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【第26話】
しおりを挟む「朝子、この子はだれ? 可愛いいじゃない」
女性のひとりが訊く。
彼女は朝子の同僚のさゆり。
「まさか、朝子の隠し子じゃないだろうな」
すかさず男が言う。
その男、直人はトオルの隣に坐った。
「なによそれ。そんなわけないでしょ。小樽の弟よ」
「え? 朝子に弟なんていた?」
さゆりは直人の隣に坐った。
「バカね、マジに受け取らないでよ。いとこよ、いとこ。冬休みで、おじいちゃんのところに遊びに来たの」
「そうなんだァ。ほんとに可愛いわね。名前はなんていうの?」
「トオルです」
トオルはかしこまった。
「トオルくんかァ。眼のあたりがちょっとだけ朝子に似てるみたい。それに、すごく清らかな瞳の色をしてる。瞳のきれいな人って、前世で徳を積んでいるのよ」
「おいおい、さゆり。また前世の話かよ。そんな話をしても、わかるわけがないだろ。なあ、トオル」
直人はトオルの肩に腕を回した。
なんともなれなれしいヤツだ、とトオルは思った。
ほんとうなら、君は孫ほどの歳なんだぞ。
それを呼び捨てにするなんて、けしからん。
トオルは不快に思いながら、
「僕はわかるよ。前世って、僕が生まれる前の、別の僕のことでしょ?」
直人に対抗するように言った。
「オッ、なんだよトオル。その歳で、前世なんて信じてるのか?」
「うん、信じてるよ。魂はなんどだって生まれ変わるんだ」
「わァ、トオルくんて、いいじゃない。私と気が合いそう」
さゆりは、すっと立ち上がると、
「直人、そこをどいて」
と、トオルと直人のあいだに入ってきた。
「ちょっと、さゆり。アンタの色に染めようとしないでよね。トオルくんは純粋なんだから」
朝子がさゆりをたしなめる。
「わかってるわよ。だけど、トオルくんて、絶対にいい魂を持っていると思うわ。すごく強いオーラを感じるもの。トオルくんの前世は、きっと立派な人だったはずよ」
こうなったさゆりは止まらない。
「前世のことを語りだしたら最後、さゆりを止めることはできないわ。トオルくんも、まともに相手をしなくてもいいからね。その人、クドいから」
と、もうひとりの女性、成実が言った。
彼女は朝子と大学時代からの友人。
「クドいってなによ。前世なくして、いまの成実はないのよ。まったく、あなたたちも少しはね、トオルくんを見習ったほうがいいんじゃないの? 前世を知るって、とても大切なことなんだから。だいたいあなたたちは、魂がなんであるかをね――」
「はいはい、わかりました」
いつものように話しがくどくなりそうなので、朝子と成実はまったく同時にさゆりが言うのを制した。
ふたりが、同じリアクションをとったのは言うまでもない。
そこで朝子は立ち上がると、「成実、ちょっと手伝って」と成実と一緒にキッチンに向かった。
ひとりあぶれた形になった直人は、所在ない自分を持て余して、リックと遊び始めた。
全身で挑んでいく直人だったが、完全にリックに遊ばれていた。
さゆりはというと、朝子と成美がキッチンに入っていくのを見計らって、このときとばかりに真剣な眼差しで前世や来世、魂のことや神の話を語った。
わかり易く、適切な表現を駆使して語るさゆりの話に、トオルも興味をそそられ聞き入った。
トオルにしてみれば、まさに前世だった律子が生まれ変わった朝子のいる未来にいまこうしているのだから、興味をそそられないわけがない。
なかでも、永遠のつながりを持つという、魂のきずな――ソウル・メイトについての話は、トオルの胸を震わせた。
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