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初めてのキス
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もう男はすっかり顔色が良くなっていて、放っておいても大丈夫だろう。
「後は自分で飲めるだろ」
本当は全部飲ませたかったが、さすがに他の人が来そうだ。
ペットボトルを渡して、そう言うと男は頷いた。
もう一度会ったらそれは運命、だから電話番号は交換しないでおこう。
マスクを直しトイレを出てマネージャーの電話に出た。
事務所に来いという連絡があり、俺がいる場所までマネージャーが車で迎えに来た。
誰かに芸能人だと気付かれる前に、急いで車に乗り込む。
気弱そうだが怒るとめちゃくちゃ怖いマネージャーが笑顔だ………何したっけ俺。
事務所の会議室に行くと父の秘書の男が紙袋を持って待っていた。
父は仕事で出かけているのか、そこにはいなかった。
仕事の話か?今日はせっかくの久々の休暇だったのに。
「今日は休みじゃなかったっけ?」
「さっき社長から電話がありまして、緋色様が一般の学校に通うから変装グッズを買ってこいと言われまして」
「……それがこれ?」
「はい」
ピクリとも変わらない無表情の秘書から紙袋を受け取り、中身を漁る。
いつもの変装は帽子にサングラスだけだから、学校では使えない。
それに、ちょっとした事でバレない変装が理想的だ。
中には髪が多いもっさいかつらが一つだけ入っていた。
確かに変装とは言ったが、こんなオタクみたいな変装しなきゃならないのか?
秘書によると髪も青い瞳も隠せるから一石二鳥だと無表情のまま熱弁している。
この金髪は緋色としての商売道具だ、染めて傷んだらダメなのは分かってる。
俺の意思はない、使えるものはアイドルとして全力で使う。
でも、カツラなら他になかったのか?髪を隠すだけなら普通の黒髪で良さそうなものだ。
髪に触れると、肌触りが良くて高級品のカツラなのだろうと分かった。
それでも夏とかベタついて蒸れそうだな…とはため息を吐く。
父にはわがままを聞いてもらってるんだ、これ以上わがままを言うわけにはいかない。
かつらを被りマネージャーに鏡を貸してもらい整えてみた。
「どう?俺に見えない?」
「そうですねー、ちょっといじめられる体質の子に見えます」
マジかよ…学校に行ったら堂々とした態度で行こう、それで群れるのが嫌いだから一人でいた方がいい。
一人を好んでいればわざわざ俺に話しかける物好きはいないだろう。
そして寮に一人部屋の空きがないらしく、誰かと同室にならなくてはならないと聞いて絶望した。
俺は一人になれると思ったからあの学校に決めたのに…
特別扱いをしてほしくないから、個室は諦めよう。
でも、家族以外の誰かと共同生活なんてした事がないのに隠し通せるのか。
すぐに正体バレるじゃねーか、どうするんだ…誰と同室になるか俺が決めていいらしく保留にしといた。
三人ほど、一人部屋を使っている生徒がいるらしい。
その中の誰かの部屋に、俺が入るという事になる。
…なるべく他人に無関心な奴を同室にしよう、それがいい。
それ以外は、正直誰でもいい…誰が同室でもなにか変わる事もない。
家より寮の方がマシだから寮を諦めない…あの学校くらいしか良いところはなかった。
流石にプライベートスペースくらいあるだろ、そこでのんびり一人でいるしかない。
24時間休まずずっとカツラをしているのはしんどい。
でも、うっかり見られる場合も考えたら外すのは危険だ。
カツラを外せる場所はなくなったが、それを選んだのは俺だ…仕方ない。
そして気になる事がもう一つあった、これも重要だ。
前の学校では両親が校長に「大切な息子だから特別に扱うように」と言ったらしく、教師達が媚を売り気持ち悪かった。
