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チャプター【16】
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男たちが、どうしてそんなことを言うのか、さとみには理解できなかった。
「おまえ、本気で恋愛する気があるの? 俺には、ママゴト遊びをしているようにしか思えないんだよ」
そんなことを言った男もいた。
本気じゃないなんて失礼な話だった。
それに加えて、ママゴト遊びと言われたことには多大なショックを受けた。
さとみは本気で相手を好きになった。
本気で好きになれば、嫌われたくないからこそ気を遣った。
それは愛するがゆえであり、だからこそ相手が望む以上のことをした。
そうすることが尽くすということであり、愛の証だとそう信じていた。
しかし、いまにして思えば、過剰すぎたのかもしれない。
それだけに、もう気を遣うのはよそう、そう思い、最後の男とは半年の交際がつづいたが、それでもやはり結果は同じだった。
好きになればなるほど、自分でも知らぬ間に気を遣ってしまっていた。
男からすればウザい女なってしまっていたのだろう。
別れたのは2年前。
それからというもの、恋愛はおろか、それまでよりもまして異性との交流をしなくなった。
さとみは商店街を、マンションに向かって歩いていく。
その途中の電気店の前まで来ると、ふいに足が止まった。
ウインドウにはそれぞれ型のちがう液晶TVがディスプレイされている。
すべての画面には、女性アイドルグループが映し出されている。
その画面をさとみは見つめた。
彼女たちは元気に唄い踊っている。
その顔は皆、笑顔だ。
さとみは、唄い踊る彼女たちから眼が離せなかった。
それがなぜなのか、自分でもわからない。
画面に映るアイドルグループに、これといった思い入れがあるわけではない。
それどころか、ふだんTV番組をほとんど観ないさとみには、彼女たちのグループ名さえ知らなかった。
なのになぜか、胸が躍る。
それは、憧憬のようなものなのか。
いや、そういったものではない。
そういうものとは別のもの。
どこか懐かしいような、そんな感覚。
といって、さとみがアイドルだったということはない。
そのたぐいのオーデションを受けたことも、ましてやタレント事務所に所属していたこともなければ街角でスカウトされたという経験もない。
ならば、この懐古的ともいえる感覚はなんなのか。
そのうえ、その感覚の奥には、絶望と虚しさをふくんだ感情が隠れている。
それがいったいどんな意味を持っているのか、さとみには見当もつかない。
それなのに、どういうわけかさとみの胸の裡には、何かを失ってしまったような喪失感があった。
TVの画面は、アイドルグループの唄が終わり、彼女たちが笑顔で手をふる姿が映っている。
そして画面はすぐに、CMへと切り替わった。
それとともに、胸の裡に芽生えた喪失感も嘘のように消え失せてしまった。
さとみは、ふと我に返ったように瞼をしばたたくとその場を離れた。
「おまえ、本気で恋愛する気があるの? 俺には、ママゴト遊びをしているようにしか思えないんだよ」
そんなことを言った男もいた。
本気じゃないなんて失礼な話だった。
それに加えて、ママゴト遊びと言われたことには多大なショックを受けた。
さとみは本気で相手を好きになった。
本気で好きになれば、嫌われたくないからこそ気を遣った。
それは愛するがゆえであり、だからこそ相手が望む以上のことをした。
そうすることが尽くすということであり、愛の証だとそう信じていた。
しかし、いまにして思えば、過剰すぎたのかもしれない。
それだけに、もう気を遣うのはよそう、そう思い、最後の男とは半年の交際がつづいたが、それでもやはり結果は同じだった。
好きになればなるほど、自分でも知らぬ間に気を遣ってしまっていた。
男からすればウザい女なってしまっていたのだろう。
別れたのは2年前。
それからというもの、恋愛はおろか、それまでよりもまして異性との交流をしなくなった。
さとみは商店街を、マンションに向かって歩いていく。
その途中の電気店の前まで来ると、ふいに足が止まった。
ウインドウにはそれぞれ型のちがう液晶TVがディスプレイされている。
すべての画面には、女性アイドルグループが映し出されている。
その画面をさとみは見つめた。
彼女たちは元気に唄い踊っている。
その顔は皆、笑顔だ。
さとみは、唄い踊る彼女たちから眼が離せなかった。
それがなぜなのか、自分でもわからない。
画面に映るアイドルグループに、これといった思い入れがあるわけではない。
それどころか、ふだんTV番組をほとんど観ないさとみには、彼女たちのグループ名さえ知らなかった。
なのになぜか、胸が躍る。
それは、憧憬のようなものなのか。
いや、そういったものではない。
そういうものとは別のもの。
どこか懐かしいような、そんな感覚。
といって、さとみがアイドルだったということはない。
そのたぐいのオーデションを受けたことも、ましてやタレント事務所に所属していたこともなければ街角でスカウトされたという経験もない。
ならば、この懐古的ともいえる感覚はなんなのか。
そのうえ、その感覚の奥には、絶望と虚しさをふくんだ感情が隠れている。
それがいったいどんな意味を持っているのか、さとみには見当もつかない。
それなのに、どういうわけかさとみの胸の裡には、何かを失ってしまったような喪失感があった。
TVの画面は、アイドルグループの唄が終わり、彼女たちが笑顔で手をふる姿が映っている。
そして画面はすぐに、CMへと切り替わった。
それとともに、胸の裡に芽生えた喪失感も嘘のように消え失せてしまった。
さとみは、ふと我に返ったように瞼をしばたたくとその場を離れた。
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