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【Episode 9】
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(しかし……)
と、吾輩は思う。
たとえ、ただ飯を食わせてもらっているとはいえ、こうも同じものばかりを食わされていたのでは、吾輩とて我慢の限度というものがある。
2日に一度、いやいや、せめて1週間に一度でいいから、もっと気の利いた食事を出してくれてもいいはずだ。
こうなったら抗議するしかない。
口の利けぬ我が身なれば、無言の抗議で想いを訴えるしかあるまい。
そうと決まれば、断固、ドッグ・フードを口にするものか。
吾輩はドッグ・フードから顔をそらし、身体を伏せて顎を地にあずけた。
食いしんぼうの我輩が一口も食べていなければ、さぞや家族も心配し、どうしたことかと思うはずである。
そうなれば、吾輩の無言の抗議が伝わるはずだ。
1食抜いたからとて、死ぬわけでもない。
いや、1食抜いても我が想いが伝わらないのであれば、2、3日何も食べない覚悟をしなければならぬ。
物事を変えようと思うなら、我が身を削ることも必要なのだ。
うむ……。
しかし、そう決意したそばから腹が鳴る。
グゥ……。
(いかん、いかん。耐えねば……)
「グーウ、グ、グゥー」
どうやら腹の虫は、吾輩の決意に賛同しないらしい。
意に反して、ドッグ・フードにチラリと眼がいく。
(むむッ、惑わされてはならぬ……)
吾輩はきつく眼をつぶる。
これでも、我輩は意志が固いのだ。
「グウ、グゥ、グゥー!」
腹の虫が鳴きやまなぬ。
むむむむッ、どうしたものか。
ここは、グッと耐えねばならぬ。
忍ばねばならぬのだ。
ここで負けては、我が種族の名折れである。
しかしまた、ドッグ・フードにチラリと眼がいってしまう。
よだれまでが溢れてくる。
(いかん、いかん、いかん! なにか食い物以外のことを考えねば……)
だが、頭の中には、ケンタッキー・フライドチキンが羽をつけて飛び回っていた。
(ああ、ケンタのチキンが食べたい……)
って、違うだろ!
吾輩は自分にツッコミを入れ、ケンタのチキンを頭の中からふり払うように頭をふった。
すると、溢れるよだれが飛び散った。
そこで吾輩は、自分の想いを家族に伝えるいい方法が他にもないものかと考えてみた。
だがしかし、
ない。
どんなに頭を巡らせてみても、何ひとついいアイデアが思い浮かばないのだ。
そこでふと思いつく。
腹が減っては戦はできぬ――
と言うことわざがあるように、空腹ではいい案も浮かぶわけがないのである。
そうなのだ。
まずは空腹を満たし、精気を養えば、おのずといいアイデアも浮かんでこようというものだ。
となれば善は急げである。
吾輩はすっと立ち上がると、きりっと顔を引き締めた。
昼食の入った容器を見据える。
いざッ!
吾輩は勇んで容器に顔を突っこみ、ドッグ・フードを貪り食った。
はぐ、はぐ、はぐ……。
ここでひとつ言っておくが、吾輩は決して空腹に負けたのではない。
ほぐ、ほぐ、ほぐ……。
背に腹は変えられないのである。
はぐ、ほぐ、はぐ……。
あくまでも、いいアイデアを考えるためなのだ。
はぐはぐ……、しかし、この……、ほぐほぐ……。
いつもとなんら変わり映えのないドッグ・フードであるはずなのだが、むしゃむしゃ……。
今日はやけに、ほむほむ……、ウマい!
