1 / 3
Thoughts inside the … ①
しおりを挟む
4/10
水洋高等学校 二年C組教室
「じゃあ、今日は終わり!かいさーん!」
担任教師の合図とともに、教室は一斉に騒がしくなる。
部活動に向かう生徒、帰路につく生徒、教室に残ってペチャクチャ話す生徒。放課後の生徒の動きは様々だが、二十分も経つと教室には俺一人になっていた。
皆が出ていく間、ずっと本を読んでいた俺は立ち上がり、教室に誰も居ないのを確認してから大きく伸びをした。解放感を感じながら腰をひねり、首を回す。誰も居ない教室ってイイよね。
無人空間の心地よさを味わいながらも、俺は焦りを感じていた。学年が一つ上がり、新しいクラスになってもう四日、クラスに全然馴染めてない。
去年のクラスには、同じ部活で仲の良い(俺はそう思っている)友人がいたため、何とかぼっちを回避していた。だが、今年のクラスにはその友人がいない。さらに悪いことには、去年同じクラスだった生徒が全然おらず、その希望だったわずかな生徒たちも既にグループを構成している。
俺は深くため息を吐き、今後の高校生活を孤独で終えないための方法を考えようと思考を巡らせる。しばらく考え、とりあえず隣の席の人に声をかけてみようという極めて浅い結論に至った。
その時、廊下から足音が聞こえ、女子生徒が教室に入ってきた。俺は、そいつが入ってくる前に素早く自分の椅子に座り、本を読む体勢に入った……はず。見られてたらマズイ。
自分の行動について反省していると、声をかけられた。
「推耳君、少しいい?」
顔を上げると、萩野が少し困った顔で立っていた。
「今日の級長決めのことで、相談したいの」
萩野は俺と同じC組の生徒である。今朝、クラスの級長に立候補した萩野は、先ほど行われたクラス投票で級長に選ばれた。頭脳明晰、容姿端麗、加えて周りからの人気があるため…こんな完璧な人間が存在するのか、それに比べて俺は…なんか腹立ってきた。
「相談しに、わざわざ戻ってきたのか?」
ふつふつと沸き上がったものを抑え、冷静を装って読んでいた本を机の隅に置き、カバンからノートを取り出した。
このノートには、今までに受けた相談について書き留めている。そう、俺は普段から探偵紛いのようなことをしている。高校一年生の時には、それなりの数の相談を解決してきた。萩野にも過去に何回か相談を受けたことがある。どれも些細な、どうでもいいような相談だったが、考えてみると意外と楽しい。特に、謎を解いて真実が露わになる瞬間が最高に気持ち良い。
こんな活動をしているものだから、てっきり自分が有名人になっていると思っていたが、周りの俺への無関心さを見る限り、どうやら違うみたいだ。そもそも、萩野は去年同じクラスだったのだから、もっと俺に話しかけてくれても良いはずだろ。実際に、二年生になってから萩野と話すのは、これが初めてだった。
「他の人に聞かれたくないからね、会長には許可をもらってきた」
そういえばコイツ、生徒会にも入っているんだった。
ノートに今日の日付を書いて、いったん話を聞くことにした。萩野は俺の前の席に横向きで座り、体をこちらに向けて、俺が書き終わるのを待ってから話し始めた。
「推耳君なら気づいたかもしれないけど、今日の級長決めでちょっと理解できないことが起きたの」
??????
思い当たることが何もなかったので、黙って聞くことにした。
「同じ立候補者の松川君だけど、彼、不正したよね?投票で私と僅差になるなんて絶対におかしい」
「不正?」
松川は去年も同じクラスだったので知っている。というか今年のクラスの中で、去年と同じクラスだったのは松川と萩野だけだ。
それよりも不正って…コイツの言ってる意味が分からない。
松川が票操作をしたってことか?もしそうだとしたら、何で萩野は投票で勝ったんだ?
「まさか、気づかなかったの?」
萩野は驚いたような、呆れたような顔でため息をついた。逆に、何で俺が不正に気づくと思ったんだ?
