拝啓、お姉さまへ

一華

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第四章 6月

体育祭のあくる日は 2

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「…まあ、良いのよ。言いにくかったんでしょう?」
「え」
思いがけず優しい理解のある言葉に驚いて柚鈴が目を丸くすると、遥先輩は呆れたようにため息をついて、尊大に腰に手を当てた。
「昨日、インタビューで志奈さまの口から出た言葉には本当に驚いたけれど、謝られるほど怒ってはいなくてよ」
「…そうなんですか?」
柚鈴が半信半疑で聞き返す。
どちらかと言えば、物事に直情的な遥先輩のことだ。絶対怒られると思っていた。
柚鈴の問いに、遥先輩は目を瞬かせて、考えてから自嘲するように笑った。

「そうね。もしかしたらタイミングが良かったのかもしれないわ。私、昨日は別件で怒らなきゃならないことがあって忙しかったの。最初に話を聞いたときは、確かに『どいつもこいつも隠し事して』と思わなかったわけではないわ」
どいつもこいつも…
あまりにも不似合な言葉が出てくるので、やっぱり怖い、と固まってしまう。
柚鈴の様子に気付いた遥先輩は、誤魔化すように、ほほほと口を押えて笑った。
「でもね、その別件が片付いたら、一緒に怒りもすとんと落ち着いたのよ。だから柚鈴さんのことも今は怒っていないというわけ」

…一体、遥先輩のことを何がそんなに怒らせたのか分からないが。
その『隠し事』をした上、遥先輩の怒りを鎮めてくれた人には感謝すべきかもしれない。

「どうせ凛子も知っていたんでしょう?」
「え?あ、そ、そうみたいです。あの、わ、私は言ってないんですけど」
「そんなこと思っていないわ。ただ、こういったことなら凛子の耳には入っていておかしくないもの。やっぱり知っていたの。全く内緒にするなんて仕方がないわね」
凛子先輩が知っていたことが当たり前と言わんばかりに遥先輩は微かに怒気を見せた。

「あの…遥先輩は、どうして凛子先輩が知っていたって思うんですか?」
「だって」
遥先輩は何かを言いかけて止めた。それから少し間を置いて。
「凛子は生徒会メンバーだもの。元生徒会会長である志奈さまの情報は他よりも入るはずでしょう」
「そういう、ものですか?」
何か隠されてような気がしないでもないが。
言わなかったということは、聞いても教えてはくれない気がして、柚鈴は何も聞かないことにする。
遥先輩は軽く頷いてから、話を流すように先に進めた。

「本当に仕方のない人。いいわ、この件は凛子に貸しておくわ」
「凛子先輩にですか?私じゃなくて」
「だって柚鈴さんは今後大変でしょう」
「え?」
「志奈さまの義理の妹として、注目を浴びることになってよ?」
当然のように言われる言葉に、柚鈴の顔は引きつった。

「そう…なんでしょうか?」
「少なくとも好奇心の的になることは間違いないわ」
「…で、でも。遥先輩は今、好奇心の目で見てない…ですよね」
「私は4月から同じ寮で柚鈴さんのことを随分良くしってるもの。今さら好奇心なんてないわ」
認めたくなくて言い返すと、あっさりと遥さんは答えた。
それから、まって、と手で制してから言いなおす。
「お家に帰ると志奈さまがいらっしゃるってどんな気持ちなのか、少しは気になるわ」
「…特にいいものじゃないですけど」
まるきり好奇心、と言った言葉にどうにか笑って答えると、遥先輩なりの冗談だったようで、ふふっと笑って見せた。
「お家の事情で言いにくかったんでしょう?私だってそれくらい理解出来てよ?つい先日、環境が変わりました。義姉が出来ました、なんて、気軽に言えるタイプでは柚鈴さんがないっていうことでしょう」
「…はい」
「ああ、でも。そうね。謝ってもらえるということは、気軽にではなく言ってもいいと私のことを思っていてくれたということかしら。だとしたらありがとう」
「い、いえ…」
柚鈴が言わない言葉の部分を、的確に言い当てる遥先輩に思わずどもってしまう。
確かに好きな先輩ではあるが、そうもストレートに受け入れられると少々照れてしまうのだ。
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