拝啓、お姉さまへ

一華

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第四章 6月

体育祭のあくる日は 4 

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一方、常葉学園高等部。

体育祭の翌日の休日であるというのに、長谷川凛子は野暮用で生徒会室にいた。
常葉学園生徒会室は同窓会館内一階にある。
学園敷地内でも、中々の広さの敷地を使って建てられた同窓会館は、理事会の面々も使用していたことがあり、中にはホール、客間から、調理室も設けられており、その管理をする管理人も存在する。ちょっとした催しやパーティなどが出来るように学園内でも豪奢な作りになっている場所である。
卒業生であるOGが主に使用する場所ではあるが、建前上学園内の施設。在校生もどうにか立ち入りやすいように思案した結果、生徒会室が同居することになっていた。
そしてこのことがまた生徒会メンバーが同窓会の世話をする一因にもなっているのだ。
また様々な行事ごとに、同窓会からの口出しを受けるのも生徒会が主になってしまう。
そうして歴代生徒会の悩みの種になっている事柄に繋がっていくのだ。

とはいえ、常時同窓会の人間がいるわけでもなく、普段の出入りは生徒会メンバーが主。
例えば、今日。
体育祭も終わり熱気も収まって、6月を迎え高等部は静かだった。

生徒会長である長谷川凛子は、その静けさに穏やかに文芸部から提出された原稿の数々に目を通している。
秋に行われる文化祭である常葉祭の生徒会の作品制作のためだ。
毎年常葉祭では、生徒会で一つ作品を提出、もしくは発表するのだが、今年は3年に一度の、兄妹校である尭葉校と共同制作した作品にしなければならない決まりの年。
尭葉学園は、元々はお嬢様校であった常葉学園と対になるように作られた男子校で、名門進学校となる。
昔は保護者を含めて、学園同士の交流をさせ、将来の良き伴侶を引き合わせるようなこともあったようだが、今はそういった風習はほとんどない。
かろうじて残っているものの一つが、この3年に一度の文化祭交流なのだ。
メインはお互いの文化祭へ生徒を招待し合うこと、なのだが、男子校女子校という形があるため、中々足が運べないということのないよう、生徒会が先陣を切り交流をし合い、共同作品を制作するのだ。
その作品は出来るだけ生徒たちが、何度も見たいと思うものであることが望まれる。
つまり自校の文化祭と、相手校の文化祭で。

今年度の初めに、二校の生徒会でまずは意見を出し合い、結果的に三年前の常葉祭にて好評であった生徒会作品と同じく『映画製作』をするということになった。
その後、題材を決めるため、文芸部より案としての作品を募集することになったのだ。
当然主演の一人とされてしまうのが生徒会長の凛子である。となれば題材は人任せに出来ない。
だから休日返上でこうして作品選びをしているのだ。

生徒会に並べられた、決して生徒用とは思えなさそうなアンティークな机の上には、その他に文化祭に向けて合同制作をすることになる尭葉学園と常盤学園の使用可能施設、予算申請案、これまでの前例を一覧にした表が並んでいる。
これらの資料も、実際に使用する作品の内容が決まらなければ、まとめようがない。

ここ数日、随分数をこなして読んでいるので、もさや手慣れたように、一つ一つの原稿を速読していき。
やがて凛子は一つの原稿を見てから手を止めた。
「……これ」
読み返して、目を見開いて、驚いた。

作品としては多少中途半端。
恐らく締め切りぎりぎりになったのだろう。
筋書きだけはどうにかまとめてある。
だが、その内容は凛子の心を掴んでしまった。

少し物憂げに外に目線をやって、思案に耽る。
問題だろうか?でも、選んでいいのであればこれがいい。


そう長谷川凛子にしっかり握られた手のには、1年東組春野幸と名前が記された原稿があった。 
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