ブルースKのお言葉

めでんノベルチーム

文字の大きさ
上 下
6 / 27
平成30年 おことば

2018,12,31

しおりを挟む
 さて、人を癒やし続けたイエスは弟子であるユダに裏切られ、捕らえられて十字架刑に処される。ユダが裏切られることも死刑になることもわかった上で、捕らえられて拷問を受け十字架を背負わされ長距離を歩かされ、死ぬ。
 なんでもできる神の子イエス・キリストが、なんの抵抗もせず呆気なく死んでしまう。罪名がローマ帝国に対する反逆罪だから興味深い。ユダヤ教徒に間違った教えを伝導したことで死刑となってしまう。
 イエスは、一番重要なのは愛だと言った。隣人を愛せ、敵を愛せ。頬を殴られたら逆の頬を差し出せ。そのイエスが弟子に逃げられ罵られ死んだ。
 そして蘇って天に昇った。

 渡辺は「はぁ?」と思った。神の子イエス・キリストがなんで呆気なく人に殺されてるのか、理解できなかった。捕らえられた理由も死刑になった理由も、事前に知っていたのに回避しようとしなかったことも、なにもかもわからない。
 頭がクエスチョンマークでいっぱいな中聖書をめくると、またイエス・キリストの誕生から話が始まった。
 入門によると、これが4大福音書というものらしい。4人の弟子が各自イエス・キリストを描いたものが収録されている。内容は重複することも多いが、それぞれでしか描かれていないこともある。

 4大福音書の後に、弟子がその後どうしたかが描かれている。これがまた面白い。イエスの元から逃げたペテロという使徒が、捕らえられたり迫害されたりしながらイエスの教えを広めてゆく。
 信者を徹底的に迫害していたパウロという者が天からのイエス・キリストの声を聞いて回心し、全国の教会に手紙を大量に送りつける。最後は、いつか来るとされるこの世の終わりを描いたヨハネの黙示録で終わる。
 バランスとしては福音書が3割、使徒の働きが1割、手紙が4割、黙示録が1割といったところだ。

 福音書で描かれたイエス・キリストは、天皇陛下のようだと渡辺は思った。弱者の手を取り励まし、人から忌み嫌われた職業の者を弟子にし、人から忌み嫌われた病いの者を癒やし、弱者を助けるよう教え、敵を愛せと言った。
 奇跡の有無についてはまだ渡辺はどうとも思えないが、人々の目の前に来て話を聞き励ます姿に、渡辺は単純に感動した。
 そんな方があまりに無惨な死に方をした理由がわからない。
 それと前述の、神がいるとするならなぜ沈黙を続けるのか。

 インターネットで調べても、本を読んでもよくわからない。ヤフー知恵袋で聖書に書かれた疑問を訊ねたところ、「教会に行って牧師なり神父なりに直接訊いたほうがいい」との返答を得た。
 創価学会と仏教の間に挟まれていた渡辺は、当然教会になど行ったことがないし行こうと思ったこともない。海外の映画やドラマなどで見たことがある程度で、木のベンチが並んで奥に罪を告白する場所があるという印象。ドラゴンクエストではセーブと死んだキャラクターを復活させる場所だ。

 いきなり教会に行くのはハードルが高すぎる。20歳前後の頃、創価学会の座談会に行ったのを思い出す。座談会は小中学生の頃に何度も行ったとは前述したが、それ以降は一切断っていた。何度も断っていたが、母に「私の顔を立てるってことで一回だけでも行って欲しい」と懇願され仕方なく参加した。
 周りを固められて無理やり入会書に名前を書かされ、聖教新聞を開いて池田大作の言葉や創価学会に出会って人生が変わったという記事を絶賛する。座談会に参加している何人もの成人男性が、それぞれ人生が変わる1分間の深イイ学会話を語る。
 池田先生が池田先生がと言われても、渡辺からすればただの爺さんでしかない。そんな人を目をバキバキにして褒め称える様子はホラーでしかなかった。

 これがキリスト教会でも繰り返されるのではないか。行ったところが統一教会やエホバの証人のようなまともではない教会だったら。大金を請求されたりなにかを買わされたりしたら。不安は尽きない。
 試しに渡辺が住む区やその周辺で検索すると、いくつもの教会が目につく。Youtube等で生配信や後日配信をしているところも多くあり、片っぱしから観ていく。

 その頃、渡辺の私生活にトラブルが起きていた。木造5畳ワンルームに住んでいた渡辺は、隣人と騒音のトラブルで揉めて(転居の男、渡辺透https://www.alphapolis.co.jp/novel/956347457/875766632/episode/7232726参照)いた。。
 2番目に収録されているマルコの福音書に祈りの言葉が書いてある。その後にあなたがたが祈り求めるものは何でも、すでに得たと信じなさい。そうすれば、そのとおりになります。と書かれている。
 ものは試しにと、その日から渡辺は寝る前に祈るようになった。騒音トラブルから開放されるようにと祈った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...