もしかしたらまたそんな事はないだろうなとマネージャーを見た。
マネージャーはSTAR RAINだけではなく、俺の事を頼まれたりする。
社長である父には逆らえないから、学校関連は代わりにマネージャーがやったりする。
仕事以外のプライベートな嫌な事をやらせるなよ。
もう小さな子供じゃないし、俺は学校では優等生を演じている。
俺の周りでの評価は緋色の評価に繋がるのを分かっている。
そして、自分が自分でなくなるのも分かるから素になりたい。
俺は緋色ではなく、河原飛鳥という人間なんだ。
「また前の学校みたいに両親がなにか言ったりしないよな」
「えっ!?…ま、まさか!ははははっ」
なんか胡散臭いが、まぁもしそうなったら校長に直接やめてくれと言うつもりだからどちらでも良い。
秘書にも言うと「言っておきます」と曖昧な返事をされた。
絶対にさせないと言わないところが父の秘書らしいと思った。
そこまで言わないと、俺は普通の高校生活は出来ない。
そして俺は男子校に転校して運命の出会いをした。
三条優紀、それがあの時トイレで出会った少年の名前だった。
同じクラスだったのでさえ驚きなのに、まさか正体までバレるとは思わなかった。
相変わらずエロい唇しやがってと思ったら、正体を見られたとかそんな事どうでも良くなっていた。
俺は変装も何もしていない状態で緋色としてキスをしていた。
姿は緋色だけど、心は何も飾らない河原飛鳥として…
弱っていない普通の状態でキスをしたのに、何故か受け入れられた。
自分で言うのも可笑しいが、大丈夫か?襲われそうで心配だ。
襲った俺が言うのも変な話だけど…
バレたから転校も考えなきゃいけないな、面倒だ。
でも弱味だとは思われたくなくて強気でバレた事は大した事じゃないと言うとまさかの言葉が返ってきた。
日本でSTAR RAINを知らない奴がいるとは思わなかった、俺の金髪…かなり目立つと思うけど…
知らない奴が居たとしても、赤子くらいだろ…誰もが一度くらい見た事があるだろと自分でも思うほどの有名人だと思っていた。
自惚れではなく、それは事実だ。
コイツの友達は知っていたのに、三条自身は全くアイドルに興味がなさそうだ。
俺が緋色だって擦り寄る周りの人間とは違う。
こういう奴を求めていたんだ、トイレで会ったあの時から…
ますます興味が惹かれた、コイツなら同室者でも素が出せる。
でも変だな、なんでこんなに胸が痛くなるんだ?
こんな気持ち、俺は知らない…何も知らない筈だ。
その胸の苦しみが恋だと気付くのはもう少し後の話。
「後は自分で飲めるだろ」
本当は全部飲ませたかったが、さすがに他の人が来そうだ。
ペットボトルを渡して、そう言うと男は頷いた。
もう一度会ったらそれは運命、だから電話番号は交換しないでおこう。
マスクを直しトイレを出てマネージャーの電話に出た。
事務所に来いという連絡があり、俺がいる場所までマネージャーが車で迎えに来た。
誰かに芸能人だと気付かれる前に、急いで車に乗り込む。
気弱そうだが怒るとめちゃくちゃ怖いマネージャーが笑顔だ………何したっけ俺。
事務所の会議室に行くと父の秘書の男が紙袋を持って待っていた。
父は仕事で出かけているのか、そこにはいなかった。
仕事の話か?今日はせっかくの久々の休暇だったのに。
「今日は休みじゃなかったっけ?」
「さっき社長から電話がありまして、緋色様が一般の学校に通うから変装グッズを買ってこいと言われまして」
「……それがこれ?」
「はい」
ピクリとも変わらない無表情の秘書から紙袋を受け取り、中身を漁る。
いつもの変装は帽子にサングラスだけだから、学校では使えない。
それに、ちょっとした事でバレない変装が理想的だ。
中には髪が多いもっさいかつらが一つだけ入っていた。
確かに変装とは言ったが、こんなオタクみたいな変装しなきゃならないのか?
