バタフライ~復讐する者~

星 陽月

文字の大きさ
30 / 70

チャプター【029】

しおりを挟む
 蝶子はもとの部屋にもどされ、その日の夜になった。
 部屋の灯りは落とされている。
 それでも、青い夜間灯が灯されているため、室内は淡いブルーに染まっている。
 夜間灯は、朝まで消えることはない。
 監視を怠らないためだ。
 蝶子は常に監視されているのだった。
 ベッドの中で蝶子は、ブルーがかった天井を見つめていた。
 眠ることができなかった。
 明日には決断しなければならない。
 生か死か、を。
 それはまさに、究極の選択だった。
 その選択を避けたとしても、待っているのは死だった。
 けれど、と蝶子は思う。
 それでいい、と。
 死への恐怖は微塵も感じず、むしろ生きることに執着することのほうが恐い気がした。
 だから蝶子は、選択をするつもりなどなかった。
 ただ静かに死を待てばいい。
 そう考えていた。
 なのになぜか、心の奥底で、ほんとうにそれでいいの? 
 と囁きかけるもうひとりの自分がいた。

(生きることに、何の意味があるというのよ……)

 蝶子は、もうひとりの自分に言い返した。
 だが、

 ほんとうにそれでいいの?――

 もうひとりの自分は、そう問うばかりだった。
 それは本能の声なのだろうか。
 植草たち科学者が駆けつけてきたあのときのように、本能ではやはり、まだ生きることを望んでいるのだろうか。
 なぜ? 

 そう思ったとき、胸の裡で、ふつふつと沸騰する何かが芽生えているのを感じた。

(これは、いったいなに……)

 何が自分の中で芽生えたというのか。蝶子は戸惑った。
 だがすぐに、その正体を知った。
 蝶子の脳裡に、自分の声とはべつの声が響いたからだ。

『妹さんの復讐を、果たしたくはない?』

 聴こえてきたのは、植草の声だった。
 あの部屋で、植草の言ったその言葉を聞いたとき、蝶子は胸を揺さぶるほどの昂ぶりを覚えた。
 その昂ぶりは、気づかぬうちに胸の裡で復讐という種になり、それがいま芽吹いたのだ。
 沸騰する何か。
 その正体は復讐心だった。
 蝶子は両手を広げ、手のひらと甲を交互に眺めた。
 この手は、そしてこの身体は、自分のものであって自分のものではない。
 サイエンス・テクノロジーによって創られた肉体。
 しかし、この肉体には特殊な能力が備わっているという。
 
 特質能力――

 植草は言っていた。
 特質能力が発現するとき、眼や身体の一部が燐光を帯びると。
 その能力をもってすれば、あの化け物、異形人を倒すことも可能だとも。
 蝶子は目醒めてからすでに二度、無意識のうちに特質能力を発現させている。
 一度目はあの円筒の中で硬化ガラスに罅(ひび)を入れ、もう一度は今日、市川の言葉に憤りを覚えてスチール製 の机をへこませた。
 そのどちらのときも、蝶子の手は蒼白い燐光を帯びていた。
 だが、それだけでは特質能力とは言えないだろう。
 きっと、もっと何かすごい力を秘めているに違いない。
 それはいったい、どんなものなのだろうか。
 蝶子は拳を握ってみた。
 力をこめてみる。
 意識を集中させる。
 しばらくのあいだ意識を集中してみたが、両手が光を帯びることはなかった。
 どうやらまだ、自分の意思では自由に特質能力を発現させるのは無理らしい。
 しかしそれは、いまのままならばだ。
 市川の言っていた、異形人や先祖返りを駆除するための対戦闘養成プログラムで一年間の訓練を積めば、自分の意 思でもその能力を発現させることができるに違いない。
 あと1年待てばいいのだ。
 そうすれば、妹の復讐を果たすことができる。
 死を望むのは、そのあとでいい。
 蝶子はベッドを出ると、ドアの横のインターフォンを押した。
 内線はすぐに出た。

「どうしました?」

 事務的な男の声だった。
 蝶子は一度眼を閉じ、覚悟を決めると、

「いますぐ、市川さんを呼んでください」

 そう言った――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...