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第四章 6月
子羊の悩みは尽きなくても 2
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『柚鈴ちゃんに助言者が出来なければ私は嬉しい。でもそれは常葉学園の方針の一つに逆らうことになる希望よ。なにかに逆らう時はリスクを負うのは仕方ないわ。嫌なら黙って受け入れるしかない。でも私は柚鈴ちゃんが助言者を持たないと言ってくれたことが嬉しかったわ。だから黙って受け入れるつもりなんてないのよ』
「…そ、そうですか」
『柚鈴ちゃんが知っている通り、私は自分の欲望には忠実なの。そして全てがなんの障害もなく手に入るなんて思ってはいないわ』
「思ってないんですか」
『もちろん思っていないわ。ただ選択すべきときに責任を持って選択するだけ。確かに運や巡りあわせは良い方かもしれないけれど、だからと言って人生で得ばかり出来るわけはないわ。自分で選んだ分、そこに付随するものも受け入れて、何かの時はちゃんと矢面に立つつもりもあるのよ』
少々意外な答えだった。
いつもどこかマイペースに思える志奈さんは、たまにこうして確かに生徒会長として立っていたんだろうという片鱗を柚鈴に見せる。
それはどこか冷めているようで、利己的なのだが冷静な一面だと思えた。
そして、それぐらいの気持ちを持って、柚鈴にバッチを渡していたという気持ちが見えて、少し嬉しく感じたてしまったのだ。
『今、ちょっと姉として格好良かった?』
…ここで柚鈴の反応を期待しなければ完璧なのだが。
だがそこが、志奈さんの人間味を感じて、ほっとする瞬間でもある。
「それを言わなければ、多少は…」
『あら、しまったわ。チャンスを逃してしまったなんて』
冷静を装って柚鈴が言うと、ふふっと志奈さんは自重するように笑った。
それから、柚鈴の心情を透かして見るように切り出した。
『気が進まない?』
「え?」
『私のバッチをつけること』
「…まあ、嘘は気持ちのいいものではないです」
そう正直に答えると、志奈さんは穏やかに言った。
『嘘と思わなければいいのではない?』
「はい?」
『柚鈴ちゃんのお姉さまたる位置にいるのは私だけだと思って、そのバッチをつければ、それは嘘ではないんじゃないかしら?』
「…」
それは筋の通った話ではなかった。
志奈さんは卒業生で、もらったバッチは助言者のバッチではない。
つく嘘は、助言者が既にいるという嘘ではない。
生徒会の手伝いをしているという嘘だ。
でも、志奈さんの言葉は妙に柚鈴の胸に染みた。
私のお姉さまは、志奈さん、だけ…?
その言葉はなんだか魅惑的で、甘い毒のようなものを感じる。
その感覚がどこか危険にも感じて、柚鈴はざわつく心を誤魔化すように、わざと大きなため息をついた。
それこそ、電話越しの志奈さんにも聞こえるようにはっきりと。
「言ってることの意味、全然分からないです」
もちろん、全然、というのは嘘だ。
意味を説明しろと言われれば出来ないけれど、心では志奈さんの言いたいことはなんとなく察していた。
だけど、まだ認めたくない気がした。
『あら、残念』
柔らかなソプラノの声は優しく、柚鈴が誤魔化すのを見逃してくれた気がした。
こういった時に追い詰めないのが志奈さんなのだろう。
「でも志奈さんの言う通り、生徒会メンバーは良いと言ってくれましたから、明日からバッチつけてみます」
『酷いわ。私のアドバイスのおかげじゃないなんて』
「はいはい。結局志奈さんの思い通りなんだからいいじゃないですか。で、体育祭のお願い事決めたんですか?」
柚鈴は強引に話を切り替えた。
『まだなの。悩んじゃって』
「そ、そうですか。そんなに悩んでるんですか。いや、そんな悩まなくても…」