銘柄を変えたのかしら。
はぐほぐ……。
いや、そんな気の利いたことをしてくれたためしはない。
とはいえ、お祝いごとに添えられるケンタは別である。
ならば、
むしゃむしゃ……。
このウマさはどういうことなのだ。
ほむほむ……。
と、そこでひとつ思い出す。
空腹は最高の調味料である――
という名言である。
知るところによれば、それは北大路路魯山人なる陶芸家の大先生が言った言葉であるらしい。
だが、もっと遡(さかのぼ)れば、ギリシャの哲学者ソクラテスが言った、「食物の最高の調味料は飢えである」 という言葉が原典だとも言われているが、真相のほどは定かではない。
吾輩がなぜにそんなことを知っているかと言えば、たまに散歩へ連れて行ってくれるパパが、まるで自分が哲学者であるかのように、荒川の流れを見つめながらそんなことを言ったのであった。
しかし、
はぐはぐはぐ……。
言いえて妙とは、まさにこのことである。
ほむほむ……、むしゃり、むしゃり……。
味わい深さといい、ほぐほぐ……。
ウマしー!!!
ということで、吾輩はウルトラマックスでドック・フード平らげた。
いやいや、危なかった。
ほんとうに、お腹と背中がくっつくところであった。
吾輩は、これでひとつ学んだのである。
空腹はよくないのだ。
(ああ、食った、食ったー。余は満足じゃ……)
とは言ったものの、あれほどウマかったドッグ・フードのはずが、腹が満たされればやはり、いつもとなんら変わらぬ食い飽きたドッグ・フードなのであった。
ゲフッ!
あ、失礼。
思わず、ゲップが出てしまった。
気を取り直して、ここで一句。
空腹を 満たせば現実 思い知る――
まあ、こんなものか。
それでは本題にもどって、いいアイデアを考えるとしよう。
(うむうむ……)
吾輩は地に伏せて考える。
空腹が満たされたのだから、いいアイデアが浮かぶはずである。
(うむ……、うむ……)
心地よい昼下がりである。
なにやら意識が薄らいで、うとうととしてしまう。
どうしようもなく、眠い。
どうやら、睡魔が吾輩を誘惑しにやってきたようだ。
こればかりは吾輩とて、いかんとしがたい。
考えるのはひと眠りしてからにすることにする。
では、おやすみ――
ZZZZZ……。
と、吾輩は思う。
たとえ、ただ飯を食わせてもらっているとはいえ、こうも同じものばかりを食わされていたのでは、吾輩とて我慢の限度というものがある。
2日に一度、いやいや、せめて1週間に一度でいいから、もっと気の利いた食事を出してくれてもいいはずだ。
こうなったら抗議するしかない。
口の利けぬ我が身なれば、無言の抗議で想いを訴えるしかあるまい。
そうと決まれば、断固、ドッグ・フードを口にするものか。
吾輩はドッグ・フードから顔をそらし、身体を伏せて顎を地にあずけた。
食いしんぼうの我輩が一口も食べていなければ、さぞや家族も心配し、どうしたことかと思うはずである。
そうなれば、吾輩の無言の抗議が伝わるはずだ。
1食抜いたからとて、死ぬわけでもない。
いや、1食抜いても我が想いが伝わらないのであれば、2、3日何も食べない覚悟をしなければならぬ。
物事を変えようと思うなら、我が身を削ることも必要なのだ。
うむ……。
しかし、そう決意したそばから腹が鳴る。
グゥ……。
(いかん、いかん。耐えねば……)
「グーウ、グ、グゥー」
どうやら腹の虫は、吾輩の決意に賛同しないらしい。
意に反して、ドッグ・フードにチラリと眼がいく。
(むむッ、惑わされてはならぬ……)
吾輩はきつく眼をつぶる。
これでも、我輩は意志が固いのだ。
「グウ、グゥ、グゥー!」
腹の虫が鳴きやまなぬ。
むむむむッ、どうしたものか。
ここは、グッと耐えねばならぬ。
忍ばねばならぬのだ。
ここで負けては、我が種族の名折れである。
しかしまた、ドッグ・フードにチラリと眼がいってしまう。
よだれまでが溢れてくる。
(いかん、いかん、いかん! なにか食い物以外のことを考えねば……)
だが、頭の中には、ケンタッキー・フライドチキンが羽をつけて飛び回っていた。
(ああ、ケンタのチキンが食べたい……)
って、違うだろ!
