると、身を退いた。
「どうもこうもないさね」
女は顔を上げた。
長い黒髪が、顔を隠すように垂れている。
その黒髪の奥の眼が、蝶子を睨みあげていた。
「あいつらと楽しんだあとに、ゆっくりと喰らってやるつもでいたのにさァ」
そう言った女の首と胸元が、さわさわとその色を変えはじめた。
肌の色が黒碧へと変色していく。
「!――」
その刹那、蝶子は後方へと身を翻えした。
着地したときには、すでに銃を構えていた。
「その身のこなしの疾(はや)さ、さてはおまえ、執行人(クリーナー)だね」
女は立ち上がっていた。
女の身体が徐々に大きくなっていく。
そのために、身に着けていた服やスカートが裂けていった。
その裂けていくスカートの裾から伸びているのは、もう脚ではなかった。
それは、黒碧色の鱗に被われた蛇の胴体へと変っていた。
顔や腕や身体も、黒碧色の鱗に被われている。
その姿は、人と融合した1匹の大蛇。
女は、邪蛇(じゃだ)に変貌していたのだった。
邪蛇は、ぼろきれのようになった服とスカートを、その身から取り払った。
「おまえ、異形人だったのか……」
蝶子は、あり得ないものを見るかのように、その邪蛇に視線を向けていた。
「なんだい、その驚いた顔は。人からこの身体に変態するのが、そんなに不思議かい」
「あたり前だ。異形人に、そんな能力があるわけがない」
「ずいぶんな言いようだねえ。私ら進化人は、おまえのような下等な生き物とは違って、進化しつづけているのさ」
「進化か。フン、そんな話は聞き飽きたよ。おまえたちがなんと言おうと、そんな姿は化け物でしかない」
そう言ったときにはもう、蝶子は銃弾を撃ちこんでいた。
ダン、
ダン、
ダン、
ダン!
4発の銃弾が、邪蛇に向かっていく。
至近距離である。
躱(かわ)せるはずがない。
だが、邪蛇は、向かってくる銃弾を、丸太のような尾ですべて叩き落としていた。
「シャア。そんなものが、この私に通用するものかね」
邪蛇は、裂けた口をつり上げ、にやりと嗤った。
その口からは、先端が二股に割れた赤く細い舌が伸びて、うねうねとうねった。
「挨拶代わりってところさ」
「そうかい。だったら、挨拶も済んだことだし、死にな!」
邪蛇は、蝶子の真横から尾を見舞った。
疾(はや)い。
蝶子は、後方に跳んでそれを躱(かわ)す。
「逃がすものかね」
邪蛇の尾が伸びて、まだ宙にある蝶子の足に巻きついた。
そのままふり下す。
「がはッ!」
蝶子の身体は、まともに地面へと叩きつけられていた。
「なんだい、だらしのない。そんなもので、よく執行人(クリーナー)が務まったものさね」
邪蛇の尾が、するすると蝶子の身体に巻きついていく。
蝶子の身体を腕ごと巻きつけると、その尾を引きもどした。
「ぐ、くく……」
蝶子は逃れようと抗う。
「むやみに暴れないほうがいいよう。もがけばもがくほど、私の尾が、おまえの身体を絞めていくからねえ」
その言葉どおり、邪蛇の尾は、蝶子が身じろぎするごとに、じわりじわりと絞まっていく。
「うぐッ……」
身体が軋みをあげる。
息ができない。
蝶子の身体から、ふいに力が抜けた。頭が、がくりと傾く。
「もう死んだかい?」
蝶子はぴくりとも動かない。
「まさか、死んだふりじゃないだろうねえ」
邪蛇が蝶子を窺い見た。
すると、
「ばれちゃ、しかたないね」
蝶子が顔を上げた。
その瞳が、蒼白い燐光を放っていた。
蝶子は、うしろ手に縛られた女の拘束を解いた。
拘束から自由になると、女は両手首をさすった。
「怪我はないか」
そう訊いたが、女はうなだれたまま何も答えない。
「まったく、人間のくせに酷いことをする」
「――――」
女はうなだれたままでいる。
「あんた、住まいはどこだ」
「…………」
それにも女は答えない。
いや、そうではない。
女はかすかな声で何かを言った。
「なに!」