萩野の態度に少しムカついたが、今の俺は探偵だ。ここは寛大な心で迎えてやろう。
「俺が気づくわけないだろ、バk…何か不正をした証拠でもあるのか?」
思ったよりも刺すような言葉になってしまった。どうやら俺は怒っていたようだ。
萩野は一瞬目を細めたが、俺の失言は聞かなかったことにしてくれた。
「確かに証拠はないから断定できないけど…」
まあ、そうだろうな。もし証拠があったら彼女の性格上、本人に直接問い詰めているだろう。
「でも根拠ならある。松川君は絶対に不正している。断言できる」
断定はできないが断言はできるらしい。俺にはこの二つの違いが分からなかった。
ただ、普段からいい子ちゃん(俺はコイツに裏があると思う)の萩野がここまで言うのは初めてだった。俺は興味が湧いて、もう少し詳しく聞くことにしよう…としたが、逆に向こうから聞いてきた。
「そもそもだけど、推耳君は松川君がどんな人か知ってる?」
「もちろんとも。男子で、身長は中くらいで、髪は短めで、眼鏡をしていて、後は、えーと…」
「性格は?」
「…頭良さそうな人」
「それは印象でしょ?全く、さすがに他人に興味なさすぎ」
性格と印象の何が違うというんだ、細かい奴め。
「松川君はね、プライドが高くて、周りの人間を見下している人なの。実際に頭が良かったから、宿題とかを教えてもらいに彼を頼る人もいたんだけど、『こんなことも分からないのか』とか『もっと勉強した方がいいよ』とか、ことあるごとに嫌味を言われたらしくてね」
ドキっとした。自分にも心当たりがあったため、今度から直そうと思った。
「それを聞いて、私は改善してもらおうと彼と話し合いをしたんだけど、分かってもらえなかった。去年の二学期が始まる頃には、みんな怖がって彼と話そうとする人はいなくなってしまったの」
そんなかわいそうな奴がいたのか、と思ったが今の自分が松川と同じ状況であることに気付き、俺は本格的に焦り始めた。
「なるほど、大体わかった。性格が終わっていて人望皆無の松川が、投票で君と僅差になるわけがない、ということだな?」
「そうそう。そこまで言ってないけど」
「僅差ってどのくらい?」
「20対9だったから、11票差」
…それは僅差と言えるのか?まあでも、六人が票を入れ替えれば逆転するから僅差と言えなくもないか…
今までの話をノートにまとめる。俺は萩野の言い分は正当なものだと思っていた。立候補者の二人とも成績優秀だが、片方は皆から好かれていて、もう片方は皆から怖がられている。どちらに票を入れるかは明白だ。それにもかかわらず、松川が獲得した票数はクラス全体の約三分の一だ。これは不正説が濃厚だな…
すると、廊下からバタバタと足音が聞こえた。
水洋高等学校 二年C組教室
「じゃあ、今日は終わり!かいさーん!」
担任教師の合図とともに、教室は一斉に騒がしくなる。
部活動に向かう生徒、帰路につく生徒、教室に残ってペチャクチャ話す生徒。放課後の生徒の動きは様々だが、二十分も経つと教室には俺一人になっていた。
皆が出ていく間、ずっと本を読んでいた俺は立ち上がり、教室に誰も居ないのを確認してから大きく伸びをした。解放感を感じながら腰をひねり、首を回す。誰も居ない教室ってイイよね。
無人空間の心地よさを味わいながらも、俺は焦りを感じていた。学年が一つ上がり、新しいクラスになってもう四日、クラスに全然馴染めてない。
去年のクラスには、同じ部活で仲の良い(俺はそう思っている)友人がいたため、何とかぼっちを回避していた。だが、今年のクラスにはその友人がいない。さらに悪いことには、去年同じクラスだった生徒が全然おらず、その希望だったわずかな生徒たちも既にグループを構成している。
俺は深くため息を吐き、今後の高校生活を孤独で終えないための方法を考えようと思考を巡らせる。しばらく考え、とりあえず隣の席の人に声をかけてみようという極めて浅い結論に至った。
その時、廊下から足音が聞こえ、女子生徒が教室に入ってきた。俺は、そいつが入ってくる前に素早く自分の椅子に座り、本を読む体勢に入った……はず。見られてたらマズイ。
自分の行動について反省していると、声をかけられた。
「推耳君、少しいい?」
顔を上げると、萩野が少し困った顔で立っていた。
「今日の級長決めのことで、相談したいの」
萩野は俺と同じC組の生徒である。今朝、クラスの級長に立候補した萩野は、先ほど行われたクラス投票で級長に選ばれた。頭脳明晰、容姿端麗、加えて周りからの人気があるため…こんな完璧な人間が存在するのか、それに比べて俺は…なんか腹立ってきた。
「相談しに、わざわざ戻ってきたのか?」
ふつふつと沸き上がったものを抑え、冷静を装って読んでいた本を机の隅に置き、カバンからノートを取り出した。
このノートには、今までに受けた相談について書き留めている。そう、俺は普段から探偵紛いのようなことをしている。高校一年生の時には、それなりの数の相談を解決してきた。萩野にも過去に何回か相談を受けたことがある。どれも些細な、どうでもいいような相談だったが、考えてみると意外と楽しい。特に、謎を解いて真実が露わになる瞬間が最高に気持ち良い。
こんな活動をしているものだから、てっきり自分が有名人になっていると思っていたが、周りの俺への無関心さを見る限り、どうやら違うみたいだ。そもそも、萩野は去年同じクラスだったのだから、もっと俺に話しかけてくれても良いはずだろ。実際に、二年生になってから萩野と話すのは、これが初めてだった。
「他の人に聞かれたくないからね、会長には許可をもらってきた」
そういえばコイツ、生徒会にも入っているんだった。
ノートに今日の日付を書いて、いったん話を聞くことにした。萩野は俺の前の席に横向きで座り、体をこちらに向けて、俺が書き終わるのを待ってから話し始めた。
「推耳君なら気づいたかもしれないけど、今日の級長決めでちょっと理解できないことが起きたの」
??????
