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運命の出会い
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トイレに向かっていった男に何となく付いて行く。
俺とぶつかったから具合悪くなったとか言うなよ、さすがにそれは無関心でいるほど冷徹ではない。
ちょっと様子を見てすぐに帰ろうと軽い気持ちだった。
ただのトイレなら別にいい、俺もそんな趣味はないしな。
トイレに入ると呻き声が聞こえて帰ろうとしていた足を止めた。
奥の個室から声がして、個室に向かう。
そこには身体を丸まらせて苦しそうに吐いている男がいた。
そこまで具合が悪かったのかと思って驚いて、背中に触れる。
「あんた、大丈夫か?」
「…はぁ……へ?」
吐いてるのに夢中で俺には気付いていないようだった。
驚いた顔をしているが、男にとっては今それどころじゃないようだ。
背中を撫でると少しは楽になったのかため息が漏れていた。
同じ歳みたいだから酒に酔って吐いたわけじゃないよな。
頷いたのを見て救急車は必要なさそうだなと安心した。
とはいえ俺のせいかもしれないし、水ぐらい渡した方がいいよな…なんか自力で水を調達出来そうにないし、さすがに公衆トイレの洗面所の水は綺麗ではない。
一度男から離れて公衆トイレを出てすぐ近くにある自販機から水を買う。
ここまで来たらお人好しの気がするが、トイレまで付いて行ったのは俺だからな。
よく撮影現場に差し入れはするが、見ず知らずの他人に奢るのは初めてだな。
まぁ、別に水ぐらいでどうこう言うつもりはないけど…
自販機から水が入ったペットボトルを取り出してトイレに戻る。
別に見ていられなかっただけだ…さっさと渡して帰ろう、そう思っていた。
「ははっ、向こうは遊びでもこっちは本気だったっての!…うっ、くっ…」
「………」
足を止めて、個室をまた覗き込むとそんな声が聞こえた。
自暴自棄になっているような声に混じって、泣いているような声も聞こえる。
女にフラれたのか、もしかしてそれで吐いたとか?
…なんだそれ、馬鹿だなと呆れてため息を吐く。
俺には理解できない、フラれたぐらいで吐くとか…どんだけ心が弱いんだよ。
恋愛をしたいと思っていないから、そんな悩みを抱えているのは馬鹿らしく感じた。
男の前に立つ、まだ泣いてるのか……男なんだからそんな事くらいでメソメソ泣く…
「っ!?」
さっきは背中を向いていて、顔をろくに見ていなかった。
今は正面を向いていて、壁に寄りかかっている。
結構綺麗な顔をしていたんだな、気付かなかった。
その顔なら、いくらでも恋愛出来そうなものなのに…
涙がキラキラ光って触ったら消えそうに思えた。
いろんな芸能人を見てきたが、ここまで惹かれるのはなんでだろう。
男に思うような感想じゃないなと苦笑いしているが、目を逸らせなかった。
さっきはすぐに帰ろうと思ってたのに、何だかほっとけない。
俺にすがりついているような顔をしていたからだろうか。
俺にこんな優しさがあるなんて、自分でも驚きだ。
ペットボトルを男の頬に当てるとうっとりした顔をした。
……なんだその顔、変な気持ちになるだろ…やめろ。
「それ飲んでいいよ、少しは楽になる」
なにがあったのか分からないが、口の中を綺麗にした方がいい。
男のために買ってきたから、受け取らないと俺が困る。
ペットボトルを受け取ったのを見てから、手を離した。
早くこの場所から出よう、じゃないと俺の今まで被っていた仮面が壊れそうで…怖かった。
帰ろうと一歩下がると男はペットボトルのキャップに苦戦していた。
…あー…ったく、なんで俺がここまで面倒見なきゃならないんだよ。
男からペットボトルを奪い取り、キャップを開ける。
ペットボトルを渡そうとしたら男は口を開けていた。
自分で飲めと言いたかったが、目線が口元に釘付けになった。
赤い舌が妖艶に動いていて、なんかイライラしてきた。
……なんだよ、誘ってんのか?男に何考えているのか…俺自身も変だ。
最近仕事のし過ぎか、俺の思考もバグってるな。
吐いた後とか男とか、もう何も考えられなかった。
俺のキラキラ輝いていた偽りの仮面にヒビが入る音がした。
ずっと、剥がれなかったのにこんなに簡単になくなるものなんだと思った。
しかも初対面の男に無自覚でだ、俺の今までってなんだったんだろう。
マスクをずらして、無我夢中で男とキスをした。
キスなんてした事なかったが、こんなに理性がなくなるものなんだな。
ペットボトルの水を口移しで飲ませるともっととねだるように俺の舌に絡み付いてくる。
それが何だか可愛くてずっとこうしていたいと思っていた。
しかしそれは俺のスマホの着信音で終わった。
