桃の木かくれんぼ

蜜柑大福

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ももちゃん.

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ーーー

昼休みになり、風太と共に昼飯を食べる場所を探す。

「屋上は不良のたまり場だし、裏庭はいっぱい人がいるし…教室は…白川くんがいるし」

「じゃあこの階段でいいんじゃない?」

すっかり風太は凪沙が怖くなり教室で大勢と食べる凪沙の近くには寄りたくなくて教室から離れた場所をうろうろする。

俺が指差した階段は3階だから上はなく下が空き教室だから人気がないから人の出入りもないだろうと提案する。

まだ春でも肌寒いが我慢できないほどではない。

それに廊下を照らす窓から太陽が見えてほんのり暖かい。

風太は頷きここで食べる事にした。

じゃんけんして、誰が購買に買い出しに行くのか決める。

「ぎゃー!!負けたぁ!和音じゃんけん強いね!」

「…そんな事ないよ」

いつも凪沙とのじゃんけんに負けてるから強くはない。

そういえばかくれんぼの時、凪沙が勝ったのにいつも鬼をしていて不思議だった。

…じゃんけんの勝ち負けを分かってるのか不思議だった…もう知らないままでいいけど…

風太が「適当になんか買ってくる!」と言って走っていく。

先生に怒られなきゃいいけど、と微笑む。

普通の友達付き合いってこんなものなのかと思っていた。

「…楽しそうだね」

「っ!?」

ドクドクと心臓がうるさく響く、階段の方に誰かいる。

背中を向けてるから無視すれば見えないが、一つ一つ階段をのぼっていく。

なんで、教室に居たのではないのか?

まるでずっと見ていて風太がいなくなったタイミングで出てきたようだ。

太陽の温もりを感じないほど身体が冷える。

それ以上近付いてほしくなくて振り返る。

「な、なんで…此処に?」

「なんで?俺がももちゃんに会いに行くのに理由があるの?」

「ももちゃん」やはり知っているんだ、彼は…

階段をのぼる足を止めてクスクス笑い、癖なのか首の後ろに手を当ててこちらを見ている。

その瞳は昔のあの頃と変わってない。

光を失って何を考えているか分からない怖い瞳。

震える腕を押さえて無理矢理震えを止める。

言わなきゃ…もう、関わりたくない。

「お、れはももちゃん…じゃない」

「何言ってるの?俺はずっと忘れなかったんだから、ももちゃんだって忘れてないよね?」

「…し、らない…君なんて」

声が震えてまっすぐ凪沙を見れず下を向く。

凪沙は上るのを再開してどんどん距離が近付く。

どのくらい近付いたのか分からず、下を向いていると視界に影が重なる。

至近距離で声を掛けられた「ももちゃん」と

涙が溢れて止まらない…

誰か、誰か助け…

「ぼ、僕の友達に何してんの?白川くん」

救いの声がしてすぐに声がした方向を見た。

そこには怯えているが俺のを助けようとしている風太が立っていた。

風太は俺達に近付き小さい身体で俺を庇おうと俺と凪沙の間に立つ。

風太に守られる自分がとても情けなく感じた。

本人はかなり怖いだろうに風太はまっすぐと凪沙を見た。

凪沙は恐ろしいほどの無表情で見ていた。

「…和音、どうかしたの?」

「お、俺はももちゃんじゃ…ない」

凪沙の視線が鋭くなったような気がして空気がピリピリする。

風太はよく分からず考えている。

…否定するならちゃんとしないと…怪しまれる。

でも、もう他にいい言い訳が思い付かない。

それに俺が否定する度に凪沙が怒ってるようで何も言えなくなる。

やっぱり、自分は昔のまま…何も出来ず立ってる事しか出来ないのか。

「ももちゃんって白川くんの彼女の事じゃないの?噂になってるし」

「………」

「確かに桃宮だからももちゃんだけど、白川くんの勘違いじゃないの?」

俺の思ってる事を代弁してくれている風太を見る。

凪沙は何も言わない、それがとても怖かった。

信じてるのか信じてないのか分からない……多分信じていないのだろう。

そして風太は思い出したように俺を見た。

俺は首を傾げて風太を見る。

ただ見ただけなのに凪沙の視線が突き刺さる。

「そういえば隣のクラスに桃宮って奴いるんだよ、珍しい名前で和音と同じ苗字だから覚えてたんだ」

「…え」

さっきまで黙っていた凪沙が声を出した。

俺も同じ苗字の人がいるとは思わず驚いた。

「ももちゃんって、もしかしてソイツじゃないの?」

自分の他に桃宮がいたなんて気付かなかった。

よくいる名前ではないのは分かる。
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