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王子様
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地獄のような時間は過ぎ去り、やっと息苦しい教室から解放された。
明日は台本合わせとか言っていた…休みたい。
でも、休もうとするとまた凪沙がアパートの近くに来るだろう。
逃げ場なんて何処にもないんだ。
凪沙はまだクラスメイト達に捕まっていて帰れそうにないから今のうちに教室を出た。
とぼとぼ歩いていたら、部活の声なのか何処からか声がした。
何となく気になってしまい声がした場所に近付く。
此処は、演劇部の部室か…
ヒロインにならなきゃ客観的に見えたが今は一番見たくないな。
帰ろうと背を向けると演劇部の部室のドアが開いた。
「あれ?こんなところに会うなんて奇遇だね、ももちゃん」
「っ!!…ももちゃんって言わないで下さい」
「えー、だって君桃宮じゃん」
後ろを振り返り驚いた。
白いキラキラしたおとぎ話の王子のような軍服に真っ赤なマント。
艶がある黒髪と整いすぎた切れ長の瞳がこちらを見ていた。
そこにいたのは西洋の王子様だった。
口元が笑っていて堅苦しい感じはしなくて、むしろ気さくな感じがした。
どう言ったらいいか分からず固まってると鼻を摘まれた。
軽く摘ままれただけだが、ヒリヒリと痛かった。
「むぐっ!」
「なーに見惚れてんの?」
会長なのは分かってるが、いつもと違いとても清潔感があって別人みたいに思えた。
服だけでこんなに違うものなのか。
鼻を押さえて会長を見るとニヤニヤ笑っていた。
そういえば生徒会も劇やるんだっけ。
会長は見た目だけ見ると硬派な感じで真面目で優しい王子様だ。
凪沙なら色気と気だるい感じで女性を魅了する軟派な王子様になりそうだなと思った。
「まだ残ってたんだ、部活やってたっけ?」
「…いえ、ちょっと」
まさか生徒会と対抗して劇をやり自分がヒロインなんて言えるわけもなく濁す。
劇については生徒会に情報が行くだろうが、誰がどの役かまでは分からないだろうからこのまま黙っておこう。
生徒会は王子様が出てくる話をやるのだろうか。
確かこちらの劇も生徒会の舞台を借りてやるから似たような王子様とお姫様のラブストーリーだった筈だ。
会長のこの姿を見たら福田も対抗しようとは思わなかっただろうな。
会長と互角なのは凪沙ぐらいしかいないし…俺なんか特にお粗末だし…
「ふーん」と特に深く聞く事はせず会長は部室に顔を出す。
「サイズはピッタリだよ、ありがとう」
「そうですかー、じゃあちょっと袖直ししますねー」
「じゃあ俺は、帰ります…さようなら」
なんか忙しそうだったからそう言うと会長は手を振った。
俺も手を振り部室の中に入る会長を見送った。
さて帰ろうと来た道を見てドキリとした。
いつの間にいたのだろうか、気付かなかった。
壁にもたれかかりこちらを見ている凪沙がいた。
無表情で何を考えてるか分からないのが余計に怖い。
そのまま素通りしようと凪沙の前を通りかかろうとしたが、声を掛けられ無意識に足を止めた。
「随分親しいんだね、ももちゃん」
「…別に、そんなんじゃ」
「こんなのじゃなくて…本物で繋ぎ止めないといつか誰かに攫われちゃうね」
グイッと包帯を掴まれて引き寄せられる。
首が締まり息が苦しくなる。
包帯を外され痣が露わになる。
ゆっくりとなぞられゾクッと嫌な汗が流れる。
その手はそのまま唇をなぞる。
それで初めて気付いた、凪沙の手には俺と同じ包帯が巻かれていた。
しかしそんな事を気にせず凪沙はまっすぐと俺を見た。
「ももちゃん、劇の練習しようか」
「……え」
「劇のワンシーンにはこんな話がある、姫を愛している王子は姫が他の男に取られないようにおまじないを掛ける、永遠に誓い…」
凪沙に見つめられるとまるで見えない鎖に拘束されたように抵抗出来なくなる。
そのおまじないは呪いのように縛り囚われる。
唇が重なる、そうする事が当たり前のように自然と…
口をこじ開けられて舌が口内に侵入して絡み合う。
抵抗出来ず人形のようにされるがままだった。
まるで麻薬だ、一度知ると逃げ出す事が出来ない…全てを支配する麻薬。
「ももちゃん…」
熱のこもった声でそう呟く。
きっと彼女にもそうやってるのだろう。
そう思ったらゾワッと気持ち悪い感情が湧き上がってきて、力一杯凪沙を押す。
凪沙はすぐに離れた。
なんだ今の、ただ凪沙と彼女もこうやってキスするのかと想像しただけで気持ち悪くなった。
知らない感情、それは決していいものではない。