『ゆ~っくり悩むわね』
心の底から嬉しそうな声に、この人は本当に仕方ない、と思いつつ。
柚鈴は何故か口元が緩んだ。
一瞬慌てて手で隠したが、見られていないのだからいいだろう。
そう言い訳をして、隠した手を離したのだった。
「…そ、そうですか」
『柚鈴ちゃんが知っている通り、私は自分の欲望には忠実なの。そして全てがなんの障害もなく手に入るなんて思ってはいないわ』
「思ってないんですか」
『もちろん思っていないわ。ただ選択すべきときに責任を持って選択するだけ。確かに運や巡りあわせは良い方かもしれないけれど、だからと言って人生で得ばかり出来るわけはないわ。自分で選んだ分、そこに付随するものも受け入れて、何かの時はちゃんと矢面に立つつもりもあるのよ』
少々意外な答えだった。
いつもどこかマイペースに思える志奈さんは、たまにこうして確かに生徒会長として立っていたんだろうという片鱗を柚鈴に見せる。
それはどこか冷めているようで、利己的なのだが冷静な一面だと思えた。
そして、それぐらいの気持ちを持って、柚鈴にバッチを渡していたという気持ちが見えて、少し嬉しく感じたてしまったのだ。
『今、ちょっと姉として格好良かった?』
…ここで柚鈴の反応を期待しなければ完璧なのだが。
だがそこが、志奈さんの人間味を感じて、ほっとする瞬間でもある。
「それを言わなければ、多少は…」
『あら、しまったわ。チャンスを逃してしまったなんて』
冷静を装って柚鈴が言うと、ふふっと志奈さんは自重するように笑った。
それから、柚鈴の心情を透かして見るように切り出した。
『気が進まない?』
「え?」
『私のバッチをつけること』
「…まあ、嘘は気持ちのいいものではないです」
そう正直に答えると、志奈さんは穏やかに言った。
『嘘と思わなければいいのではない?』
「はい?」
『柚鈴ちゃんのお姉さまたる位置にいるのは私だけだと思って、そのバッチをつければ、それは嘘ではないんじゃないかしら?』
「…」
それは筋の通った話ではなかった。
志奈さんは卒業生で、もらったバッチは助言者のバッチではない。
つく嘘は、助言者が既にいるという嘘ではない。
生徒会の手伝いをしているという嘘だ。
でも、志奈さんの言葉は妙に柚鈴の胸に染みた。
私のお姉さまは、志奈さん、だけ…?
その言葉はなんだか魅惑的で、甘い毒のようなものを感じる。
その感覚がどこか危険にも感じて、柚鈴はざわつく心を誤魔化すように、わざと大きなため息をついた。
それこそ、電話越しの志奈さんにも聞こえるようにはっきりと。
「言ってることの意味、全然分からないです」
もちろん、全然、というのは嘘だ。
意味を説明しろと言われれば出来ないけれど、心では志奈さんの言いたいことはなんとなく察していた。
だけど、まだ認めたくない気がした。
『あら、残念』
柔らかなソプラノの声は優しく、柚鈴が誤魔化すのを見逃してくれた気がした。
こういった時に追い詰めないのが志奈さんなのだろう。
「でも志奈さんの言う通り、生徒会メンバーは良いと言ってくれましたから、明日からバッチつけてみます」
『酷いわ。私のアドバイスのおかげじゃないなんて』
「はいはい。結局志奈さんの思い通りなんだからいいじゃないですか。で、体育祭のお願い事決めたんですか?」
柚鈴は強引に話を切り替えた。
『まだなの。悩んじゃって』
「そ、そうですか。そんなに悩んでるんですか。いや、そんな悩まなくても…」
『ゆ~っくり悩むわね』
心の底から嬉しそうな声に、この人は本当に仕方ない、と思いつつ。
柚鈴は何故か口元が緩んだ。
一瞬慌てて手で隠したが、見られていないのだからいいだろう。
そう言い訳をして、隠した手を離したのだった。
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