女のその声が、蝶子にははっきりと聴こえた。
『よけいな真似をしてくれたね……』
女はそう言ったのだった。
「どういうことだ!」
蝶子は立ち上がると、身を退いた。
「どうもこうもないさね」
女は顔を上げた。
長い黒髪が、顔を隠すように垂れている。
その黒髪の奥の眼が、蝶子を睨みあげていた。
「あいつらと楽しんだあとに、ゆっくりと喰らってやるつもでいたのにさァ」
そう言った女の首と胸元が、さわさわとその色を変えはじめた。
肌の色が黒碧へと変色していく。
「!――」
その刹那、蝶子は後方へと身を翻えした。
着地したときには、すでに銃を構えていた。
「その身のこなしの疾(はや)さ、さてはおまえ、執行人(クリーナー)だね」
女は立ち上がっていた。
女の身体が徐々に大きくなっていく。
そのために、身に着けていた服やスカートが裂けていった。
その裂けていくスカートの裾から伸びているのは、もう脚ではなかった。
それは、黒碧色の鱗に被われた蛇の胴体へと変っていた。
顔や腕や身体も、黒碧色の鱗に被われている。
その姿は、人と融合した1匹の大蛇。
女は、邪蛇(じゃだ)に変貌していたのだった。
邪蛇は、ぼろきれのようになった服とスカートを、その身から取り払った。
「おまえ、異形人だったのか……」
蝶子は、あり得ないものを見るかのように、その邪蛇に視線を向けていた。
「なんだい、その驚いた顔は。人からこの身体に変態するのが、そんなに不思議かい」
「あたり前だ。異形人に、そんな能力があるわけがない」
「ずいぶんな言いようだねえ。私ら進化人は、おまえのような下等な生き物とは違って、進化しつづけているのさ」
「進化か。フン、そんな話は聞き飽きたよ。おまえたちがなんと言おうと、そんな姿は化け物でしかない」
そう言ったときにはもう、蝶子は銃弾を撃ちこんでいた。
ダン、
ダン、
ダン、
ダン!
4発の銃弾が、邪蛇に向かっていく。
至近距離である。
躱(かわ)せるはずがない。
だが、邪蛇は、向かってくる銃弾を、丸太のような尾ですべて叩き落としていた。
「シャア。そんなものが、この私に通用するものかね」
邪蛇は、裂けた口をつり上げ、にやりと嗤った。
その口からは、先端が二股に割れた赤く細い舌が伸びて、うねうねとうねった。
「挨拶代わりってところさ」
「そうかい。だったら、挨拶も済んだことだし、死にな!」
邪蛇は、蝶子の真横から尾を見舞った。
疾(はや)い。
蝶子は、後方に跳んでそれを躱(かわ)す。
「逃がすものかね」
邪蛇の尾が伸びて、まだ宙にある蝶子の足に巻きついた。
そのままふり下す。
「がはッ!」
蝶子の身体は、まともに地面へと叩きつけられていた。
「なんだい、だらしのない。そんなもので、よく執行人(クリーナー)が務まったものさね」
邪蛇の尾が、するすると蝶子の身体に巻きついていく。
蝶子の身体を腕ごと巻きつけると、その尾を引きもどした。
「ぐ、くく……」
蝶子は逃れようと抗う。
「むやみに暴れないほうがいいよう。もがけばもがくほど、私の尾が、おまえの身体を絞めていくからねえ」
その言葉どおり、邪蛇の尾は、蝶子が身じろぎするごとに、じわりじわりと絞まっていく。
「うぐッ……」
身体が軋みをあげる。
息ができない。
蝶子の身体から、ふいに力が抜けた。頭が、がくりと傾く。
「もう死んだかい?」
蝶子はぴくりとも動かない。
「まさか、死んだふりじゃないだろうねえ」
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すると、
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蝶子が顔を上げた。
その瞳が、蒼白い燐光を放っていた。
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