もう一度、君に逢いたい

星 陽月

文字の大きさ
上 下
30 / 53

【第29話】

しおりを挟む
「さあ、注いで」

 直人はぐうの音も出ずに、さゆりにワインを注ぎ足した。
 しばし唖然とさゆりを見つめていた朝子が、

「言うじゃないの、さゆり。見直したわ」

 ある意味、尊敬の眼差しを向けた。
それに成実も同調する。

「ほんとよ。だてに前世や魂のことを語ってるわけじゃないのね」
「まあね」

 褒められて、さゆりは気をよくした。

「直人はちょっと可哀想だけど」

 成実が直人に眼を向ける。
 直人は肩を落とし、大きな身体を小さくしている。
 男ならここで激怒し、反論のひとつも返すところなのだろうが、そうしないのは自分の非を素直に認めているからなのか、それともただたんに、何も言い返すことができずにしょげているだけなのか。
 そのふたつを考えてみると、直人の様子を見れば後者なのは明らかだった。
 そんな直人をトオルは見かねて、

「女の人には、男は勝てないね」

 しょげ返った背に手をやった。

「口では女に勝てないからな」
「そうだね」
「でもな、女の中でもさゆりは特別なんだよ。コイツにかかったら、どんな男もコテンパンさ。おまえも大人になったら、こういう女はだけはやめておけよ」

 直人は小声でそう言った。

「なにか言った?」

 地獄耳のさゆりが、直人をキッと睨む。

「あ、いや、なんでもない。こっちの話。なァ、トオル」

 直人はバツの悪い顔で、トオルに目配せをした。

「う、うん。男と男の話」

 トオルは話を合わせた。

「フフ、トオルくんてやさしいのね。まあ、いいわ。今日はクリスマス・イヴ。楽しくやりましょ」

 みんなは改めて乾杯をした。
 皆、酔うほどに饒舌になり、盛り上がっていった。そんな中、トオルだけはしらふなだけに、盛り上がる席で浮いていた。
 それでもトオルは、皆の話を聴いているだけで楽しかった。
 トオルの膝の上で眠ってるサラは、これだけ賑わっているにもかかわらず、一向に眼を醒ます気配がない。
 少し眠りすぎじゃないのかな、と思って声をかけても、まるで反応がなかった。

(これじゃ、眠り猫だな……)

 そんなことを思っていると、

「ねえ、カラオケ行かない?」

 と、成実が言い出し、即座に皆が同意した。
 カラオケは、未来でも人気のレジャーであるらしい。
 朝子がタクシー会社に電話を入れ、皆でテーブルを片付けると、皆、プレゼントを手に部屋をあとにした。
 プレゼントの交換は、カラオケの店でやるのだろう。
 外はすっかり夜の闇に落ちていた。
 マンションの前で待っていると、ほどなくしてタクシーがやってきた。
 タクシーはワンボックスタイプの車で、乗りこんでみると、ゆとりの広さがあった。
 トオルはふと、「運転手はロボットだったりして」と思ったりしたが、そのタクシーは無人のオート・ドライヴになっていた。

「行キ先ヲドウゾ」

 音声がすると、リア・シートの前面に小型の液晶画面が現れた。
 ディスプレイは行き先をインプットするようになっていて、朝子が手早く入力した。

「行キ先ハ、『カラオケ・ミュージアム、歌天国』デスネ。カシコマリマシタ」

 音声とともに車体がわずかに浮いて、静かに走り出した。
 タクシーは微かな振動もなく走る。
 それもそのはず、車体にはタイヤがなく、路上を浮いて滑るように走っているのだ。
 それはあのモール街を走っていたバスと同じだった。
 きっと、リニヤ・モーターの磁力の原理なのだろう。
 それが未来では、車にも実用化されているのだった。
 マンションの高層ビル群を抜けると、煌びやかなネオンに彩られた繁華街に入っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...