思い当たることが何もなかったので、黙って聞くことにした。
「同じ立候補者の松川君だけど、彼、不正したよね?投票で私と僅差になるなんて絶対におかしい」
「不正?」
松川は去年も同じクラスだったので知っている。というか今年のクラスの中で、去年と同じクラスだったのは松川と萩野だけだ。
それよりも不正って…コイツの言ってる意味が分からない。
松川が票操作をしたってことか?もしそうだとしたら、何で萩野は投票で勝ったんだ?
「まさか、気づかなかったの?」
萩野は驚いたような、呆れたような顔でため息をついた。逆に、何で俺が不正に気づくと思ったんだ?
萩野の態度に少しムカついたが、今の俺は探偵だ。ここは寛大な心で迎えてやろう。
「俺が気づくわけないだろ、バk…何か不正をした証拠でもあるのか?」
思ったよりも刺すような言葉になってしまった。どうやら俺は怒っていたようだ。
萩野は一瞬目を細めたが、俺の失言は聞かなかったことにしてくれた。
「確かに証拠はないから断定できないけど…」
まあ、そうだろうな。もし証拠があったら彼女の性格上、本人に直接問い詰めているだろう。
「でも根拠ならある。松川君は絶対に不正している。断言できる」
断定はできないが断言はできるらしい。俺にはこの二つの違いが分からなかった。
ただ、普段からいい子ちゃん(俺はコイツに裏があると思う)の萩野がここまで言うのは初めてだった。俺は興味が湧いて、もう少し詳しく聞くことにしよう…としたが、逆に向こうから聞いてきた。
「そもそもだけど、推耳君は松川君がどんな人か知ってる?」
「もちろんとも。男子で、身長は中くらいで、髪は短めで、眼鏡をしていて、後は、えーと…」
「性格は?」
「…頭良さそうな人」
「それは印象でしょ?全く、さすがに他人に興味なさすぎ」
性格と印象の何が違うというんだ、細かい奴め。
「松川君はね、プライドが高くて、周りの人間を見下している人なの。実際に頭が良かったから、宿題とかを教えてもらいに彼を頼る人もいたんだけど、『こんなことも分からないのか』とか『もっと勉強した方がいいよ』とか、ことあるごとに嫌味を言われたらしくてね」
ドキっとした。自分にも心当たりがあったため、今度から直そうと思った。
「それを聞いて、私は改善してもらおうと彼と話し合いをしたんだけど、分かってもらえなかった。去年の二学期が始まる頃には、みんな怖がって彼と話そうとする人はいなくなってしまったの」
そんなかわいそうな奴がいたのか、と思ったが今の自分が松川と同じ状況であることに気付き、俺は本格的に焦り始めた。
「なるほど、大体わかった。性格が終わっていて人望皆無の松川が、投票で君と僅差になるわけがない、ということだな?」
「そうそう。そこまで言ってないけど」
「僅差ってどのくらい?」
「20対9だったから、11票差」
…それは僅差と言えるのか?まあでも、六人が票を入れ替えれば逆転するから僅差と言えなくもないか…
今までの話をノートにまとめる。俺は萩野の言い分は正当なものだと思っていた。立候補者の二人とも成績優秀だが、片方は皆から好かれていて、もう片方は皆から怖がられている。どちらに票を入れるかは明白だ。それにもかかわらず、松川が獲得した票数はクラス全体の約三分の一だ。これは不正説が濃厚だな…
すると、廊下からバタバタと足音が聞こえた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
悪夢迷宮
犬神結唯
ミステリー
これはある少女が見る悪夢で迷探偵になる物語。
迷探偵の少女は不定期にある悪夢を見る。この悪夢の迷宮に潜むなぞを暴こうととしてもキリが晴れるようにすっと消える証拠をおう話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる