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【第25話】
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園内をぐるりと一周りしてから、トオルとリックは部屋へともどった。
リビングに入っていくと、すでにクリスマスの飾りつけがなされていて、朝子はクリスマス・ツリーに電飾を施していた。
「お帰りー。リックの脚を洗ってくれるー!」
トオルは返事を返して、リックをバス・ルームに連れていった。
バス・ルームを出てくると、朝子はキッチンで料理に奮闘していた。
トオルは何か手伝おうか思ったが、かえって邪魔になるだろうからと、リビングのソファでおとなしくしていることにした。
ソファでは、サラがいつもの定位置で身体を丸めて眼を閉じている。
声をかけたが、返事がないところをみると眠っているようだった。
リックの相手でもしようかとふり返ると、彼はリビングの中央で身体を投げ出し、顎を床につけてこっちを見る。
トオルが呼びかけるとピクッっと反応し、おもむろに身体を起こして近寄ってきた。
トオルは、サラがリックのことを、「お手」も「おすわりも」できないボンクラだと言っていたのを思い出して、試してみることにした。
「リック、おすわり」
だが、リックはそれに応えない。
「お手」
トオルは手を差し出すが、それにもやはり反応しなかった。
「リック。サラにボンクラって言われて悔しくないのか?」
すると、その言葉を理解したかように、リックはすっとおすわりをした。
「なんだ、やればできるじゃないか。よし、それじゃあ、お手」
だが、その期待を裏切り、リックは差し出したトオルの手を舐め始めた。
「違うよ、リック。舐めるんじゃなくて、おまえの前脚を載せるんだよ。わかる?」
リックが前脚を上げる。
一瞬トオルは、「オッ」と思った。
けれど、リックはまたも期待を裏切り、お手ではなく、
「おくれ、おくれ」
をした。
「だから、そうじゃなくて」
トオルはため息交じりにソファから降りて、リックの前脚を取ろうとした。
するとその前脚がひょいと挙がり、今度こそ、と思ったトオルの頭の上に載った。
「はい、いい子いい子。って、コラ」
やはり無駄なようだった。
おすわりをしたのも、たまたまだったのだろう。
「まあ、いいさ。おすわりやお手ができなくたって、おまえはいい犬だよ」
リックは不思議そうに小首をかしげて、トオルを見ていた。
しばらくリックとじゃれ合っていると、インターフォンのチャイムが鳴った。
朝子がキッチンから出てきてインターフォンの画面を覗くと、洋菓子店の人がケーキの箱を手に立っていて、彼女はオート・ロックを開錠した。
買い物に行ったときに、洋菓子店でケーキの配達を頼んでおいたのだ。
店員が帰ると、入れ替わるようにまたチャイムが鳴った。
今度は朝子の友人たちだった。
すぐに玄関のチャイムが鳴って、朝子は友人たちを出迎えた。
トオルはゲストの邪魔にならないようにと、まだ眠っているサラをそっと抱き上げて、
ソファの端に移動した。
朝子のうしろから女性がふたりと、洒落たメガネを掛けた男ひとりがリビングに入ってきた。
皆それぞれが持ち寄ったプレゼントやワイン、シャンパンをダイニングのテーブルに置くと、ソファへとやってきた。
リビングに入っていくと、すでにクリスマスの飾りつけがなされていて、朝子はクリスマス・ツリーに電飾を施していた。
「お帰りー。リックの脚を洗ってくれるー!」
トオルは返事を返して、リックをバス・ルームに連れていった。
バス・ルームを出てくると、朝子はキッチンで料理に奮闘していた。
トオルは何か手伝おうか思ったが、かえって邪魔になるだろうからと、リビングのソファでおとなしくしていることにした。
ソファでは、サラがいつもの定位置で身体を丸めて眼を閉じている。
声をかけたが、返事がないところをみると眠っているようだった。
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トオルが呼びかけるとピクッっと反応し、おもむろに身体を起こして近寄ってきた。
トオルは、サラがリックのことを、「お手」も「おすわりも」できないボンクラだと言っていたのを思い出して、試してみることにした。
「リック、おすわり」
だが、リックはそれに応えない。
「お手」
トオルは手を差し出すが、それにもやはり反応しなかった。
「リック。サラにボンクラって言われて悔しくないのか?」
すると、その言葉を理解したかように、リックはすっとおすわりをした。
「なんだ、やればできるじゃないか。よし、それじゃあ、お手」
だが、その期待を裏切り、リックは差し出したトオルの手を舐め始めた。
「違うよ、リック。舐めるんじゃなくて、おまえの前脚を載せるんだよ。わかる?」
リックが前脚を上げる。
一瞬トオルは、「オッ」と思った。
けれど、リックはまたも期待を裏切り、お手ではなく、
「おくれ、おくれ」
をした。
「だから、そうじゃなくて」
トオルはため息交じりにソファから降りて、リックの前脚を取ろうとした。
するとその前脚がひょいと挙がり、今度こそ、と思ったトオルの頭の上に載った。
「はい、いい子いい子。って、コラ」
やはり無駄なようだった。
おすわりをしたのも、たまたまだったのだろう。
「まあ、いいさ。おすわりやお手ができなくたって、おまえはいい犬だよ」
リックは不思議そうに小首をかしげて、トオルを見ていた。
しばらくリックとじゃれ合っていると、インターフォンのチャイムが鳴った。
朝子がキッチンから出てきてインターフォンの画面を覗くと、洋菓子店の人がケーキの箱を手に立っていて、彼女はオート・ロックを開錠した。
買い物に行ったときに、洋菓子店でケーキの配達を頼んでおいたのだ。
店員が帰ると、入れ替わるようにまたチャイムが鳴った。
今度は朝子の友人たちだった。
すぐに玄関のチャイムが鳴って、朝子は友人たちを出迎えた。
トオルはゲストの邪魔にならないようにと、まだ眠っているサラをそっと抱き上げて、
ソファの端に移動した。
朝子のうしろから女性がふたりと、洒落たメガネを掛けた男ひとりがリビングに入ってきた。
皆それぞれが持ち寄ったプレゼントやワイン、シャンパンをダイニングのテーブルに置くと、ソファへとやってきた。
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