もう一度、君に逢いたい

星 陽月

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【第49話】

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「ほっとされたでしょう。地獄へ行かずにすんだのですから」

 シャカは半眼で透を見た。

「いえ、そうではありません」

 透はシャカを見据える。

「ほっとするどころか、私はいま、怒りさえ覚えています」
「なにゆえに」
「なにゆえに? わかりませんか」
「いえ、一向に」
「お釈迦様、いや、シャカさん。仏であるあなたが、私のこの怒りの意味がおわかりにならないのですか」
「…………」

 シャカは言葉を返せずたじろいだ。

「テストだかなんだかは知りませんが、あなた方は私の律子への想いにつけ込んで、心を弄び、騙(だま)したのですよ。違いますか?」
「いえ、透。私たちはあなたに試練を与えたのであって、なにも、その、弄んだとか、騙したとかではなく――」
「だまらっしゃい!」

 透はシャカが言うのを制し、

「試練ですって? 笑止な」

 青言うと、言葉をつづけた。

 試練とは、尊きものとはなにか。
 大切なものとはなにか。
 愛すべきものとはいったいなんなのか。
 それらを幾多の苦難を乗り越えながら学び、生きることの本質を見出していくものではないですか。
 その姿を、神様や仏様はただ黙って見守っている。そういうことでしょう。
 それなのに、あなた方は私に干渉した。
 わざわざ未来へと連れていき、律子の生まれ変わった朝子さんに逢わせて私の心を試すなど言語道断。
 あってはならないことではありませんか。
 それが神様や仏様のすることなのでしょうか。
 人を創ったのは、確かに神様かもしれません。
 しかし、だからといって、まるでゲームのキャラクターのような扱い方をしてもいいのですか。
 人には意思というものがあるのです。
 そしてその意思によって、自らの道を歩んでいくのではないですか。
 わたしが言うことは間違っていますか?

 透は憤る想いを、吐き出した。

「いえ、あなたはなにも間違っていませんよ」

 シャカが静かに言った。
 たじろいだ姿とは打って変わり、半眼の瞳で愛しむように透を見つめている。

「あなたの思うところのその想いは、私たちと同じです」

 その声は涼やかな風のようだ。

「確かに私たちは、あなたに干渉しました。しかし、よくお考えなさい。あなたはいま、人には意思というものがあるといいましたね。そのとおりです。その意思により人は、そのときそのときの決断をしていくのです。そう、決断を。透、あなたは、彼女の魂に出逢えるのならば地獄へ行くのも厭(いと)わなかった。そして彼女の魂が生まれ変わった未来へ行くと決めた。それはあなたの意思、それゆえの決断ではなかったのですか?」
「―――――」

 透は押し黙った。
 返す言葉などあるはずもなかった。
 透は無理に未来へと連れて行かれたわけではない。
 まさに決断したのは自分自身だ。

「責めているのではありませんよ、透。あなたは、あなたの思うところの想いの丈をぶつけた。それでいいのです。それもあなたの意思。私たちにも非があります。あなたを欺(あざむ)いたこと、どうか赦(ゆる)してください」

 そう言うと、シャカは頭を下げた。
 そして、ザイールやディエル、ゼウスまでが頭を下げた。

「そんな、こんな私に頭を下げるなど、やめてください」

 透は恐縮するばかりだった。

「いやいや、しかし。透とやら、そちは確かに、二の者としての選ばれし者である」

 ゼウスが感心然りといった顔でうなずく。

「はい、この者こそ、『一の者』との融合に適うソウル・メイトとなりましょう」

 シャカも同じようにうなずいた。

「はァ……、ですから、その『一の者』とか『二の者』とはいったいなんなのでしょう」
「一の者と二の者交わるとき、始となる――『一の者』それはあなたの愛した人の魂」
「するとそれは、律子、いや、彼女だった魂のことですか?」
「そうです。そしてあなたが『二の者』。そのふたりの魂がひとつとなったとき、新たなる宇宙が始まるのです」
「は? ちょっと待ってください。新たなる宇宙が始まるって、なんですかそれは」

 透には、まったくもって理解ができなかった。
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