吾輩は自分にツッコミを入れ、ケンタのチキンを頭の中からふり払うように頭をふった。
すると、溢れるよだれが飛び散った。
そこで吾輩は、自分の想いを家族に伝えるいい方法が他にもないものかと考えてみた。
だがしかし、
ない。
どんなに頭を巡らせてみても、何ひとついいアイデアが思い浮かばないのだ。
そこでふと思いつく。
腹が減っては戦はできぬ――
と言うことわざがあるように、空腹ではいい案も浮かぶわけがないのである。
そうなのだ。
まずは空腹を満たし、精気を養えば、おのずといいアイデアも浮かんでこようというものだ。
となれば善は急げである。
吾輩はすっと立ち上がると、きりっと顔を引き締めた。
昼食の入った容器を見据える。
いざッ!
吾輩は勇んで容器に顔を突っこみ、ドッグ・フードを貪り食った。
はぐ、はぐ、はぐ……。
ここでひとつ言っておくが、吾輩は決して空腹に負けたのではない。
ほぐ、ほぐ、ほぐ……。
背に腹は変えられないのである。
はぐ、ほぐ、はぐ……。
あくまでも、いいアイデアを考えるためなのだ。
はぐはぐ……、しかし、この……、ほぐほぐ……。
いつもとなんら変わり映えのないドッグ・フードであるはずなのだが、むしゃむしゃ……。
今日はやけに、ほむほむ……、ウマい!
銘柄を変えたのかしら。
はぐほぐ……。
いや、そんな気の利いたことをしてくれたためしはない。
とはいえ、お祝いごとに添えられるケンタは別である。
ならば、
むしゃむしゃ……。
このウマさはどういうことなのだ。
ほむほむ……。
と、そこでひとつ思い出す。
空腹は最高の調味料である――
という名言である。
知るところによれば、それは北大路路魯山人なる陶芸家の大先生が言った言葉であるらしい。
だが、もっと遡(さかのぼ)れば、ギリシャの哲学者ソクラテスが言った、「食物の最高の調味料は飢えである」 という言葉が原典だとも言われているが、真相のほどは定かではない。
吾輩がなぜにそんなことを知っているかと言えば、たまに散歩へ連れて行ってくれるパパが、まるで自分が哲学者であるかのように、荒川の流れを見つめながらそんなことを言ったのであった。
しかし、
はぐはぐはぐ……。
言いえて妙とは、まさにこのことである。
ほむほむ……、むしゃり、むしゃり……。
味わい深さといい、ほぐほぐ……。
ウマしー!!!
ということで、吾輩はウルトラマックスでドック・フード平らげた。
いやいや、危なかった。
ほんとうに、お腹と背中がくっつくところであった。
吾輩は、これでひとつ学んだのである。
空腹はよくないのだ。
(ああ、食った、食ったー。余は満足じゃ……)
とは言ったものの、あれほどウマかったドッグ・フードのはずが、腹が満たされればやはり、いつもとなんら変わらぬ食い飽きたドッグ・フードなのであった。
ゲフッ!
あ、失礼。
思わず、ゲップが出てしまった。
気を取り直して、ここで一句。
空腹を 満たせば現実 思い知る――
まあ、こんなものか。
それでは本題にもどって、いいアイデアを考えるとしよう。
(うむうむ……)
吾輩は地に伏せて考える。
空腹が満たされたのだから、いいアイデアが浮かぶはずである。
(うむ……、うむ……)
心地よい昼下がりである。
なにやら意識が薄らいで、うとうととしてしまう。
どうしようもなく、眠い。
どうやら、睡魔が吾輩を誘惑しにやってきたようだ。
こればかりは吾輩とて、いかんとしがたい。
考えるのはひと眠りしてからにすることにする。
では、おやすみ――
ZZZZZ……。
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