良いところだったのにと舌打ちしてスマホの画面を見たらマネージャーの名前があった。
面倒だが、無視すると後で更に面倒な事になるな。
俺とぶつかったから具合悪くなったとか言うなよ、さすがにそれは無関心でいるほど冷徹ではない。
ちょっと様子を見てすぐに帰ろうと軽い気持ちだった。
ただのトイレなら別にいい、俺もそんな趣味はないしな。
トイレに入ると呻き声が聞こえて帰ろうとしていた足を止めた。
奥の個室から声がして、個室に向かう。
そこには身体を丸まらせて苦しそうに吐いている男がいた。
そこまで具合が悪かったのかと思って驚いて、背中に触れる。
「あんた、大丈夫か?」
「…はぁ……へ?」
吐いてるのに夢中で俺には気付いていないようだった。
驚いた顔をしているが、男にとっては今それどころじゃないようだ。
背中を撫でると少しは楽になったのかため息が漏れていた。
同じ歳みたいだから酒に酔って吐いたわけじゃないよな。
頷いたのを見て救急車は必要なさそうだなと安心した。
とはいえ俺のせいかもしれないし、水ぐらい渡した方がいいよな…なんか自力で水を調達出来そうにないし、さすがに公衆トイレの洗面所の水は綺麗ではない。
一度男から離れて公衆トイレを出てすぐ近くにある自販機から水を買う。
ここまで来たらお人好しの気がするが、トイレまで付いて行ったのは俺だからな。
よく撮影現場に差し入れはするが、見ず知らずの他人に奢るのは初めてだな。
まぁ、別に水ぐらいでどうこう言うつもりはないけど…
自販機から水が入ったペットボトルを取り出してトイレに戻る。
別に見ていられなかっただけだ…さっさと渡して帰ろう、そう思っていた。
「ははっ、向こうは遊びでもこっちは本気だったっての!…うっ、くっ…」
「………」
足を止めて、個室をまた覗き込むとそんな声が聞こえた。
自暴自棄になっているような声に混じって、泣いているような声も聞こえる。
女にフラれたのか、もしかしてそれで吐いたとか?
…なんだそれ、馬鹿だなと呆れてため息を吐く。
俺には理解できない、フラれたぐらいで吐くとか…どんだけ心が弱いんだよ。
恋愛をしたいと思っていないから、そんな悩みを抱えているのは馬鹿らしく感じた。
男の前に立つ、まだ泣いてるのか……男なんだからそんな事くらいでメソメソ泣く…
「っ!?」
さっきは背中を向いていて、顔をろくに見ていなかった。
今は正面を向いていて、壁に寄りかかっている。
結構綺麗な顔をしていたんだな、気付かなかった。
その顔なら、いくらでも恋愛出来そうなものなのに…
涙がキラキラ光って触ったら消えそうに思えた。
いろんな芸能人を見てきたが、ここまで惹かれるのはなんでだろう。
男に思うような感想じゃないなと苦笑いしているが、目を逸らせなかった。
さっきはすぐに帰ろうと思ってたのに、何だかほっとけない。
俺にすがりついているような顔をしていたからだろうか。
俺にこんな優しさがあるなんて、自分でも驚きだ。
ペットボトルを男の頬に当てるとうっとりした顔をした。
……なんだその顔、変な気持ちになるだろ…やめろ。
「それ飲んでいいよ、少しは楽になる」
なにがあったのか分からないが、口の中を綺麗にした方がいい。
男のために買ってきたから、受け取らないと俺が困る。
ペットボトルを受け取ったのを見てから、手を離した。
早くこの場所から出よう、じゃないと俺の今まで被っていた仮面が壊れそうで…怖かった。
帰ろうと一歩下がると男はペットボトルのキャップに苦戦していた。
…あー…ったく、なんで俺がここまで面倒見なきゃならないんだよ。
男からペットボトルを奪い取り、キャップを開ける。
ペットボトルを渡そうとしたら男は口を開けていた。
自分で飲めと言いたかったが、目線が口元に釘付けになった。
赤い舌が妖艶に動いていて、なんかイライラしてきた。
……なんだよ、誘ってんのか?男に何考えているのか…俺自身も変だ。
最近仕事のし過ぎか、俺の思考もバグってるな。
吐いた後とか男とか、もう何も考えられなかった。
俺のキラキラ輝いていた偽りの仮面にヒビが入る音がした。
ずっと、剥がれなかったのにこんなに簡単になくなるものなんだと思った。
しかも初対面の男に無自覚でだ、俺の今までってなんだったんだろう。
マスクをずらして、無我夢中で男とキスをした。
キスなんてした事なかったが、こんなに理性がなくなるものなんだな。
ペットボトルの水を口移しで飲ませるともっととねだるように俺の舌に絡み付いてくる。
それが何だか可愛くてずっとこうしていたいと思っていた。
しかしそれは俺のスマホの着信音で終わった。
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