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チャプター【011】
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「いやあああああッ!」
蝶子は叫び声を上げ、半身を起こして眼を醒ました。
それでもまだ、夢の恐怖からは醒めきれず、自分の身体を抱きしめるようにしておろおろと怯えた。
鼓動が烈(はげ)しく胸を叩いている。
また、いつもとおなじ夢を見ていた。
にもかかわらず、その夢があまりにも生々しく鮮明だっただけに、すぐに夢だとは認識ができなかった。
それもまた、いつものことだった。
しばらくしてから蝶子はようやく自分を取りもどし、周囲に眼をやった。
そこは、倒壊したコンクリートが斜めに重なった中にできた6畳ほどの空間だった。
空間の中央には瓦礫で組まれた小さな石炉があり、薪がちろちろと燃えている。
その火が灯りとなって、空間の状景を浮かび上がらせていた。
何もない空間だが、どうやらひとつの部屋として使われているようだった。
その部屋の奥の床に置かれたマットレスに、蝶子は寝かされていた。
身体に掛けられていたのは、2枚重ねの毛布だった。
毛布を剥いでマットレスから出ようとし、蝶子はそこで、自分が裸であることに気づいた。
ハッとして身体を毛布で被った。
改めるように周囲へと眼をやる。
まったく見覚えのない場所だった。
いったいここはどこなのか。
そう思い、だが、そう思う思考を、蝶子は頭からすぐに消した。
考えたところでわかるわけがない。
熊男との壮絶な闘いのあと、蝶子は地に倒れて気を失ったのだ。
ならば、思考するより俊敏に行動することだ。
蝶子がどれほどの身体能力を持っていようとも、いまのこの世界で生きていくには、そうするのが絶対的条件だった。
蝶子は、自分が身に着けていたものを探した。
マットレスの上方に眼をやると、アーマー・スーツとコートがたたまれて置かれ、その横にはブーツがあった。
蝶子はすぐさまマットレスから出ると、スーツを手に取った。
素肌にそのまま身に着け、ブーツを履く。
だが、両の太腿に装着していたホルスターと銃がない。
気を失う前に手にしたはずの太刀と、背に負っていたはずの鞘までもが。
部屋の中を眼で探ったが、どこにも置かれてはいない。
奪われたのか。
それとも、どこかに隠されてしまったのか。
と、そのとき、人の気配を感じて、蝶子はとっさに身を引いた。
部屋の入口へと眼をやる。
入口とは言ってもドアがあるわけではない。
人ひとりが通れるほどの隙間がそこに開いているだけだ。
そこに少女がひとり立っていた。
ジャンパーについたフードで頭を被っている。
胸に、薄汚れてくたくたになった猫のキャラクター人形を抱いていた。
少女は無言のまま蝶子を見ている。
「あんたは、だれ? 名前は?」
蝶子は少女に訊いた。
少女は何も答えない。
「あんたが、私をここへ?」
さらに蝶子が訊く。
しかし、やはり少女は答えない。
ただ、蝶子を見つめているだけだ。
「黙っていたら、なにもわからないよ」
さらにまた、今度はそう言うと、少女は右手を上げて指先を耳にあてた。
「それって……、耳が聴こえないのかい?」
蝶子がジェスチャーを交えてそう訊くと、少女はこくりとうなずいた。
「そうか……」
蝶子はすまなそうに少女を見つめた。
すると、少女がすっと近づいてきて、蝶子の手を引いた。
どこかへ連れていこうとしているらしい。
そのまま部屋を出ると、とたんに暗闇に包まれた。
その暗闇の中を、少女は蝶子の手を引いて歩いていく。
瓦礫と瓦礫のあいだにできた隙間を歩いていくのだが、少女は暗闇などものともせず、まるで進む先が見えているかのようだった。
どこへ連れていこうとしているのか。
蝶子は手を引かれるまま少女のあとをついていった。
蝶子は叫び声を上げ、半身を起こして眼を醒ました。
それでもまだ、夢の恐怖からは醒めきれず、自分の身体を抱きしめるようにしておろおろと怯えた。
鼓動が烈(はげ)しく胸を叩いている。
また、いつもとおなじ夢を見ていた。
にもかかわらず、その夢があまりにも生々しく鮮明だっただけに、すぐに夢だとは認識ができなかった。
それもまた、いつものことだった。
しばらくしてから蝶子はようやく自分を取りもどし、周囲に眼をやった。
そこは、倒壊したコンクリートが斜めに重なった中にできた6畳ほどの空間だった。
空間の中央には瓦礫で組まれた小さな石炉があり、薪がちろちろと燃えている。
その火が灯りとなって、空間の状景を浮かび上がらせていた。
何もない空間だが、どうやらひとつの部屋として使われているようだった。
その部屋の奥の床に置かれたマットレスに、蝶子は寝かされていた。
身体に掛けられていたのは、2枚重ねの毛布だった。
毛布を剥いでマットレスから出ようとし、蝶子はそこで、自分が裸であることに気づいた。
ハッとして身体を毛布で被った。
改めるように周囲へと眼をやる。
まったく見覚えのない場所だった。
いったいここはどこなのか。
そう思い、だが、そう思う思考を、蝶子は頭からすぐに消した。
考えたところでわかるわけがない。
熊男との壮絶な闘いのあと、蝶子は地に倒れて気を失ったのだ。
ならば、思考するより俊敏に行動することだ。
蝶子がどれほどの身体能力を持っていようとも、いまのこの世界で生きていくには、そうするのが絶対的条件だった。
蝶子は、自分が身に着けていたものを探した。
マットレスの上方に眼をやると、アーマー・スーツとコートがたたまれて置かれ、その横にはブーツがあった。
蝶子はすぐさまマットレスから出ると、スーツを手に取った。
素肌にそのまま身に着け、ブーツを履く。
だが、両の太腿に装着していたホルスターと銃がない。
気を失う前に手にしたはずの太刀と、背に負っていたはずの鞘までもが。
部屋の中を眼で探ったが、どこにも置かれてはいない。
奪われたのか。
それとも、どこかに隠されてしまったのか。
と、そのとき、人の気配を感じて、蝶子はとっさに身を引いた。
部屋の入口へと眼をやる。
入口とは言ってもドアがあるわけではない。
人ひとりが通れるほどの隙間がそこに開いているだけだ。
そこに少女がひとり立っていた。
ジャンパーについたフードで頭を被っている。
胸に、薄汚れてくたくたになった猫のキャラクター人形を抱いていた。
少女は無言のまま蝶子を見ている。
「あんたは、だれ? 名前は?」
蝶子は少女に訊いた。
少女は何も答えない。
「あんたが、私をここへ?」
さらに蝶子が訊く。
しかし、やはり少女は答えない。
ただ、蝶子を見つめているだけだ。
「黙っていたら、なにもわからないよ」
さらにまた、今度はそう言うと、少女は右手を上げて指先を耳にあてた。
「それって……、耳が聴こえないのかい?」
蝶子がジェスチャーを交えてそう訊くと、少女はこくりとうなずいた。
「そうか……」
蝶子はすまなそうに少女を見つめた。
すると、少女がすっと近づいてきて、蝶子の手を引いた。
どこかへ連れていこうとしているらしい。
そのまま部屋を出ると、とたんに暗闇に包まれた。
その暗闇の中を、少女は蝶子の手を引いて歩いていく。
瓦礫と瓦礫のあいだにできた隙間を歩いていくのだが、少女は暗闇などものともせず、まるで進む先が見えているかのようだった。
どこへ連れていこうとしているのか。
蝶子は手を引かれるまま少女のあとをついていった。
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