秘書によると髪も青い瞳も隠せるから一石二鳥だと無表情のまま熱弁している。
この金髪は緋色としての商売道具だ、染めて傷んだらダメなのは分かってる。
俺の意思はない、使えるものはアイドルとして全力で使う。
でも、カツラなら他になかったのか?髪を隠すだけなら普通の黒髪で良さそうなものだ。
髪に触れると、肌触りが良くて高級品のカツラなのだろうと分かった。
それでも夏とかベタついて蒸れそうだな…とはため息を吐く。
父にはわがままを聞いてもらってるんだ、これ以上わがままを言うわけにはいかない。
かつらを被りマネージャーに鏡を貸してもらい整えてみた。
「どう?俺に見えない?」
「そうですねー、ちょっといじめられる体質の子に見えます」
マジかよ…学校に行ったら堂々とした態度で行こう、それで群れるのが嫌いだから一人でいた方がいい。
一人を好んでいればわざわざ俺に話しかける物好きはいないだろう。
そして寮に一人部屋の空きがないらしく、誰かと同室にならなくてはならないと聞いて絶望した。
俺は一人になれると思ったからあの学校に決めたのに…
特別扱いをしてほしくないから、個室は諦めよう。
でも、家族以外の誰かと共同生活なんてした事がないのに隠し通せるのか。
すぐに正体バレるじゃねーか、どうするんだ…誰と同室になるか俺が決めていいらしく保留にしといた。
三人ほど、一人部屋を使っている生徒がいるらしい。
その中の誰かの部屋に、俺が入るという事になる。
…なるべく他人に無関心な奴を同室にしよう、それがいい。
それ以外は、正直誰でもいい…誰が同室でもなにか変わる事もない。
家より寮の方がマシだから寮を諦めない…あの学校くらいしか良いところはなかった。
流石にプライベートスペースくらいあるだろ、そこでのんびり一人でいるしかない。
24時間休まずずっとカツラをしているのはしんどい。
でも、うっかり見られる場合も考えたら外すのは危険だ。
カツラを外せる場所はなくなったが、それを選んだのは俺だ…仕方ない。
そして気になる事がもう一つあった、これも重要だ。
前の学校では両親が校長に「大切な息子だから特別に扱うように」と言ったらしく、教師達が媚を売り気持ち悪かった。
もしかしたらまたそんな事はないだろうなとマネージャーを見た。
マネージャーはSTAR RAINだけではなく、俺の事を頼まれたりする。
社長である父には逆らえないから、学校関連は代わりにマネージャーがやったりする。
仕事以外のプライベートな嫌な事をやらせるなよ。
もう小さな子供じゃないし、俺は学校では優等生を演じている。
俺の周りでの評価は緋色の評価に繋がるのを分かっている。
そして、自分が自分でなくなるのも分かるから素になりたい。
俺は緋色ではなく、河原飛鳥という人間なんだ。
「また前の学校みたいに両親がなにか言ったりしないよな」
「えっ!?…ま、まさか!ははははっ」
なんか胡散臭いが、まぁもしそうなったら校長に直接やめてくれと言うつもりだからどちらでも良い。
秘書にも言うと「言っておきます」と曖昧な返事をされた。
絶対にさせないと言わないところが父の秘書らしいと思った。
そこまで言わないと、俺は普通の高校生活は出来ない。
そして俺は男子校に転校して運命の出会いをした。
三条優紀、それがあの時トイレで出会った少年の名前だった。
同じクラスだったのでさえ驚きなのに、まさか正体までバレるとは思わなかった。
相変わらずエロい唇しやがってと思ったら、正体を見られたとかそんな事どうでも良くなっていた。
俺は変装も何もしていない状態で緋色としてキスをしていた。
姿は緋色だけど、心は何も飾らない河原飛鳥として…
弱っていない普通の状態でキスをしたのに、何故か受け入れられた。
自分で言うのも可笑しいが、大丈夫か?襲われそうで心配だ。
襲った俺が言うのも変な話だけど…
バレたから転校も考えなきゃいけないな、面倒だ。
でも弱味だとは思われたくなくて強気でバレた事は大した事じゃないと言うとまさかの言葉が返ってきた。
日本でSTAR RAINを知らない奴がいるとは思わなかった、俺の金髪…かなり目立つと思うけど…
知らない奴が居たとしても、赤子くらいだろ…誰もが一度くらい見た事があるだろと自分でも思うほどの有名人だと思っていた。
自惚れではなく、それは事実だ。
コイツの友達は知っていたのに、三条自身は全くアイドルに興味がなさそうだ。
俺が緋色だって擦り寄る周りの人間とは違う。
こういう奴を求めていたんだ、トイレで会ったあの時から…
ますます興味が惹かれた、コイツなら同室者でも素が出せる。
でも変だな、なんでこんなに胸が痛くなるんだ?
こんな気持ち、俺は知らない…何も知らない筈だ。
その胸の苦しみが恋だと気付くのはもう少し後の話。
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