口を制服の袖で拭う。
「ももちゃん?」
「お、れは…ももちゃんじゃない!」
明日は台本合わせとか言っていた…休みたい。
でも、休もうとするとまた凪沙がアパートの近くに来るだろう。
逃げ場なんて何処にもないんだ。
凪沙はまだクラスメイト達に捕まっていて帰れそうにないから今のうちに教室を出た。
とぼとぼ歩いていたら、部活の声なのか何処からか声がした。
何となく気になってしまい声がした場所に近付く。
此処は、演劇部の部室か…
ヒロインにならなきゃ客観的に見えたが今は一番見たくないな。
帰ろうと背を向けると演劇部の部室のドアが開いた。
「あれ?こんなところに会うなんて奇遇だね、ももちゃん」
「っ!!…ももちゃんって言わないで下さい」
「えー、だって君桃宮じゃん」
後ろを振り返り驚いた。
白いキラキラしたおとぎ話の王子のような軍服に真っ赤なマント。
艶がある黒髪と整いすぎた切れ長の瞳がこちらを見ていた。
そこにいたのは西洋の王子様だった。
口元が笑っていて堅苦しい感じはしなくて、むしろ気さくな感じがした。
どう言ったらいいか分からず固まってると鼻を摘まれた。
軽く摘ままれただけだが、ヒリヒリと痛かった。
「むぐっ!」
「なーに見惚れてんの?」
会長なのは分かってるが、いつもと違いとても清潔感があって別人みたいに思えた。
服だけでこんなに違うものなのか。
鼻を押さえて会長を見るとニヤニヤ笑っていた。
そういえば生徒会も劇やるんだっけ。
会長は見た目だけ見ると硬派な感じで真面目で優しい王子様だ。
凪沙なら色気と気だるい感じで女性を魅了する軟派な王子様になりそうだなと思った。
「まだ残ってたんだ、部活やってたっけ?」
「…いえ、ちょっと」
まさか生徒会と対抗して劇をやり自分がヒロインなんて言えるわけもなく濁す。
劇については生徒会に情報が行くだろうが、誰がどの役かまでは分からないだろうからこのまま黙っておこう。
生徒会は王子様が出てくる話をやるのだろうか。
確かこちらの劇も生徒会の舞台を借りてやるから似たような王子様とお姫様のラブストーリーだった筈だ。
会長のこの姿を見たら福田も対抗しようとは思わなかっただろうな。
会長と互角なのは凪沙ぐらいしかいないし…俺なんか特にお粗末だし…
「ふーん」と特に深く聞く事はせず会長は部室に顔を出す。
「サイズはピッタリだよ、ありがとう」
「そうですかー、じゃあちょっと袖直ししますねー」
「じゃあ俺は、帰ります…さようなら」
なんか忙しそうだったからそう言うと会長は手を振った。
俺も手を振り部室の中に入る会長を見送った。
さて帰ろうと来た道を見てドキリとした。
いつの間にいたのだろうか、気付かなかった。
壁にもたれかかりこちらを見ている凪沙がいた。
無表情で何を考えてるか分からないのが余計に怖い。
そのまま素通りしようと凪沙の前を通りかかろうとしたが、声を掛けられ無意識に足を止めた。
「随分親しいんだね、ももちゃん」
「…別に、そんなんじゃ」
「こんなのじゃなくて…本物で繋ぎ止めないといつか誰かに攫われちゃうね」
グイッと包帯を掴まれて引き寄せられる。
首が締まり息が苦しくなる。
包帯を外され痣が露わになる。
ゆっくりとなぞられゾクッと嫌な汗が流れる。
その手はそのまま唇をなぞる。
それで初めて気付いた、凪沙の手には俺と同じ包帯が巻かれていた。
しかしそんな事を気にせず凪沙はまっすぐと俺を見た。
「ももちゃん、劇の練習しようか」
「……え」
「劇のワンシーンにはこんな話がある、姫を愛している王子は姫が他の男に取られないようにおまじないを掛ける、永遠に誓い…」
凪沙に見つめられるとまるで見えない鎖に拘束されたように抵抗出来なくなる。
そのおまじないは呪いのように縛り囚われる。
唇が重なる、そうする事が当たり前のように自然と…
口をこじ開けられて舌が口内に侵入して絡み合う。
抵抗出来ず人形のようにされるがままだった。
まるで麻薬だ、一度知ると逃げ出す事が出来ない…全てを支配する麻薬。
「ももちゃん…」
熱のこもった声でそう呟く。
きっと彼女にもそうやってるのだろう。
そう思ったらゾワッと気持ち悪い感情が湧き上がってきて、力一杯凪沙を押す。
凪沙はすぐに離れた。
なんだ今の、ただ凪沙と彼女もこうやってキスするのかと想像しただけで気持ち悪くなった。
知らない感情、それは決していいものではない。
口を制服の袖で拭う。
「ももちゃん?」
「お、れは…ももちゃんじゃない!」
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